21.ダンジョン誕生
ボーレイでルチアーノが話し合いを始めたころ、首都ビーブリッグではイェータが中心となり、話し合いが始まっていた。
本来ならば王ルチアーノが仕切るべきなのだが、救助を優先した為、この場に居ない。この急激な国の成長にすべてが後手に回っている。これ以上混乱を招かさないために、側近を招集し、話し合いが進められているのだ。判断の遅れは、国の混乱を招きかねない。
食糧庫を確認すれば、この首都だけで考えれば一ヶ月は持つが、国全体に配るとなれば、一週間ほどで底をつく。だが、一週間で作物が育つわけでもなく、食糧難に陥るのが目に見えていた。早急に隊を組んで近隣の森や畑の視察をすることが大事だ。
その上で守護者である小夜子に、報告することになっていた。
その話し合いの末、ある程度の素案が出来た。
「一先ずこれで」
「ああ、そうだな。以前からあるダンジョンがどのように変化しているのかも、早急に確認せねば」
「そうですな。今は黄金よりも、目の前の食料」
こちらに来たばかりの守護者小夜子は、しっかりとしていると言えども、今はまだ子供。向こうの世界では成人していたと王ルチアーノはいうが、こちらの世界ではどのように対応するべきなのか、決めあぐねている。守護者とはこの世界では王より上の立場。だが、どの国も近年はその国の王がその立場を担ってきた。だからこそ民は何をしてくれるのかと、期待を寄せてしまう傾向がある。それは眠っていた側近に多い。数字ともいえども小夜子と共に行動し、変化していく様子を知っている者からすれば、今以上求めるのは違うと感じていた。その差は意外に深い。
この偉業を僅か数日で起こしたなどと、それを目の当たりにしたものでしかわからないだろう。だからこそ、求め過ぎないよう、調整が大事だ。
イェータはここまで回復させることが出来た守護者なら当然これぐらいは出来るだろう、と言わんばかりの案に溜息をつく。現状を把握することさえ出来ていないというのに、自分の利権の話が多いとは嘆かわしいことだと頭を抱えて机に蹲った。
さて、どのように伝えるべきか。
このような他力本願なことばかり言い募る側近など、小夜子に張り付くようにいる精霊様が、冷たい眼差しで刺してしまうに違いない。
眠っていた自身の責務などない、などと透けて見えるその腐った根性。叩きのめしてやりたいわ。
***
『小夜子、場所はこの辺りがいいのではないですか?』
「こんな近くに作って、ラノベでお約束のスタンビートなんて、起こらないの?」
『お約束、がどのようなものか存じませんが、小夜子がこの世界にいる限り、ありえません』
「じゃあ、私が居なくなったら?」
『当然、なくなります。私との契約が切れますから』
「ああ、そういうこと。本当に契約者で決まるんだね」
『ええ、私はあなたの精霊ですから』
「本当は、ダンジョンの場所はルチアーノと相談すべきなんだろうけど、食料は急務だし。守護者という立場を行使ってことでいいかな」
『ええ、守護者とはそういう者です。国を作り、護る者。自分の国を豊かにする行動を、誰も止めることは出来ません。例え、王であっても』
「……凄い考えだね」
『事実です』
あははっ………。
小夜子はスターとの話の中で、精霊とは契約者至上主義なんだということを実感した。
でも、その言葉に間違いはない。そういう者だと、画面にも説明が出る。
小夜子は国を好き嫌い、自己満足で変貌させるつもりはない。
だけど、アレコレと言ってくるやつは出てくるだろうと思っている。どこの世界でも、一枚岩で物事が進むことはない。それがいい方向に進むこともあるし、障害になることもある。これからのことはどちらかと言えば、障害になることの方が多いと思っている。どうせ考えても答えが出るわけじゃない。行動に起こす前に考えろというのが普通だけども、飢える可能性があるのなら、やってしまうべきだ。
文句があるなら消せばいい。
そして文句を言って来た者が食料調達すればいいのだ。
小夜子はそう思うとすぐに実行に移すことを決めた。
本来ならそんな力を持っていることが普通ではない。だから作る、消すなどと簡単なことのように話す小夜子とスターが可笑しいのだが、それを説明する者がここにはいない。だからこそたった1日で首都から5キロしか離れていない平原に、ダンジョンが出来てしまった。
一階は誰にでも採れる、野菜ダンジョン 5歳以上なら可
二階は肉(小動物)ダンジョン 奨励 12歳以上
後にEasyダンジョンと呼ばれることになったこのダンジョンは、小夜子が生きている間はアイルーロスポリスから飢えを無くすことに成功することになる




