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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第二部:英雄達は創世のレシピを求める

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第一話:金級の英雄達

 カラン、と。

 アークランド冒険者ギルドの重い扉が開かれた。

 そこから出てきたのは、コノハ、レオン、ガルム、クラウス、アリアの五人。


 彼らの首から下げられたギルドカードは、もはや見慣れた「銀」ではなかった。

 太陽の光を反射し、誇らしげに、「金」の輝きを放っている。

 彼らはついに、ギルドの中でもエリート中のエリートと称される金級冒険者となったのだ。


「―――やりましたね、皆さん!」

 コノハが嬉しそうに、その新しいギルドカードを、掲げた。


「はっはっは!これで、俺たちも、名実ともに、一流の冒険者ってわけだ!」

ガルムもまた、満足げにそのたくましい胸を張る。


一行は金級になったお祝いと、今後の旅の計画を立てるため、町中を歩きながら、酒場へと向かっていた。


「ですが、金級になったからといって浮かれてはいけません」

レオンがいつものように真面目な顔で、仲間たちを窘める。


「我々はこれまで以上に、その階級に見合った責任と品格ある行動を心がけなければ……」


「まあまあ、レオン。」

クラウスが、苦笑いを浮かべた。

「今日くらいは良いではないか。皆、命がけで戦い抜いたのだからな。……それに、だ」

彼は、ちらりと、コノハの方を見た。


「金級になったことで、我々が閲覧できるギルドの依頼や、資料のレベルも格段に上がる。……これは、我々の次なる冒険にとって、大きな一歩だ」

 その軍師らしい、冷静な分析。


 アリアもまた、穏やかに、微笑んだ。

「ええ。それに、金級になれば、報酬の高い依頼も受注出来るのでしょう?……これで、また、コノハさんの美味しいご飯がたくさん食べられますね」


 その、どこまでも平和な一言。


 その時だった。

 先頭を歩いていたコノハが、ぴたりと足を止めた。

 彼女は、道の向かいにある一軒の八百屋を、じーっと、見つめていた。


 その店先には、見たこともない、真っ赤でつやつやとした、果物が山と積まれている。

「……レオンさん」


 コノハが、レオンの服の袖をきゅっと、掴んだ。

「ん?」

「……あの、赤い実。……わたくし初めて見ました。……あれは一体、何という名前なのでしょうか……?焼いたら、美味しいでしょうか?それとも、煮込んだ方が……?」


 その瞳はもはや、金級の英雄ではなかった。

ただ、未知なる食材を前にした一人の食いしん坊のそれだった。

 その、あまりにも変わらないリーダー(?)の姿。

 レオン、ガルム、クラウス、アリアの四人は、顔を見合わせた。


そして、どちらからともなくふっと、笑い出した。

そうだ。

何も変わらない。

たとえ、金級になろうと白金級になろうと。

自分たちの旅はいつだって、この小さな料理番の尽きることのない食欲から始まるのだ。

「……仕方ありませんね」

レオンは深いため息をつくと言った。

「―――皆さん。酒場に行く前に、少しだけ、寄り道を、しましょうか」


 その、あまりにも優しい一言にコノハはぱっと顔を輝かせた。



コノハが八百屋で未知なる赤い果実(実はただのリンゴだったが、オアシス連邦にはない珍しい品種だった)の食材としての可能性について、店主と熱い議論を交わし終えた後。

一行はようやく酒場へとたどり着いた。


「「「「「乾杯!」」」」」

エールジョッキが、陽気な音を立てて、ぶつかり合う。


 料理を食べている時、ふと、アリアが不思議そうに疑問を投げかけた。

「皆様、おめでとうございます。ですが、一つ、よろしいかしら」


 彼女は言った。

「わたしは冒険者ではないので、あまり詳しくはないのですが、エデン大陸そのものをお救いになったという、今回の皆さんの実績ならば、金級ではなく、最高ランクでも良かったのではありませんか?」


 その、あまりにも純粋な問い。

 クラウスは、苦笑いを浮かべると、説明した。

「いえ、アリア殿。あれでも、かなりの特例だったのですよ。」


彼は説明を続ける。

「冒険者の階級は、実績だけで決まるものではありません。ギルドへの貢献度、任務の実績や信頼性。それらを総合的に判断される。銀級はベテランになれば、昇級出来ますが、金級は大陸全土でも、あまり多くないのです」


彼はさらに続けた。

「もちろん、国を救うレベルの実績が無くても、ギルドが相応しいと判断すればなることは出来ます。しかし、その審査は非常に厳しい。我々のような、結成してまだ一年にも満たない、若輩者が金級になれたこと自体が奇跡に近いのです」


 その丁寧な説明に、アリアも納得したように頷いた。


「はっはっは!まあ、細かいことはどうでも良いじゃねえか!」

 ガルムが豪快に笑った。

「美味い酒と、美味い飯!そして、最高の仲間!……今の俺たちにはそれだけで十分だ!」


 その、あまりにも単純で、あまりにも幸せな一言。

仲間たちは顔を見合わせ笑い合った。

そうだ。

階級など、関係ない。

自分たちは、このかけがえのない仲間たちと、まだ見ぬ美味しいものを探す旅を続けたいだけなのだ。

だが、彼らは、まだ、知らない。


 その金色のギルドカードが、彼らを否応なく世界の、さらなる、中心へと導いていくことを。

そして、そのカードの輝きが光だけでなく、新たな影をも呼び寄せることになることを。


 一行の穏やかで幸せな宴は続く。

 英雄たちの賑やかで、美味しくて、そして、どこまでも変わらない日常はこれからも続いていく。

 金色のギルドカードが、その新しい門出を静かに祝福しているかのようだった。


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