新担当 狸の真意
祝 2026年スタート
新年1発目
別段、エメラインが担当になっても商談としては問題なかった。
話せない部分もあるから多少気は遣ったけどね。それぐらいだよ。
それでもこっちになんの連絡も無しに新担当、なんてものを付けられたことには言いたいこともある。
なにより、ハゲ狸に確認しなければならないこともある。
「エメラインがなにか粗相でもしましたかな」
エメラインとの商談後に一言挨拶がしたいと呼び出してやるとハゲ狸はあっさりと顔を出した。
というか、僕が呼び出すと予想してたんだろうね、きっと。
すぐに来たから。
「彼女が新担当ってのはどういうこと?」
「そのままの意味です。若い女性より私がいいというなら戻しますが、そういうご趣味で?」
そんな訳あるか。
「茶化すな。なにか思惑があるんだろうけど、僕になんの断りもないってのはどうなんだ。いや、だからこうして呼ばれることまでが想定内だったんだろう、どうせ」
「相変わらずのご慧眼で」
「世辞はいいよ。それで、どういうつもりなの?
エメラインはなんの問題もなかったというか、まあ、会話した感じ優秀な子だと思ったよ。経験は不足してるけど、これから学んで行けば立派な商人になれるでしょ」
「あなたにお褒めいただけたなら合格ですな」
「でも、それとこれは別。
ちゃんと話は通して貰わないと。
こういうのは有耶無耶にせず、きちんとしておかないとね。これからも事後承諾でいいとか思われたらいつどんな問題が起こるか分かったものじゃない。
老獪な商人だから、そこまで馬鹿じゃないと思うけど。
「あの子は才覚はあるのですが生まれに問題がありましてね。
歳を取った資産家の庶子なのです。
そのせいで才能に見合った待遇が受けられない」
「才能と環境が噛み合わないのはなにもあの子だけじゃないでしょ」
人が世に出るには当人の才覚だけじゃままならないことが多い。
環境、生まれとかコネがないと能力を発揮する場に出ることすら叶わずに埋もれて行ってしまう人もいる。
運悪く病気になるとか、戦争に巻き込まれるとかもある。
残念ながら世の中は理不尽だ。皆が皆、才能と努力に見合った職に就けるとは限らない。
「無論そうですが、それを調えてやれる立場におりますので、少しでも手伝いをしてやろうと思いましてね」
「なんで僕?」
それならそれでさ、どこかの店舗でそれなりの役職を与えりゃいいんだよ。
ハゲ狸は商会のトップなんだから。
まあ、それができないからの采配だろうけど。そこは僕が察してやる必要はない。ちゃんとハゲ狸の口から言わせないと。
「人というのは見掛けに寄らないものです。本質を見極める訓練にはでん……あなたがちょうどいい」
殿下って言い掛けてやめたな。
どこで誰が聞いてるか分からないからね。王宮の外じゃレクスで通して貰わないと。
「あなたほど見た目と中身に差がある分かり易い例はおりませんので」
「……それ、褒められてる?」
「貶してはおりません」
褒めてもないだろ。
「で、それだけじゃないでしょ」
「そうですね。貴族の方々の相手をする訓練にもこれほど適任はおりませんから」
僕なら、多少粗相がっても手討ちとかしないからね。
特に女の子だとさ、うちの子たちのこと思い出すから厳しい罰なんてできないんだよね。
ハゲ狸は僕のそういう甘いところを見抜いて、エメラインの教育に利用しようってわけだ。
「要約すると、うっかり外で作っちゃった子供だけど、やっぱり娘は可愛い。でもあんまり厚遇すると奥さんや子供たちに睨まれるから、適当な仕事を割り振る必要があった。ちょうど甘ちゃんの偉いさんがいる。よし、押し付けよう、ってことでいい?」
なにが資産家だ。
自分の子なんだろ。
じゃなきゃ、僕に付けるはずがない。
「末永く眼を掛けていただけるかと思いましてね」
「手を付けろって? 10歳の子供になにを言ってんの」
