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可愛い婚約者は、どこか変  作者: S屋51


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89/90

ギャンブル オチ

 イリア嬢を馬車まで送り、賑わう賭場に戻る。

 お金、そのまま置いて来たからどうなってるかと思ったら、無事消えてた。いや、なんで僕に無断で消えるんだよ。

 いいんだけどね。どうせ、店長かデュパンさん辺りが今日の負け分を負けた人たちに返還して、後は飲み代に回したんだろうし。でもさ、一言あって然るべきじゃないの?

「よう、色男。その歳で、もう女を口説いてるのか」

 半分出来上がってるデュパンさんが出迎えてくれた。って、早いな。僅かな時間にどんだけ飲んだの?

「そんなじゃないですよ」

「ほい、これ」

 と、デュパンさんが金貨入りの小袋をくれる。いや、僕が受け取ったものなんだけどね。

 中身が大分減ってるから、やっぱり分配は済ませたらしい。

 20枚の口止め兼慰謝料のうち半分以上が消えていた。飲み代として店が取ったんだろうね。飲み代、肴代に酔って騒いでる連中が壊す椅子やテーブルの修繕費。別に儲けるつもりじゃなかったからそれはいい。赤字にならなけりゃ僕の勝ちだ。

「にしても、レクス、おまえさんエグいね」

 酔ったデュパンさんが肩を組んで来る。

 酒臭い。

「俺が酷いことしたみたいに言われてもなあ」

「いや、酷いだろ。貴族の家に値段を付けさせようとするなんて、酷い拷問だ」

「あのご子息は好きになれませんが、正直、可哀想になりました」

 と、トロイさんが付け加える。

「あれぐらいやらないと懲りてくれないでしょ。庶民の店で貴族の流儀は通用しない、させちゃ駄目って覚えて貰わないと」

 あの年齢の子供にはちょっときつかったかな。でも、良い勉強になったはずだ。

 階級社会なんだから、棲み分けはして貰わないと。

 もし今日のことがトラウマになったりしたら……まあ、それまでの子だったということで。

 厳しいんだよ、この世界。

「追い込み方がエグいよな」

「ええ、普通にカードゲームに誘ってるフリして、実際はゲームなんてどうでもいいんですから」

「そう言えばよ、おまえの手役はなんだったんだ?」

「ああ、そうですね。一度見ただけで伏せてましたが、余程いい手役だったんですか?」

「3のワンペア」

 ぶっ

 って、デュパンさんが酒を吹き出した。汚いなあ、もう。

「おまえ、ほぼ最弱じゃねえか」

「ノーハンドじゃなきゃどうでも良かったんですよ」

「そもそも、カードで勝負する気は最初から無かったわけですか」

 トロイさん、なんでそんな呆れ顔するかな。

「カード勝負は所詮は運に左右されますからね。少しでも勝つ確率を上げたいなら、コントロールできるところで戦わないと」

「あの坊主はカード勝負するつもりだったろうに。ホント、気の毒な話だ」

 あっちがどんなつもりだったかなんて僕の知ったことじゃない。勝つための手を打っただけだよ。

 例えるなら、相撲をするように見せかけて、土俵に上がろうとした相手の足下に落とし穴を用意しておいた、というか。

「彼は勝つ道だってあったんですよ。あのままちゃんとゲームを続行していれば、かなりの確率で勝てた」

 なにしろ、僕は最底辺に近い役で勝負してるんだから。

 勝負をしなかったのはあちらの勝手だ。

 経験と胆力が足らなかったね。

「そういうところが、えげつないと言うんです。今後、レクスさんとだけは賭け事をしないと今決めました」

 酷い言われようだ。

 店のため、庶民の楽しみに要らん横槍を入れさせないためにも頑張ったのに。


          ※


 街と王宮を繋ぐ秘密の地下道。

 僕がそれを見つけたのは4歳の頃だったかな。

