プロローグ:英雄の凱旋と昇級
二週間程度の穏やかな航海の末。
一行は旅の始まりの場所であるアークランドへと帰還した。
彼らがギルド本部に任務完了の報告をすると、そのあまりにも規格外な功績にギルド全体が騒然となった。
そして、彼らはギルドの最上階にあるギルドマスターの執務室へと呼び出された。
そこに座っていたのは鋭い、しかし、どこか人の良い眼差しを持つ、少しふくよかな壮年の男だった。
彼こそがアークランド冒険者ギルドを、束ねるギルドマスターであるバーナビー・アシュトンだった。
『至高の一皿』はアシュトンと初対面である。
彼は山のような報告書と一行の顔を何度も見比べ、やがて深いため息をついた。
そのため息は呆れと、そしてそれ以上の純粋な感嘆に満ちていた。
「……信じられん……」
彼は、言った。
「結成してまだ数ヶ月の銀級パーティが、白金級になりそうな案件を解決してしまった、だと……?報告書を何度読んでも、理解が追いつかん……」
彼は立ち上がると、一行、一人一人の顔を見つめた。
そして、彼は決断した。
「――諸君。君たちの功績はギルドの歴史上、前代未聞だ。よって、ギルドマスター権限により、特例を認める」
彼は、高らかに、宣言した。
「本日、この時を以て、パーティ『至高の一皿』を銀級から、金級へと昇格する!」
(この時のアシュトンは、**まだ彼らをとてつもなく優秀で、幸運なパーティだと思っているだけだった。彼らが後に、自らの胃と常識を粉々に破壊する、天災の集団であることを知る由もない)
その、あまりにも破格の出世。
だが、クラウスは浮かれることなく、冷静にギルドマスターに一つの願い出をした。
「アシュトン殿。感謝いたします。……つきましては、一つ、お願いが」
彼は言った。
「我々は、今回の冒険で古代の神々と、そして、世界の理そのものに触れました。ですが、我々の知識では、その全容を理解するには至らない。……どうか、我々にギルドが管理する、『禁書庫』への立ち入りを許可していただけないでしょうか?」
その言葉に、アシュトンの顔が険しくなる。
禁書庫。そこは読むだけで、人の精神を蝕むという危険な魔導書や、世界の真実が記された古文書が、封印されている、ギルドの最重要機密区画。
だが、彼は目の前の若者たちを見た。
彼らは既に、その世界の真実に触れてしまったのだ。
ならば、彼らがその知識を正しく使うと信じるしかない。
「……よかろう」
アシュトンは頷いた。
「君たちに禁書庫への立ち入りを許可する。……だが、忘れるな。知識とは、時にどんな魔獣よりも、恐ろしい牙を持つ。……その牙に食い殺されぬよう、心して、挑むのだな」
こうして、一行はギルドの地下深くにある固く閉ざされた、古代魔法の封印が施された、巨大な扉の前へと導かれた。
その扉の向こうに、この世界の本当の「歪み」の謎が、眠っていることを彼らはまだ知らない。




