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可愛い婚約者は、どこか変  作者: S屋51


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元令嬢は少しだけ後悔する・下

「……殿下は、いつから商売を?」

「3年ぐらい前かな。5歳の頃にニマール商会と取引を始めたのが最初」

「ニマール商会の会頭が時折王城に顔を出すのは存じていますが、殿下とそんなに前から付き合いがあるのですか?」

 5歳児が商会のトップと商談してたら目立つよね。

 一体いつ、どこでどう繋がったのか、たぶんロゼはそこが疑問なんだと思う。

「殿下は時々ふらっと姿を消しますからね」

 リチャードがまた余計なことを言う。

「それはどういうことでしょう?」

「分かりません。そういうときは探しても見つからないので」

 態とらしく肩を竦めないように。

 僕が王宮を抜け出してることに気付いてるくせに。

 前は日暮れから夜に掛けてとか、周囲に怪しまれない時間に街に出てたけど、リアルテが来てからは昼間に行くことが増えた。

 リアルテが一緒に寝たがるから、夜は宮にいないといけないからね。

「まさか殿下、無断で出掛けていらっしゃるのですか?」

 真面目なロゼが僕を咎めるというか、訝しむというか、そういう眼で見て来る。

 あれかな、ロゼは委員長タイプ?

「1つ確かなのは、ニマールの会頭との公式の面会時間ぐらいじゃ、とても商売の細かいところまで話し合えないってことですかね」

 そりゃそうだ。面会では主に報告だけだから。

 詰めた話は商会でやってるよ。

「そうだ、ロゼ。僕は君を使用人というより身内と考えてる。帳簿を見せたのも、それだけ信頼しているからだと受け止めて欲しい。

 リアルテに対しても家庭教師というよりも姉として接して欲しい。いいことをすれば褒めて、悪いことをすれば叱ってくれればいい。

 一度会って挨拶したから分かると思うけど、あの子は人見知りをする。暫くはぎこちないだろうし、会話しても反応が薄いだろう。それは根気よく時間をかけてくれれば改善するから、どうか見放さないでやって。

 とても頭の良い子だし、人を見る眼もあるから、ロゼのことを信頼できると感じれば態度も変わって来るから」

 身近に信頼できる年上の同性がいなかったからね。

 ラーラは使用人としてしか接しないからまた違うし、実母は早くに亡くなり、義母はリアルテを娘として扱わなかった。

 僕に相談できないような、同性同士の話ができる相手はいた方がいい。

 ロゼには是非そういう役目をこなして欲しかった。

 昔から頼れるお姉さんって感じだったからね。うまく行くと思うんだ。

「殿下が引き取られているから噂も立っていましたが、公爵家には問題があったのですね?」

 さすがにロゼは話が早い。

「リアルテにとって好ましからざる環境だった。婚姻前の僕が保護するのも多少問題はあるけれど、それを推しても引き取るべきと判断する程度にね。彼女が人見知りなのは環境のせいが大きいんだと思う」

