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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第一部:能ある料理人は爪を隠したいけど隠せない

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第二十九話:炎の祭壇と古の守護者

 マグマ・ボアとの戦闘からさらに半日。一行はついに、灼熱火山群の中心にそびえる、最も巨大な活火山『龍の寝床ドラゴンズ・ベッド』の麓にたどり着いた。


「祭壇は、この山の頂、火口の中にある」

 アリアの言葉に、誰もがゴクリと唾をのんだ。噴煙を上げる山頂を見上げるだけで、肌が焼けるような熱気を感じる。


 登山は過酷を極めた。足場は脆く、時折、火山弾が降り注ぐ。だが、一行は互いに助け合い、着実に標高を上げていった。


 そして、数時間後。彼らはついに火口の縁に立った。

 眼下に広がるのは、煮えたぎる溶岩の湖。

 その中央に、まるで巨大な黒曜石を削り出して作ったかのような、荘厳な古代の祭壇が、浮かぶように存在していた。

「あれが……火の精霊の祭壇……」


 どうやってあそこまで行くのか。誰もがそう思った時、祭壇へと続く一本の岩の道が、溶岩の中からゆっくりと隆起してきた。まるで、来訪者を招き入れているかのように。

「試されている、ということか」

 レオンが呟き、一行は覚悟を決めてその道を進み始めた。


 黒曜石の祭壇に足を踏み入れた瞬間、周囲の空気が一変した。熱気がさらに増し、溶岩湖が激しく波立ち始める。

 そして、湖の中心から炎そのものが形を成したかのような、巨大な人影がゆっくりと姿を現した。その身の丈は十メートルを超え、全身が灼熱の炎に包まれている。手には、燃え盛る炎の大剣を携えていた。


 祭壇の守護者、『イフリート』。

 守護者は言葉を発さなかった。だが、その燃え盛る瞳は、明確な意志を一行に伝えていた。

『我が祭壇の力を望むならば、その資格を、力で示せ』と。

 灼熱の試練が、今、始まろうとしていた。



「うおおおおっ!」

先陣を切ったガルムのハルバードが、イフリートの巨体に叩きつけられる。しかし、刃は炎の体を虚しくすり抜け、何のダメージも与えられない。

「物理攻撃が効かない!?」

「ならば!」

クラウスが即座に水魔法を詠唱する。巨大な水の塊がイフリートに直撃するが、ジュッというけたたましい音と共に、一瞬で蒸発してしまった。


「水さえも蒸発させる熱量か……!」

 イフリートが、手に持った炎の大剣を振り下ろす。レオンが咄嗟に盾を構えるが、その熱は盾越しに伝わり、腕が焼けるかと錯覚するほどだった。

「くっ……!全員、散開しろ!」


 パーティは、完全に防戦一方に追い込まれた。アリアの矢は届く前に燃え尽き、レオンの剣も、ガルムのハルバードも、炎の体には通用しない。クラウスの魔法も決定打にならず、コノハが展開するバリアも、凄まじい熱量にじりじりと削られていく。


「まずいな……。奴は純粋な魔力エネルギーの塊だ。物理的な核が存在しない。倒すには、この熱量を上回る冷気で凍らせるか、あるいは魔力そのものを霧散させるしかないが……」

 クラウスが分析するが、どちらも今の彼らの戦力では不可能に近かった。


 誰もが消耗し、じりじりと追い詰められていく。

 このままでは全滅もあり得る。

 絶望的な状況。その中で、ただ一人、コノハだけが違う視点で燃え盛る守護者を見つめていた。

彼女の瞳には恐怖ではなく、料理人としての強い好奇心が宿っていた。


(すごい……なんて純粋で、綺麗で、力強い炎なんだろう……。無駄なものが一切混じっていない、最高のエネルギーの塊……。なんだか……ちょっと、美味しそうですね?)

 そのあまりにも場違いな発想が、絶望的な戦況を覆す、とんでもない奇策へと繋がることをまだ誰も知らなかった。

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