第四話:至高の一皿 vs 深淵の福音団 コノハを巡る契約(コントラクト)』
「コノハは、渡さん!」
大切な料理番を守るため、一歩も引かない『至高の一皿』の四人。
彼らのあまりにも真剣で必死な様子を前に、黒姫アイは、ふっ、と不敵な笑みを浮かべた。
「ならば話は早い。このシズキ・コノハという混沌の器を巡り、我ら『深淵の福音団』と、貴様ら『至高の一皿』、神々の代理戦争を始めようではないか!」
彼女は、高らかに宣言した。
「勝負だと?」
レオンが訝しげに眉をひそめる。
その横で当のコノハは、困ったようにおろおろしていた。
「あ、あの、アイさん……。わたくし、今のパーティを抜けるつもりは全くありませんのですが……」
彼女のあまりにも真っ当な正論に、アイは一瞬「ぐっ」と詰まったが、すぐに尊大な態度を取り戻した。
「フン、甘いなコノハよ!これは、単なる勧誘ではない!これは運命の選択なのだ!」
彼女は芝居がかった仕草で、天を指さした。
「貴様の持つ、その料理という名の因果律さえも操る力。それは、あまりにも強大すぎる!その力が、真に輝くべき場所はどこなのか!それを、天に、いや、この私に問うための神聖な儀式なのだ!貴様は、我らのどちらが、より己の力を高める『器』として、ふさわしいかをその目で見極める義務がある!」
その、それっぽい理由に、コノハは、「は、はあ……」と、よく分からないまま頷くしかなかった。
「やったー!」スミレがぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。「コノハちゃんが仲間になったら、毎日、美味しいおやつが食べ放題だね!それに、あたしが描いた空飛ぶクジラさんに乗って一緒にお空を散歩するんだ!」
「……ええ。まあ、アイがそこまで言うのであれば」シオリも少しだけ頬を染めながら付け加えた。
「……それに、貴女の作るあのシチューは、その……また食べたいですし……」
『深淵の福音団』の二人は、すっかりコノハが仲間になる気でいた。
その様子を見て、今度は『至高の一皿』のメンバーが断固として反対した。
「待て!その勝負、我々が受けるメリットが一つもない。コノハさんは、元々は我々の仲間だ。我々が勝っても現状維持。しかし、万が一にも我々が負ければ、コノハさんを失うことになる。リスクとリターンが全く釣り合っていない」
クラウスが眼鏡をくいっと上げながら、冷静に、しかし、断固として言う。
「そうだそうだ!そんな、割に合わねえ勝負、誰が受けるかよ!」
ガルムも腕を組んで頷く。
二人からのあまりにも正当な反論。アイは、またしても「ぐっ」と言葉に詰まった。
しかし、彼女は不敵な笑みを崩さない。
「フン……。メリット、か。そんな俗な言葉で、神聖なる儀式を語るとは……。だが、よかろう。貴様ら、俗物にも分かりやすい『対価』をくれてやろうではないか」
彼女は懐から、一枚の黒い羊皮紙を取り出した。それは闇の魔力で厳重に封印されている。
「これは、我が黒姫家に代々伝わる、いにしえの秘宝……。古代の魔導王が、その生涯をかけて追い求めたという、幻の食材のありかを示した『深淵の食材地図』だ」
その言葉に、仲間たちの目の色が変わった。
「貴様らは様々な食材を追い求めているな?古い地図ではあるが、幻の食材の在りかが記されている。」
それは喉から手が出るほど欲しい情報だった。
「……どうだ?これでもまだ、メリットがないと言うか?」
アイは勝利を確信した笑みを浮かべた。
レオン、ガルム、クラウス、アリアの四人は、顔を見合わせた。そして、渋々頷いた。
「……よかろう。その勝負、受けよう」
レオンが代表して答えた。
「だが、勝負は我々が勝たせてもらう。そして、その地図も我々がいただく」
(どうせ、勝負に勝てば良いだけのことだ)
(我々のパーティの、完璧な連携の前には敵などいない)
(コノハさんの料理の腕が負けるはずがない)
(コノハは渡さん)
『至高の一皿』のメンバーは、全員が同じことを心の中で強く誓っていた。
レオンはその挑戦を受けて立った。
「良いだろう。場所と、日程は?」
アイは、不敵に、笑った。
「ふむ。日時は明日の午前中。場所は今日、我々と相対した、あの街外れの森でどうかしら?」
「了解した。」
「勝負の内容については、明日、追って伝えよう。……ふふふ。今日でコノハがここにいるのも最後ですから、存分に今の仲間との時間を楽しむが良いさ!」
アイはそう言い放つと踵を返した。
「我らは宿屋へ行きますわ!……あ、コノハ。」
彼女は最後に一度だけ振り返った。
「今日のシチューは、本当に美味しかったわ。また、作ってくれると嬉しいわね。」
「皆さま、ごきげんよう。コノハちゃん、美味しかったわ。」
シオリもまた優雅に一礼する。
「コノハちゃん、ごちそうさまー!ありがとー!」
スミレが、元気よく、手を振った。
嵐のように去っていった三人。
後に残されたコノハはきょとんとして、首を傾げたがすぐににっこりと笑った。
「ええ!またいつでも作りますね!」
彼女のあまりにも平和な返答。
レオンとガルムは、(この人、全く、分かっていないな……)と、深いため息をつくのだった。
こうして、コノハの処遇を巡る、二つのパーティの、最初の戦いの火蓋は切って落とされたのである。