「俺はまだ挨拶ぐらいしかして貰えませんけどね」

「用がないからだろ。それに、係わる価値が無いと判断してるのかもね」

 軽口を叩くリチャードに僕も軽く返す。

 実際、リアルテとリチャードって僕を介してしか用はないから。

 それに子供とは言え未婚の令嬢だからね、他家の男子と妄りに話すのはよろしくない。

 本当にリアルテがリチャードを価値のない人間と判断していたら、僕になにかしら言うだろう。それがないのだから、リチャードに興味も用もないというだけだ。

 大体、公爵令嬢に挨拶以上のなにを求めるってんだか。

「分かりました、できるだけ距離を縮めてみます。

 それはそうと、王宮を抜け出している件はまた時間を作ってじっくりお聞かせ願います」

 ううん、誤魔化せなかったか。

 手強い。

 ロゼは気を取り直すように深く呼吸をしてから、

「殿下を常識で考えてはいけないことは理解しました。もうなにを聞いても驚いたりしません」

 なんか引っ掛かる言い方だけど、切り替えたんだね。

 確かにね、僕の宮は他のところと色々違うから、一々驚いていたら仕事にならない。これまでの常識を捨ててくれるとやりやすい。

「そうそう言い忘れてたけど、リアルテは大魔王だけれど気にしないようにね。大したことじゃないから」

「………………は?」

 あ、ロゼのキャパをオーバーしたみたい。

 表情が埴輪みたいになってる。

「いつも思いますけど、そこを大したことないという認識が大きく間違ってますからね」

 リチャードは知ってるから今更驚いたりしない。驚かないけど、なにを間違えているというんだろうか。


「すみません、ええと、ですから……大魔王というと、あの建国神話の?」

「そうそれ。やっぱり知ってるよね」

 建国神話は子供に聞かせたりもするから、概要を知ってる人は結構多いんだよね。

「その大魔王なんですか、リアルテ様が?」

「そう大魔王」

「本当のことですか?」

「リアルテが自分でそう言って、特別な魔法の才もあるからね。たぶん、間違いないと思うよ」

「もしそうなら大したことだと思うんですが……」

「なんで?」

「大魔王と言えば魔王たちを率いて人類を苦しめた存在ですよね。勇者一行に討伐されてなければ人々を支配していたかもしれない。その生まれ変わりとかですか?」

「さあ」

 僕は当事者じゃないからね。

 飽くまでもリアルテやラーラに聞いただけ。

「なんにしろ、大問題だと思うんですが」

「どこが? 大魔王の生まれ変わりだかなんだか知らないけど、我が国の法にそれを取り締まるものはないよ」

 大魔王の転生体はこれを認めず、とか、そんな条文はない。

「え、あ、そうですが、普通に考えて……」

「普通というのは多くの例が存在して平均を取ったりしないと導き出せないものだけれど、君はなにが普通であるかを論じれるだけの大魔王についての情報を持っているの?」

 建国神話でしか出て来ないものに対してさ、普通とか異常ってどう定義するんだろうね。

 こういうのはさ、畳み掛ければ真面目な人間ほど考え込んじゃう。

 ロゼは真面目だから、なにをもって普通とするべきか考えてんだろうね。

「君も会ったから分かると思うけど、リアルテは普通の女の子だよ。

 確かに変わった魔法を使えるけれど、それを言ったらシーラもだよね」

「……シーラ様は聖女ですよね。勇者パーティーの。いいのですか?」

「仲良いよ、あの2人」

 はっはっ

 頭抱えてるよ。

 勇者だ魔王だってどういうシステムなんだか。

 みんなすんなり存在を受け入れるんだよね。建国神話あるし、実際に聖女いるし。

 でも、じゃあ大魔王ってなんぞやってなるとどうにも分からない。

 建国神話じゃ大魔王は悪役だし、大魔王ってぐらいだから悪そうだけど、リアルテはなにも悪いことしてない。

 悪いことしてないのに大魔王だからって虐げたりするのはさ、差別だとかレッテル貼りだとか言うんじゃないの?

「不安なら、君自身がリアルテの行動に注目していればいいよ。それで危険だと思ったら通報でもなんでもすればいい」

 って、この場合はどこに通報するんだろ?

 賊の類なら衛兵隊とかなんだけど、大魔王についての通報って……。

 教会?

 でも、教会から大魔王を見掛けたらご一報くださいと言われた覚えないしね。

「大魔王って、どこに報せればいいの?」

 煽るつもりじゃなく単なる疑問だったんだけど、ロゼも考え込んじゃった。

 建国神話に出て来る大魔王が復活したっぽいんですけど、どうしましょう、って誰に言えばいいのかさっぱり。

 魔王対策局とか魔族特務課とかないからね。

 一応、危険な魔獣が出たりしたときは騎士団が出るけど、それを専門にしてる部署もないからなあ。

 騎士団が出張らないといけないような魔獣被害って少ないんだよね。だから貴重な人員をそれだけのために待機させておくのは非現実的。

 どこかの貴族領なら領主が私兵を使って対応する。或いは民間の狩人を雇う。大抵はそれでなんとかなる。どうしてもの場合は国に支援を要請する。

 貴族領に国の騎士団が派遣されるような獣害って年に数件じゃないかな。

 あの森の大蛇や巨猪なんて例外中の例外だし、必ずしも敵じゃ無いしね。

「ま、それこそシーラが側で見てるんだから、なにかあれば教会が対応するでしょ。今現在なんの罪も犯していないリアルテを問題視する方がどうかしてるよ」

 シーラは完全にリアルテに餌付けというか、取り込まれてる気がするけど。

 それでなんの問題も起きてないんだからいいじゃん。

「無駄ですよ、殿下はリアルテ嬢のことになると全力で言いくるめに来ますから」

「人聞き悪いな。問題ないものを問題ないと言っているだけだよ。大体、今でも独り寝は寂しいと言う子になんの危険性があるというの?

 とにかく、ロゼは騒ぐ前に自分の目と耳でリアルテがどんな子か確りと確かめるように」

 大魔王とか言われても対処に困るよね。

 襲って来た、脅迫して来た、なら危機感を持つのもわかるんだけど、おやつをねだって来た、デートをせがんで来た、だからね。

 今でも時々お昼寝する子供だよ、あの子。

 さすがにお昼寝のときは僕は一緒じゃないけど、僕のベッドでぬいぐるみ抱いて寝てる。

 ……なんで自分のベッド使わないかなあ。

「分かりました」

 と言ったロゼは納得してない顔だね。

「アンネローゼ嬢、後悔してません?」

「そこまでは……情報量が思った以上に多いので咀嚼に時間がかかっているだけです……少し」

 その少しは情報を飲み込む時間のことか、それとも後悔のことか。

 僕は敢えて問わないでおいた。

第3王子のところでは常識人ほど苦労する

頑張れドリル令嬢!

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