 長いし、暗いし、知らない人間が迷い込んだら途中で挫けるだろうね。

「姫さまにはどこまで報告しようか」

 急に声を掛けられてさすがに驚く。

「アル、お願いだから気配を消して近づかないで」

 僕の持つランタンの明かりに浮かんだのはダークエルフのアルティーネ。うちの食客兼監視役兼護衛。

 最近、お忍びで王宮を抜け出しても彼女が気配を消して護衛しててくれてる。というか、ずっと見張られてる。

 エルフもダークエルフも人間より身体能力が高いからね。そこらの騎士より余っ程強いし、隠密行動もマタギも真っ青なぐらい見事に気配を消してる。

 彼女が気配を殺していれば、王都を歩き回っても殆どの人が気付かない。

「アルにはリアルテへの報告義務なんてないでしょ」

 アルティーネのボスは森の巨猪。精霊の類だね、たぶん。それの命令で僕を見張ってるだけで、リアルテとの直接の上下関係はない。ないのに、アルもエルフのリルフィーネもリアルテのことを「姫さま」とか言うんだよね。

 逆らっちゃ駄目な相手って本能的に分かってるらしい。

「殿下の行動はなんでも教えて欲しいと頼まれた。乙女の恋心は無碍に出来ない」

 うんうん、と独りで頷かれてもね。

「それで、どこまで話そうか。王都で独りだけ羽を伸ばしてること? 賭場で貴族の坊ちゃんをボコボコにしたこと? 貴族令嬢姉妹と逢い引きの約束をしたこと?」

 ちょっと待て、1つ不穏な単語があったぞ。

「逢い引きの約束なんて……」

 したことになるの?

 お詫びもかねてお茶の席を用意するだけなんだけど。

「その辺り、姫さまが一番知りたいと思う」

「伝えなくていいから」

 僕に疚しいところはないけど、女性との約束となると面倒な誤解を生みかねない。

 そんな話、わざわざリアルテに教える必要はないよね?

「口止め?」

「そんな大袈裟な話じゃないから、無理に話を大きくしないように」

「姫さまは殿下のことならなんでも知りたいお年頃」

 ……普段口数少ないくせに、妙に絡むな。声に感情が乏しいから、棒読みに聞こえるのはアル仕様。これでもすっごく感情込めてるつもりなんだよ、当人は。

「つまり、口止め料を払え、と」

 本当に報告義務を感じてるなら、僕に断らずに報告すればいい。

 そうせず態々報告していいか確認に来たってことは、まあ、そういうことなんだろう。

「わたしはメンチカツが好き。モルトの10年ものも大好き」

 メンチはともかく、モルトって……。

「あれ、量が少ないんだけど。君んところのボスへの供物が減るよ」

「試飲は必要」

 ものは言い様だよね、ホント。

 大きな蒸留所がまだないから、作れる量には限りがある。蒸留所が少ないから必然的にシングルモルトになってるのが皮肉だね。これから蒸留所が増えたらブレンドも盛んになるだろう。

 とにかく今はまだ全体量が少ない。今、蒸留所を鋭意増強中ではあるけど現段階でモルトは希少品と言っていい。

 しかも10年ものとなると、リアルテに頼んで魔法を使って貰ったものしかない。

 もちろん、僕が頼めばリアルテは喜んで手を貸してくれるよ。ただ、あの子は張り切り過ぎるから。最近は魔法の使い過ぎで倒れたりしなくなったと言っても心配は心配だよ。

 どうしてものとき以外はリアルテの手を煩わせないようにしてるのに、10年ものを要求されるとはね。本来なら時間を要する10年もの。魔法で熟成を進めてるのは疑似10年ものと言うべきかな。

「試飲というなら、コップに一杯だけ。メンチは日に3枚、3日分」

 アルはむううと唸ってから、

「分かった、それで手を打つ。殿下の女遊びは口外しない」

 いや、女遊びしてないから。

 …………してないよね?

女遊びはしてないよねえ

そういうところだぞ、レクス

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