「ずっと10歳というわけでもありますまい」
「当たり前だよ。不老不死じゃないんだから」
そりゃ僕だって日々成長してるよ。
相応の年齢になれば側にいる綺麗な女性なら……
「一応確認するけど、本当に実子?」
「はい、さようで」
「遺伝子が仕事してない」
「はい?」
遺伝子って言っても分からないよね。
別に分かって貰う必要ないけど。
エメラインは可愛いというか、将来きっと美人になるよ。うちの子たちには負けるけど、それほど劣ったものでもない。
なんというか、ハゲ狸の要素が1つもない。
突然変異にもほどがある。
「母親似で良かったね、あの子」
「喧嘩を売ってらっしゃる?」
「自分に似た娘が欲しい?」
「……」
あ、黙った。
さすがに自分似の容姿の娘は悩むのか。
「冗談は抜きにして、私も年齢が年齢です。あなたとの商談は楽しいですが、いつまで続けられるか分かりません。
私になにかあったとして、それじゃ後継ぎと同じように商売をしてくださるかと言えばそうでもないでしょう」
「まあね」
僕が商人として信頼しているのは飽くまでもハゲ狸当人。
その後継者じゃない。
ハゲ狸になにかあったら、商売相手を変える可能性は十分にある。
「あなたとの商売を余所に取られるのは余りに惜しい。だから、今のうちから引き継げる者を育てようと思いましてね。
エメラインがうまく行けばよし、駄目なら次の者に交代させます」
「いいの?」
「もちろんです。
あなたと少しでも係わるだけでも、あの子には勉強になるでしょうから。
あの子は頭は悪くないのですが、いかんせん毒がない。現場でいきなり毒を浴びせると潰れてしまうかもしれません。優しい猛毒に晒すのも親心です」
「ひょっとして、僕のこと毒と言った?」
「猛毒」
怒
なに、優しい猛毒って。猛毒なのに優しい? 毒に優しいとか厳しいとかある?
「あの子なら、きっとあなたともうまくやれる。未熟で、まだまだ経験が浅いからこそ非常識なあなたに合わせられると思いましてね」
ディスるなあ。
「1回不敬罪になってみる?」
「レクスという少年を敬う必要が?」
……そうだよ、レクスだよ。
今の僕は王族じゃないよ。王族じゃなけりゃ不敬罪もなにもないよ。
「手を付ける予定はないからね。ちゃんと縁談を考えてあげるといいよ」
「竜公女様が恐いですか」
「別に恐くない」
恐くはないよ。
あの子が大魔王でもね。
うん、嫌われるのが嫌なだけ。
「婚約者だけで手一杯だよ。あの子たち全員と結婚したら、外で女性に手を出す余裕なんてない」
「そこはお父上に及びませんか」
「及びたくも無いよ」
妃が沢山と愛妾が沢山と、非公式愛人が沢山。
国王としての仕事ぶりは尊敬できるけど、女性関係は駄目だ、あの人見習っちゃ。
「ま、そちらはあなたが気が向いたら程度の話です。無理におすすめする気はありません」
本音はどうなんだか。
古狸だからね。中々腹の内は読めない。
「そう言えばお付きの子もいたね。えらい元気な子」
かなり失礼でもあったけど。
「リリィーアーネスですな。申し訳ありません。エメラインの付き人なのですが、幼馴染みでもありまして。また、エメラインに対して過保護なので」
「それだけかな」
「どういう意味でしょう?」
「案外、いきなり乱入することで僕の反応を窺ったのかもしれないよ。エメラインの商売相手として安心できる相手かどうかを見定めた」
まあ、それだって僕以外の貴族だったら酷い罰を受けることになったろうから、賢いやり方とは言えないけど。
「なんにしろ、忠臣は大事にするといい。最低限の礼儀は弁えさせないと主の足を引っ張ることになるけどね」
自慢じゃないけど僕にはそういうのがいない。
リチャードは……たぶん、危なくなったら僕を売る。
確信がある。
何故なら、逆の立場なら間違いなく僕はリチャードを売るから。
売るんだ……
リチャードに後ろから刺されないようにね




