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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第二部:英雄達は創世のレシピを求める

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第二十話:氷河の塩と鋼鉄の国


 黄金の小麦を手に入れ、聖アウレア帝国での長くそして少しだけ面倒だった戦いを終えた一行は、帝国から出港した。

『ラ・キュイジーヌ・シュプリーム号』は久しぶりに穏やかな日常を取り戻していた

 船の上では、仲間たちがそれぞれの時間を思い思いに過ごしている。

 甲板では、ガルムとレオンが汗だくになりながら剣戟の音を響かせ、ラウンジではクラウスとアリアが静かにチェス盤を挟んで頭脳戦を繰り広げている。

 そして、厨房からは、コノハが手に入れたばかりの黄金小麦を使い試作しているパンの香ばしい香りが漂ってくる。


 平和な光景ではあるが、一つだけ問題があった。

 次の食材の目的地が全然決まっていなかったのだ。


 禁書庫の古文書にはあと二つ『氷河の岩塩』と『太陽の大豆』の存在が記されていたが、その具体的な場所までは記されていなかった。

 とりあえず一度ギルド本部のあるアークランドへ向かっていた一行。

 そんなのんびりとした航海の途中だった。



「―――助けてくれー!!」

 その平和を破ったのは、遠くの海から聞こえてきた切実な悲鳴だった。

 見張り台に立っていたアリアが声を上げる。


「前方約二海里!一隻の大型船が何かに襲われています!」

 一行が甲板に集まると、そこには信じがたい光景が広がっていた。

 巨大な商船らしき貿易船が その数倍はあろうかという海の魔獣に襲われていたのだ。

 それは鋼鉄の鱗を持つ巨大なサメの魔獣だった。その鋭い牙が船の側面に突き刺さり船体が大きく傾いている。


「……皆さん!」

コノハが叫んだ。

「お腹を空かせているようです!助けて差し上げましょう!」

 そのあまりにもズレた号令。

一行は顔を見合わせると、ニヤリと笑った。

一行は貿易船を助け、その巨大なサメの魔獣は数分後コノハとアイの魔法攻撃によって動きを止められ、そしてコノハに解体されてしまった。

 解体後、フカヒレにされてしまった。


 助け出された貿易船の船長と船員たちは、涙を流して一行に感謝した。

「おお、英雄様!なんと御礼を言ったら良いか……!」

船長は深々と頭を下げた。


彼らはガルムの故郷でもある、鋼鉄のウルク連邦の船だった。

「いや気にしないでください。我々はただ、為すべきことをないたまでです。」

レオンが爽やかに笑う。


「それに、あのサメさんは美味しそうなフカヒレになりそうです!」

コノハが嬉しいそうに語る。


 船長はそのあまりにも規格外な英雄たちの姿に呆気にとられていたが、すぐに我に返った。

「そうだ!せめてものお礼に、これを受け取ってください!」

 

 彼が船員に持ってこさせたのは、小さいが、ずっしりと重い麻袋だった。

 中に入っていたのは、キラキラと青白く輝く美しい塩の結晶だった。

「これは我が国でしか採れない特別な岩塩です。ほんの少し舐めるだけで、どんな疲れも吹き飛ぶと言われています。どうか助けてくれたお礼に、塩を受け取ってください」

「まあ!綺麗なお塩!」

コノハは目を輝かせた。彼女はその塩の結晶を一粒指でつまむとぺろりと舐めた。


その瞬間。

彼女の全身に電流のような衝撃が走った。

「……!?……この塩……!」

コノハの顔つきが変わったもはやただの料理番ではなく、世界の真理に触れた求道者の顔だった。


「……ただの塩ではありません……この一粒一粒に膨大な魔力が帯びている……!まるで世界そのものを浄化するような清らかな力が……!」


 彼女は船長に詰め寄った。

「船長さん!この素晴らしいお塩は一体ウルク連邦のどこで採れたのですか!?」


 船長は驚きながらも答えた。

「え、ええ……。これは我が国の北の果て一年中氷に閉ざされた『嘆きの氷河』と呼ばれる大氷河の奥深くでしか採れない特別な岩塩でして……」

『嘆きの氷河……』


 その言葉を聞いた瞬間、クラウスの脳裏にあの禁書庫の古文書の一文が蘇っていた。

『――海の浄化の力が宿る氷河の岩塩それは世界の北の果て永遠の氷河の涙の中にて眠る――』

 クラウスはコノハを見た。

 コノハもまたクラウスを見ていた。

 二人は同時に頷いた。

「―――決まりですね!皆さん!」

 コノハが高らかに宣言した。

「我々の次なる冒険の目的地は、ウルク連邦『嘆きの氷河』です!」

 こうして一行の次なる冒険の航路が決まった。

 それは一隻の難破船と一袋の塩がもたらした奇跡的な偶然だった。

 そして一行がガルムの故郷にて、因縁である彼のライバルの皇帝と会うことになる運命の始まりだった。

 船はアークランドではなく、北の鋼鉄の国を目指しその舵を大きく切るのだった。


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