第二十六話:次なるは炎の山
ウルク連邦の聖堂で二つ目の伝説の食材「氷河の岩塩」を手に入れ 、皇帝との因縁にも一つの区切りをつけた一行。
その夜 、シュプリーム号の食堂では ウルク連邦からの船出を祝うささやかな宴が開かれていた
「はぁ〜〜〜……美味え……」
ガルムは体の芯まで染み渡るような温かいスープの最後の一滴を飲み干すと、満足のため息をついた。
コノハが手に入れたばかりの岩塩を使い、温かいスープが仲間たちの冷えた体を優しく温めていた。
「えへへ……お口に合ったのなら良かったです!」
コノハが嬉しそうに笑う。
宴が和やかに終わりを迎える頃、クラウスが一枚の古びた羊皮紙をテーブルの上に広げた。それは彼がウルク連邦の王宮書庫で、皇帝の特別な許可を得て閲覧した禁書の一部を書き写したものだった。
「さて、感傷に浸っている暇はないぞ。我々にはまだ 最後の困難な食材が残っている。」
クラウスのその一言に、仲間たちの視線が羊皮紙へと集まる。
羊皮紙に描かれていたのは世界の東『輝石のドワーフ王国』が領有する活火山地帯の地図だった。
クラウスはその中央を指し示す。
「初代勇者の手記の最後の断片にはこう記されていた。 『三つ目の楔 太陽の大豆 それは大地の胎内灼熱の揺りかごにて千年の眠りにつく』と。」
彼は仲間たちを見回した。
「この記述とドワーフの古代文献を照らし合わせた結果、判明した最後の食材は活火山のマグマ溜まりの中心で千年かけて一粒だけ実るという、伝説の中の伝説 そしてその場所は……」
クラウスはゴクリと喉を鳴らした。
「『エンシェント・マグマドラゴン』と呼ばれる古の竜の寝床そのものだと言われている。」
火山、マグマ、そして古の竜。そのあまりにも熱く 危険な響き。食堂の空気がぴりりと緊張する。
「ドラゴンですって?」
アイが不敵に口の端を吊り上げた。
「フン。ただの大きな赤いトカゲでしょう?わたくしの深淵の闇魔法にかかれば、ものの数分で可愛いペットにして差し上げますわ。」
「ドラゴンはそんなに甘くはありませんわよ」
シオリが呆れたように言う。
「えー?あたしが描いた暗黒竜とどっちが強いかな?!」
スミレが目を輝かせている。
アリアは少しだけ興味深そうに言った「エデンの森にも伝承はありますが 、わたくしはまだ見たことはありません 一度会ってみたいものですわね。」
だが そんな物騒な会話の横で、コノハは一人うっとりとしていた。
「太陽の大豆」
彼女はごくりと喉を鳴らす。
「マグマの中で千年、一体どんな味がするのでしょう? きっとこの世のものとは思えないほど濃厚で 力強い味が……ああ!それで最高のお味噌を作って、お味噌汁を……」
彼女の頭の中は、もはや大豆のことでいっぱいだった。
いつも通りの仲間たちの反応。レオンは深いため息をつくと、心の中で固く誓った。
(この人たちが絶対に面倒事を起こさないように俺が気を引き締めなければ)
だが、そんなリーダーの苦悩などどこ吹く風。ガルムはもはや迷っていなかった。
彼は空になったスープ皿をカタンと置くと、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
「火山にドラゴンか、面白えじゃねえか。」
彼は仲間たちを見回し、力強く宣言した。
「よっしゃあ!さっさとその豆っころとやらを手に入れて、コノハに世界一の味噌汁でも作ってもらおうぜ!」
その声には、故郷への誇りと仲間への信頼。そして次なる冒険への揺るぎない決意が満ち溢れていた。
一行の世界を救うための美味なる旅は、いよいよ最後の最も熱い舞台へとその舵を切ったのだった




