演目「竜公女」 オチ
○村~、後ろ後ろ~
※
王宮からの正式な使者によって届けられた手紙。
座長の男は恭しく、というかぎこちない動きでそれを受け取った。
「本当に返事が来るとは思わなかった」
伯爵家を仲介して謝罪文を送ったものの、無視されるか罰されるのではないかとヒヤヒヤしていた。
王族の機嫌を損ねれば下級貴族の後ろ盾があろうと平民の劇団など簡単に潰される。それどころか不敬罪に問われたら死刑もありうる話だった。
劇団のパトロンであり、『竜公女』の話を持って来た貴族は先日の伯爵令嬢の一件を話すと自分は関係がないとさっさと劇団を切った。
そうなると王族に対する不敬とも採れる芝居をした責任は劇団にのし掛かる。
平民がなにを言おうと貴族に責任を取らせるのは無理だ。パトロンからの要請で演じていたという証拠などないのだから、パトロン貴族を告発したところで水掛け論になり、そうなれば貴族の証言に重きを置かれるに決まっている。
正直なところ、役者たちはここ数日生きた心地がせず、芝居の方も休業していた。とてもではないが、できる状態ではなかった。
「なんで書いてあるの? なにか罰でもある?」
「入牢か? まさか縛り首ってことはないだろうな」
役者たちが座長を取り囲む。
座長は高級紙に書かれた文面に黙って眼を走らせ、それから大きく吐息した。
「お咎めは無しだ」
おおおぉぉぉ
一同が歓喜に湧く。
皆、なにかしらの罰を覚悟していたから、なんの咎めもないと知って安堵したのだ。
「物語としては面白い、と第3王子殿下が認めた旨を明記するようにだそうだ」
「どういうことだ?」
「つまり、うちの芝居は作り事で事実とは違う、と殿下が明言なさったということだ。それを誤解のないようちゃんと客たちに知らしめるなら、公演は続けてもいい、と」
「いいのか?」
「いいんだと。仇の王子役は、もう少し見映えがいい役者だとなお良いそうだ。……伯爵令嬢もそうだったが、まだ10歳の子供なんだよな?」
「そのはずだ」
「貴族ってのはこええな。子供でも、こんななのか」
第3王子とその薫陶を受けたミリアが特別なだけであるが、役者たちは当然そんなことは知らない。
「王侯貴族に関わる話をやるときは十分注意するようにともある」
「ねえ、待って」
竜公女役の女優が怪訝な顔をする。
「なんだ?」
「第3王子殿下は随分と具体的な話を書いてらっしゃるけど、どうして知っているの?」
物語として面白いかどうかはあらすじでも聞けばいいとして、男優の見映えがどうのという話はまるで実際にその眼で見たような物言いではないか。
「お忍びで来てたんじゃない? 偉い人って、そういうのやるんでしょ?」
と言ったのは一際小さな人影だった。
「なんだ、レクス、いつ来たんだ?」
「さっき、なんか上等な馬車が来たときだよ」
少年は正面玄関の方を指差した。
王宮からの馬車の到着で一同の注意がそちらに向いている間に来たらしい。
「お忍びって、王子様が? さすがにやらないでしょ」
「でも実際、見に来たようなこと書いてあるんでしょ?」
「そりゃそうだけど」
役者たちが顔を見合わせるのを、レクス少年は愉快そうに眺めていた。
手紙、自分で届けたら?
彼の性格の悪さは婚約者たちの折り紙付きです




