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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第二部:英雄達は創世のレシピを求める

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第五話:至高の一皿 vs 深淵の福音団 三本勝負 前編

 翌日、『至高の一皿』一行は『さえずりの森』の入り口へ向かった。


 そこには既に『深淵の福音団』の三人と、何故か十歳前後の子供達が十人ほどいた。


 アイは一行を見かけると仁王立ちで宣言した。

「来たか!さぁ、勝負を始めようではないか!」


 物々しい雰囲気の中。

 クラウスが一つの根本的な疑問を口にした。

「……アイ殿。一つ聞いても良いかな」


 彼はアイの背後にずらりと並んでいる10歳前後の子供たちを、指さした。

「――その子達は、一体?」


 クラウスの問いに、アイはふふん、と不敵に笑った。

「決まっているだろう?この神聖なる決闘を裁くための厳正なる『審査員』たちだ」


 クラウス達は疑問に思いつつも了承した。


「では、我ら『深淵の福音団』と、貴様ら『至高の一皿』、互いの存在意義を懸け、これより三本勝負を執り行う!」

 アイが芝居がかった仕草で宣言する。


「まず、大前提として」彼女はコノハを指さした。

「この勝負の『賞品』である、シズキ・コノハ。貴様の参加は認めん」

「えっ、私、賞品なんですか!?」


 コノハが驚きの声を上げる。

「当然だ。審判の対象が、審判の場に立つなど言語道断。貴様はそこで我らの戦いをその目に焼き付けているがいい」

 アイは最も厄介な戦力であるコノハをそれらしい理屈で見事に排除した。


「そして、勝負の内容だが……」

彼女はニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。

「第一回戦は、『マスコットキャラクター創作対決』!第二回戦は、『愛と感動の人形劇対決』とする!」

 その、あまりにも戦闘からかけ離れた、平和的な勝負内容。

 それは絵を描くスミレと人形を操るシオリの固有魔法に完全に特化した、あまりにも彼女たちに有利な条件だった。


「アイ!流石に狡いですわ!」

「アイちゃん、それはセコいと思うなー?」

そのあまりの露骨さに、味方であるはずのシオリとスミレから、同時に非難の声が上がった。


「だ、だって、しょうがないじゃない!こっちには、脳筋のゴリラも、堅物の騎士もいないんだから、こういうので勝負しないと、勝ち目がないんだもの!」

アイは一瞬だけ、厨二病の仮面を剥がし、素の口調で叫んだ。


 アイのあまりにも人間くさい本音に『至高の一皿』のメンバーはこの強敵(?)の本当の姿を少しだけ、理解した気がした。

(……この人、本当に、ただの残念な人なのかもしれない……)


 誰もが、そう思った。

 だが黒の一族の底知れない実力を知る彼らは、油断はしなかった。


【第一回戦:マスコットキャラクター創作対決】


 対戦者は、『深淵の福音団』から宵闇スミレ。『至高の一皿』からは、芸術的センスを見込まれ、アリアが代表として立った。


「あたしの『ジェネシス・キャンバス』の敵じゃないよ!」

 スミレは自信満々で、巨大なキャンバスに筆を走らせ始めた。彼女が描いたのは、漆黒の体に七色の翼を持つ、巨大で、荘厳で、そして、めちゃくちゃ格好いい『シャドウ・グリフォン・レインボーウイング』だった!


「いでよ!我がしもべ!」

 彼女が叫ぶと、グリフォンは絵の中から実体となって、咆哮と共に飛び出した。その迫力は、本物の魔獣にも劣らない。

「どう?!格好いいでしょ!!」


 一方、アリアは。

 彼女は、静かに一枚の木の板に、木炭で小さな絵を描いただけだった。

描いたのは、この森に住むまんまるで、ふわふわの毛を持つ、小さな生き物『ひだまりわたうさぎ』。


 彼女の絵は、スミレほど上手くはない。だが、そこには生命への深い愛情が込められていた。

 審査員である、街の子供たちは、満場一致で、アリアの『わたうさぎ』に駆け寄った。

「かわいいー!」

 スミレのあまりにも格好良すぎるグリフォンは、その迫力で子供たちを逆に泣かせてしまった。


「……えー?なんでー?グリフォンの方が、絶対、強いのにー……」

スミレはうっかり、勝負の趣旨を「可愛さ」ではなく「強さ」だと、勘違いしていたのだった。


クラウス: 「……第一回戦、勝者、『至高の一皿』」



【第二回戦:愛と感動の人形劇対決】


「スミレの雪辱は、わたくしが晴らします!」

 次に登場したのは、姉の宵闇シオリ。対するは、豊富な知識と物語の構成力で、クラウスが立った。

 シオリは、自慢のアンティークドールを取り出すと、『マリオネット・レクイエム』で命を吹き込んだ。


 人形は、まるで本物のバレリーナのように、優雅に、そして物悲しく、舞い始める。その、あまりにも完璧な動きは、子どもたちの心を強く惹きつけた。


 誰もが彼女の勝利を確信した、その時だった。

 あまりにも動きが完璧すぎたせいで、100年前のアンティークドールは、その繊細な首の関節に限界を超えた負荷がかかってしまった。

 高速スピンのクライマックス。

**ポーン!**という、小気味よい音と共に、人形の首は、綺麗に宙を舞った。


「あああああああっ!わたくしの、クララちゃんがぁぁぁぁっ!」

 シオリは首のない人形を抱きしめ、その場で泣き崩れ戦意を喪失した。


 一方、クラウスは自作のヘンテコな靴下の指人形で、「聖アウレア帝国、建国の歴史」を面白おかしく、一人芝居で演じきり、子供たちから大喝采を浴びていた。


レオンは呆れつつアイに宣告する。

: 「……第二回戦も、勝者は、『至高の一皿』。よって、二対〇で、この勝負、我々の総合勝利、ということで、よろしいですね?アイ殿?」


アイの色白の顔から、さっと血の気が引いていった。


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