表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧すぎて断罪された悪役令嬢、間違えることにしたら人が助かりました 〜完璧だった私が、間違いを選んだ理由〜  作者: はねださら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/35

第17話 それでも、選ばなければならない

 時間が、ゆっくりと削れていく。


 それが分かる。


 目の前で。


 確実に。


「……」


 少年の呼吸は、さらに浅くなっていた。


 さきほどよりも。


 確実に。


「……まだ?」


 誰かの声。


 期待ではない。


 確認でもない。


 ただ。


 限界の近い問い。


「……」


 私は、答えられなかった。


 答えが、ないから。


 ――正確には。


 “正しい答え”が、ない。


 これまでのように。


 最適解が、出てこない。


「……どうするの」


 今度は、アメリアだった。


 少しだけ、低い声。


 先ほどよりも、真剣な響き。


「……どう、とは?」


 私は、問い返す。


 時間を稼ぐためではない。


 理解するために。


「このまま、何もしないの?」


 ――。


 その言葉が。


 突き刺さる。


 何もしない。


 それは。


 さきほど自分で選んだことだ。


 分からないなら、動かない。


 それが、合理的だと。


 そう判断した。


 ――だが。


「……違う」


 私は、小さく呟く。


 それは。


 “何もしない”とは違う。


 これは。


 “何もできない”だ。


 意味が、違う。


 決定的に。


「……」


 私は、目を閉じる。


 考える。


 もう一度。


 状況。


 手段。


 可能性。


 すべてを。


 だが。


 答えは、出ない。


 ――出るはずがない。


 前提が足りないのだから。


「……なら」


 私は、目を開ける。


 そして。


 初めて。


 別の選択肢を考える。


 ――正しくない可能性。


「……あなた」


 私は、振り返る。


 あの男。


 無愛想な医師。


「他に方法は?」


 問う。


 初めて。


 “他人に頼る”形で。


「ない」


 即答。


 迷いもなく。


「……本当に?」


「ない」


 繰り返す。


「だから、諦めろ」


 その言葉に。


 空気が、沈む。


 重く。


 静かに。


 ――諦める。


 それが。


 この場の“現実”。


「……」


 私は、ゆっくりと息を吐く。


 考える。


 最後に。


 もう一度だけ。


 だが。


 やはり。


 答えは出ない。


 ――なら。


「……」


 私は、少年を見る。


 浅い呼吸。


 弱い脈。


 そして。


 消えかけている意識。


「……」


 選ばなければならない。


 ここで。


 何かを。


 ――正しさではない。


 結果でもない。


 ただ。


 今、この瞬間のための選択。


「……」


 私は、手を伸ばす。


 少年の手を取る。


 冷たい。


 驚くほど。


「……リリアーナ?」


 アメリアの声。


 少しだけ、戸惑っている。


 当然だ。


 これは。


 これまでの私のやり方ではない。


「……分からないわ」


 私は、静かに言う。


 はっきりと。


「どうすればいいのか」


 その言葉は。


 初めて。


 誰かに向けて言ったものだった。


「……」


 アメリアは、何も言わない。


 ただ、見ている。


「でも」


 私は続ける。


「何もしないのは、違う」


 それだけは。


 分かる。


 はっきりと。


「……」


 沈黙。


 そして。


 私は。


 ゆっくりと、口を開いた。


「……名前は?」


 小さく。


 少年に向けて。


 問いかける。


 意味があるかどうかは、分からない。


 それでも。


「……ルカ」


 かすれた声が、返ってきた。


 ほとんど聞こえないほどの。


 それでも。


 確かに。


「……ルカ」


 私は、その名を繰り返す。


 確認するように。


 忘れないように。


「……大丈夫よ」


 次に出た言葉は。


 自分でも、驚くほど。


 ――根拠がなかった。


 正しさも。


 保証も。


 何もない。


 ただ。


 言っただけ。


「……」


 ルカの目が、わずかに動く。


 焦点は合っていない。


 それでも。


 確かに。


 こちらを、見た。


 ――その時。


「……水」


 かすかな声。


 ほとんど消えそうな。


 それでも。


 はっきりと。


「……水?」


 私は、思わず聞き返す。


 だが。


 それ以上の言葉はなかった。


 ただ。


 呼吸が、揺れる。


「……」


 私は、すぐに動いた。


 近くの水を手に取る。


 そして。


 慎重に。


 ゆっくりと。


 ルカの口元へ。


「……」


 少しずつ。


 ほんの少しだけ。


 水が、喉を通る。


「……」


 周囲が、息を呑む。


 変化は、ほとんどない。


 それでも。


 確かに。


 “ゼロではない”。


「……」


 私は、そのまま手を離さなかった。


 ただ。


 支える。


 それだけ。


 何も考えない。


 考えられない。


 ただ。


 目の前の存在だけを見る。


 ――時間が過ぎる。


 数分か。


 それとも、もっとか。


 分からない。


 だが。


「……少し、戻ったな」


 医師の声。


 低く。


 冷静に。


 それでも。


 ほんのわずかに。


 変化を認める声。


「……」


 私は、何も言わない。


 言えない。


 これは。


 成功ではない。


 解決でもない。


 ただ。


 “まだ終わっていない”だけ。


 それでも。


「……」


 私は、手を握り続ける。


 ルカの。


 小さな手を。


 ――初めてだった。


 正しさでも。


 理屈でもなく。


 ただ。


 その場で選んだ行動が。


 意味を持ったのは。


 それは。


 小さくて。


 不確かで。


 頼りないものだった。


 それでも。


 確かに。


 そこにあった。


 ――“変化”が。

第17話まで読んでいただきありがとうございます。


ここで主人公は初めて、「正しくない選択」を自分で選びました。

理屈ではなく、その場で決めるという大きな転換です。


そして、ほんのわずかですが「変化」が起きています。

これが今後の大きな軸になります。


次話では、この出来事の“意味”が少しずつ明らかになり、主人公の考え方にも変化が出てきます。


ここまで読んで続きが気になると思っていただけたら、ブックマークしていただけると嬉しいです。

感想もとても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