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完璧すぎて断罪された悪役令嬢、間違えることにしたら人が助かりました 〜完璧だった私が、間違いを選んだ理由〜  作者: はねださら


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第16話 正しさでは、救えない

 その日は、朝から空気が張り詰めていた。


 理由はすぐに分かる。


「……また悪化してる」


 誰かの声。


 小さく。


 だが、確実に広がる。


 視線が、一点に集まる。


 集落の端。


 簡素な建物の前に、人が集まっている。


「……」


 私は、それを見ていた。


 動かない。


 まだ。


 分からないまま動くべきではない。


 それは、もう理解している。


 だが。


「……様子くらいは見てもいいでしょ」


 後ろから、アメリアの声。


 私は一瞬だけ迷ったが、頷いた。


「ええ」


 そして。


 二人で、その場所へ向かう。


 ――中は、薄暗かった。


 湿った空気。


 重い匂い。


 そして。


 ベッドの上に、一人の少年が横たわっている。


 呼吸が浅い。


 額には汗。


 顔色は、明らかに悪い。


「……」


 私は、無意識に一歩近づいていた。


「昨日よりひどいな」


 低い声。


 振り返る。


 一人の男が立っていた。


 無精髭。


 無愛想な表情。


 だが、その目は鋭い。


「水も飲めてない」


 男は、淡々と言う。


「このままだと、持たない」


 その言葉に、周囲の空気が沈む。


「……何か方法は?」


 誰かが、かすれた声で問う。


 男は、首を振った。


「薬が足りない」


 短い答え。


「王都からの補給も止まってる」


 沈黙。


 それで、すべてが分かる。


 ――足りない。


 圧倒的に。


「……」


 私は、少しだけ考える。


 状況。


 原因。


 解決策。


 頭の中で、組み立てる。


 そして。


「……水と、清潔な布を」


 口に出す。


 自然に。


 迷いなく。


 周囲の視線が、こちらに集まる。


「体温を下げて、呼吸を安定させるべきよ」


 理屈としては正しい。


 少なくとも。


 これまでの知識では。


「……誰?」


 男が、私を見る。


 値踏みするように。


「リリアーナ」


 私は答える。


 それ以上は言わない。


「……で?」


 男は、続ける。


「それで治るのか?」


 ――。


 一瞬。


 言葉が止まる。


 だが。


「可能性はあるわ」


 私は答える。


 正確に。


「放置するよりは、確実に」


 沈黙。


 男は、しばらく私を見ていた。


 やがて。


「……やってみろ」


 そう言った。


 短く。


 それだけ。


 私は頷く。


 そして。


 動く。


 指示を出す。


 水を運ばせ。


 布を用意させ。


 少年の状態を確認する。


 ――手は、迷わなかった。


 これまでの経験が、自然に動く。


 やるべきことは分かる。


 順序も。


 優先順位も。


「……」


 作業は、進む。


 効率よく。


 無駄なく。


 そして。


 ――数十分後。


「……」


 私は、手を止めた。


 少年の呼吸は。


 変わらない。


 浅く。


 弱いまま。


「……どう?」


 誰かが聞く。


 私は、答えない。


 答えられない。


「……意味ないよ」


 後ろから、アメリアの声。


 静かに。


「これじゃ」


 ――。


 私は、ゆっくりと振り返る。


 彼女は、こちらを見ている。


 まっすぐに。


 逃げずに。


「……なぜ?」


 私は問う。


 理解したい。


 正確に。


「だって」


 アメリアは言う。


「原因、違うでしょ」


 ――。


 その一言で。


 すべてが、止まる。


「……原因?」


「うん」


 彼女は頷く。


「水とか熱とかじゃないよ」


「では、何?」


 私は問う。


 すぐに。


 迷いなく。


 だが。


 答えは。


「分かんない」


 だった。


 あっさりと。


「……分からない?」


「うん」


 彼女は肩をすくめる。


「でも、違うのは分かる」


 ――。


 その言葉は。


 理解できない。


 理屈として。


「……それでは」


「無理だよ」


 遮られる。


「そういうの」


 沈黙。


 私は、言葉を失った。


 理屈が通らない。


 説明がない。


 原因が不明。


 それでも。


 “違う”と判断する。


「……」


 私は、もう一度少年を見る。


 そして。


 自分のやったことを、振り返る。


 正しい手順。


 適切な処置。


 無駄のない判断。


 ――なのに。


「……足りない」


 小さく呟く。


 何かが。


 決定的に。


「……違う」


 もう一度。


 今度は、はっきりと。


 私のやり方は。


 正しい。


 だが。


 それだけでは。


「……救えない」


 その事実が。


 静かに。


 重く。


 胸に落ちる。


 ――初めてだった。


 “正しさ”が。


 意味を持たなかったのは。


「……」


 私は、何もできずに立っていた。


 目の前で。


 少年の呼吸が、浅く続いている。


 それを。


 ただ。


 見ていることしか、できなかった。

第16話まで読んでいただきありがとうございます。


ここで主人公は初めて、「正しいのに救えない」という壁にぶつかりました。


これまでの世界では、正しさ=結果でしたが、この場所ではそうではありません。

このズレが、物語の大きな軸になります。


次話では、この状況がさらに悪化し、主人公が“選択”を迫られます。

ここで一つ、大きな感情の波が来ます。


少しでも続きが気になると思っていただけたら、ブックマークしていただけると嬉しいです。

感想もとても励みになります。

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