第二十一話:北の国と、戦士の故郷
ウルグ連邦の貿易船の船長から得た、次なる伝説の食材『氷河の岩塩』に関する作戦会議が開かれていた。
「というわけで 次の目的地は鋼鉄のウルク連邦だ」
クラウスが海図を指し示しながら説明する。その名を聞いた瞬間船内の空気が少しだけ変わった。
「ウルク連邦。ガルムの故郷でしたね。」
レオンが言うと、今まで黙々と巨大な肉塊を平らげていたガルムがその手を止めた。
「ああ。まあな」
彼の返事はどこか歯切れが悪い。
「ウルク連邦ってどんな国なのガルムさん?」
スミレが純粋な好奇心で尋ねる。
「どんな国だぁ?」
ガルムは少しだけ遠い目をした。
「寒くて厳しくて、飯はまあマズくはねえが、量だけが取り柄の国だ。強え奴が偉い。弱い奴は強くなるしかねえ。ただそれだけの単純な国だよ」
その言葉には故郷への愛情と、どこか複雑な感情が入り混じっていた。
「フン。脳まで筋肉で出来ていそうな野蛮な国というわけか。」
アイがいつものように、尊大な口調で茶々を入れる。
「んだとてめえ!」
「まあまあアイさんもガルムさんも」
コノハが慌てて二人を宥める。
数日後。船が北へ進むにつれて気候は劇的に変化した。温暖だった海は、鉛色の荒々しい姿へと変わり、甲板を吹き抜ける風は刃のように冷たい。
やがて一行の目の前に、巨大な黒い大陸が見えてきた。
ウルク連邦。
その港は飾り気というものが一切なかった。鉄と黒い石だけで作られた無骨で巨大な建造物。空には無数の鍛冶場から立ち上る黒い煙が渦を巻いている。
「なんだか……寒くて、ちょっと怖いですわね。」
シオリが不安そうに身を縮こませる。
一行が船を降りると、周囲の屈強な男たちからジロジロと値踏みするような視線が注がれた。
だが、彼らが先頭を歩くガルムの姿を認めると、その視線は一瞬にして熱を帯びた。
「おい見ろ!ガルムじゃねえか!」
「本当だ!あの『赤鬼のガルム』が帰ってきたぞ!」
「ようガルム!旅に出て少しはマシな顔つきになったじゃねえか!どうだ今から一発殴り合いでも!」
次々と集まってくる筋骨隆々の男たち。彼らの挨拶は握手ではなく拳だった。ガルムも嬉しそうに彼らの拳を自らの拳で受け止めている。
それは彼らなりの最高の歓迎の表現だった。
一行は皇帝の居城である、巨大な鉄の要塞『鋼の牙城』へと通された。
玉座の間で一行を待っていたのは、この国の絶対的な支配者。
そして、ガルムが生涯でただ一度だけ敗北を喫した男だった。
その男――カイゼルは玉座からゆっくりと立ち上がるとにやりと好戦的な笑みを浮かべた。
「戻ったかガルム。腑抜けた顔をしておらぬかその体で確かめてやる」
「望むところだ皇帝陛下。いやカイゼル!」
ガルムもまた、不敵な笑みを返す。
ウルク連邦では言葉は無意味だ。己の成長は己の全ては拳と力で示さなければならない。
「俺達は『氷河の岩塩』を求めてここに来た。そのためには国の聖地である『古の氷河』への立ち入りには許可が必要だ。そうだろ?」
「いかにも。そしてその資格があるのはこの国で真の『強者』と認められた者だけだ」
カイゼル皇帝はそう言うと、自らの巨大な戦斧を手に取った。
「証明してみせろガルム。この俺を超えることでな!」
こうして、ガルムの過去を乗り越えるための、そして仲間たちの未来を切り開くための宿命の決闘が始まった。




