第一話:金級の英雄達
カラン、と。
アークランド冒険者ギルドの重い扉が開かれた。
そこから出てきたのは、コノハ、レオン、ガルム、クラウス、アリアの五人。
彼らの首から下げられたギルドカードは、もはや見慣れた「銀」ではなかった。
太陽の光を反射し、誇らしげに、「金」の輝きを放っている。
彼らはついに、ギルドの中でもエリート中のエリートと称される金級冒険者となったのだ。
「―――やりましたね、皆さん!」
コノハが嬉しそうに、その新しいギルドカードを、掲げた。
「はっはっは!これで、俺たちも、名実ともに、一流の冒険者ってわけだ!」
ガルムもまた、満足げにそのたくましい胸を張る。
一行は金級になったお祝いと、今後の旅の計画を立てるため、町中を歩きながら、酒場へと向かっていた。
「ですが、金級になったからといって浮かれてはいけません」
レオンがいつものように真面目な顔で、仲間たちを窘める。
「我々はこれまで以上に、その階級に見合った責任と品格ある行動を心がけなければ……」
「まあまあ、レオン。」
クラウスが、苦笑いを浮かべた。
「今日くらいは良いではないか。皆、命がけで戦い抜いたのだからな。……それに、だ」
彼は、ちらりと、コノハの方を見た。
「金級になったことで、我々が閲覧できるギルドの依頼や、資料のレベルも格段に上がる。……これは、我々の次なる冒険にとって、大きな一歩だ」
その軍師らしい、冷静な分析。
アリアもまた、穏やかに、微笑んだ。
「ええ。それに、金級になれば、報酬の高い依頼も受注出来るのでしょう?……これで、また、コノハさんの美味しいご飯がたくさん食べられますね」
その、どこまでも平和な一言。
その時だった。
先頭を歩いていたコノハが、ぴたりと足を止めた。
彼女は、道の向かいにある一軒の八百屋を、じーっと、見つめていた。
その店先には、見たこともない、真っ赤でつやつやとした、果物が山と積まれている。
「……レオンさん」
コノハが、レオンの服の袖をきゅっと、掴んだ。
「ん?」
「……あの、赤い実。……わたくし初めて見ました。……あれは一体、何という名前なのでしょうか……?焼いたら、美味しいでしょうか?それとも、煮込んだ方が……?」
その瞳はもはや、金級の英雄ではなかった。
ただ、未知なる食材を前にした一人の食いしん坊のそれだった。
その、あまりにも変わらないリーダー(?)の姿。
レオン、ガルム、クラウス、アリアの四人は、顔を見合わせた。
そして、どちらからともなくふっと、笑い出した。
そうだ。
何も変わらない。
たとえ、金級になろうと白金級になろうと。
自分たちの旅はいつだって、この小さな料理番の尽きることのない食欲から始まるのだ。
「……仕方ありませんね」
レオンは深いため息をつくと言った。
「―――皆さん。酒場に行く前に、少しだけ、寄り道を、しましょうか」
その、あまりにも優しい一言にコノハはぱっと顔を輝かせた。
コノハが八百屋で未知なる赤い果実(実はただのリンゴだったが、オアシス連邦にはない珍しい品種だった)の食材としての可能性について、店主と熱い議論を交わし終えた後。
一行はようやく酒場へとたどり着いた。
「「「「「乾杯!」」」」」
エールジョッキが、陽気な音を立てて、ぶつかり合う。
料理を食べている時、ふと、アリアが不思議そうに疑問を投げかけた。
「皆様、おめでとうございます。ですが、一つ、よろしいかしら」
彼女は言った。
「わたしは冒険者ではないので、あまり詳しくはないのですが、エデン大陸そのものをお救いになったという、今回の皆さんの実績ならば、金級ではなく、最高ランクでも良かったのではありませんか?」
その、あまりにも純粋な問い。
クラウスは、苦笑いを浮かべると、説明した。
「いえ、アリア殿。あれでも、かなりの特例だったのですよ。」
彼は説明を続ける。
「冒険者の階級は、実績だけで決まるものではありません。ギルドへの貢献度、任務の実績や信頼性。それらを総合的に判断される。銀級はベテランになれば、昇級出来ますが、金級は大陸全土でも、あまり多くないのです」
彼はさらに続けた。
「もちろん、国を救うレベルの実績が無くても、ギルドが相応しいと判断すればなることは出来ます。しかし、その審査は非常に厳しい。我々のような、結成してまだ一年にも満たない、若輩者が金級になれたこと自体が奇跡に近いのです」
その丁寧な説明に、アリアも納得したように頷いた。
「はっはっは!まあ、細かいことはどうでも良いじゃねえか!」
ガルムが豪快に笑った。
「美味い酒と、美味い飯!そして、最高の仲間!……今の俺たちにはそれだけで十分だ!」
その、あまりにも単純で、あまりにも幸せな一言。
仲間たちは顔を見合わせ笑い合った。
そうだ。
階級など、関係ない。
自分たちは、このかけがえのない仲間たちと、まだ見ぬ美味しいものを探す旅を続けたいだけなのだ。
だが、彼らは、まだ、知らない。
その金色のギルドカードが、彼らを否応なく世界の、さらなる、中心へと導いていくことを。
そして、そのカードの輝きが光だけでなく、新たな影をも呼び寄せることになることを。
一行の穏やかで幸せな宴は続く。
英雄たちの賑やかで、美味しくて、そして、どこまでも変わらない日常はこれからも続いていく。
金色のギルドカードが、その新しい門出を静かに祝福しているかのようだった。




