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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第二部:英雄達は創世のレシピを求める

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第三話:至高の料理人を巡る勧誘合戦

 『仲直りのクリームグラタン』は、その名の通り絶大な効果を発揮した。

 空になった大皿を前に、しょんぼりと俯いていた『深淵の福音団』の三人は、美味しい料理でお腹も心も満たされすっかり元気を取り戻していた。



「いやはや、コノハよ。貴様の作る料理、まことに見事であった。我が魔眼も満足しておるわ」

 リーダー格のアイが、尊大な、しかしどこか晴れやかな口調でコノハに礼を言った。


 レオンがその言葉遣いに眉をひそめながらも、改めて三人に問いかけた。

「さて、君たちの事情は大体理解した。だが、我々はまだ君たちのことをよく知らない。改めて自己紹介をしてもらおうか」


 その言葉を待っていたかのように、アイはすっと立ち上がると、ビシッとポーズを決めた。

「よかろう!我が名は、黒姫アイ!いずれ、この世界の全ての真理をその瞳に映し出す者!刮目せよ、我が右眼に宿りしは、時さえも支配する『刻印魔眼ウロボロス・ゲイズ』!我ら『深淵の福音団』を率い、世界に闇の真実を示す、運命の使徒である!」

 黒く長い前髪は、右目が完全に隠れるようにアシンメトリーに流されており、右手で髪を少し持って赤い右眼を見せながら尊大に話した。


その、完璧な厨二病の自己紹介に、ガルムは「おおっ!カッコいいな!」と目を輝かせ、クラウスはこめかみを押さえた。


 次に、おっとりとしたシオリが少し恥ずかしそうに立ち上がった。

「……宵闇シオリです。わたくしの力は、魂なきものに束の間の命を吹き込む『傀儡の鎮魂歌マリオネット・レクイエム』。この者の暴走を止めるのが、主な役目です……」

 彼女はちらりとアイの方を見て、深いため息をついた。


 最後に、スミレが元気よくぴょんと立ち上がった。

「はいはーい!宵闇スミレです!あたしの魔法は、想像したものを何でも出しちゃう『万象を産む絵画ジェネシス・キャンバス』だよ!コノハちゃん、また一緒にお絵描きしようね!」

 彼女はコノハに向かって屈託なく笑いかけた。


 三者三様の、しかし、その誰もが規格外の力を持つことを一行は改めて認識した。

 そして、コノハはそんな三人の姿を満面の笑みで見つめると、ぱん、と手を叩いた。


「皆さん、とっても素敵です!あの、もしよかったらなんですけど……」

 彼女はとんでもない提案を何のためらいもなく口にした。

「あなたたちも、私たちのパーティに、入りませんか?」


「「「「なっ!?」」」」

 その一言に、衝撃が走った。

 アイ、シオリ、スミレは、目を丸くして固まっている。

 そして、レオン、ガルム、クラウス、アリアの四人は、血相を変えて立ち上がった。


「待て待て待て、コノハさん!」レオンが、慌てて割って入る。

「気持ちは分かるが、それは、あまりにも早計だ!」

「そうだぜ、コノハ!」

ガルムも続く。

「こいつらが面白い奴らなのは認めるが、今日一日で、どれだけ面倒なことになったか、忘れたのか!?」

「論理的に考えて、彼女たちの行動原理は、我々の目的とは著しく乖離している!これ以上のカオス要素を、我々の旅に加えるのは、危険すぎる!」

 クラウスが、冷静に、しかし必死に説得する。

「コノハの優しさは美徳だ。だが、森を黒く染め上げたこの者たちを安易に信用するのは……」アリアも、静かに、しかし、断固として反対の意を示した。


 仲間たちの、必死の制止。

 その様子を見て、我に返ったアイは、ふん、と鼻を鳴らした。

「――断る」

 彼女は誇らしげに胸を張り、コノハの誘いを一蹴した。

「コノハよ、その申し出、心意気だけは褒めてやろう。だが、我らが背負いし使命はあまりにも崇高すぎるのだ。貴様らのような、日々の糧を求めるだけの、小規模な集団に収まる器ではない!」

 彼女は仲間であるはずのコノハのパーティを、バッサリと切り捨てた。


 そして、アイは逆にコノハに向かって手を差し伸べた。

 その瞳は、真剣そのものだった。

「むしろ、こうだ、コノハよ」


「――貴様が、我ら『深淵の福音団』に、入るのだ」


「はあ!?」

 今度は、コノハの仲間たちが絶叫した。


「貴様は、闇魔法の適性こそ持たぬが、その料理の腕は常人の心を惑わし、時に世界の理さえも捻じ曲げる。それは、ある意味どんな闇魔法よりも、深淵に近い力だ!」

 アイは、熱っぽく語る。

「その力を、我らの崇高なる理念である『闇魔法のクールさを、世界に布教する』という、偉大なる目的のために使う気はないか!?我らの活動には、兵站、すなわち、最高の『賄い担当』が不可欠なのだ!貴様が加われば、我らの理想郷の実現は、千年は早まるだろう!」


 その、あまりにも真剣であまりにもズレた、究極のスカウト。

 コノハは目をぱちくりさせて、ただ、きょとんとしている。

 そして、彼女の仲間たちは……。


「ふ、ふざけるな!我々のコノハさんを、お前たちの、その怪しい団体の、賄い婦にするだと!?」

「そうだそうだ!コノハの飯は、俺たちのモンだ!」

「断固として、拒否する!」

「コノハは、渡さん!」


『至高の一皿』の四人は、大切な料理番(兼、最強戦力)を守るため、臨戦態勢で『深淵の福音団』を睨みつけた。


 こうして、食卓を囲んでいたはずの二つのパーティは、一人の少女を巡って一触即発の奇妙な勧誘合戦を繰り広げることになったのだった。




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