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『海人と柊』~女装男子~  作者: なにわしぶ子
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62話~追い付いてきた物語~



「僕の想定外な事が起きました。今はここまでしか話せませんが。」


新年を迎えて、初めてJがしぶ子の元を訪れた。

その姿はかなり疲れ果てていた。


しぶ子はその言葉が気になったけれど、それよりJとコンタクトが取れて少しほっとしていた。


想定外な事が起きたとしても、頓挫したならここに来れないはず。とりあえず、物語は続けて大丈夫って事だと捉えた。

まだ、チャンスはあるに違いない。


とりあえず、今は頑張る時なのかも。

それに何より、このまま宙ぶらりんは嫌なものだ。

結末がどう転んでもここまで来たからには、自分自身が納得出来るゴールを迎えたい。


しぶ子はそこから数日間、小説投稿サイトへの投稿のスピードを早めた。


今までは、アプリにいくつかの話を残し、少しストックを残しながら、21時の予約投稿で毎日アップをしていた。


気づくと1月10日にそれは底をついていた。


ストックは無くなったけれど、まだ内容の時系列は

現在に追い付いてはいない。


【現在に物語が追い付く日】


恐らくそれがポイントな気がする。何となくだけどそう感じた。







2020年1月11日



その日も、しぶ子の元にJが訪れていた。


「しかし、古墳の上空に飛んで、光の渦に飛び込んだとか?何でもありか!みたいな世界観だよね。

もうそこまで驚かない自分がいるけど。まぁいいや、光の渦に入ってからはどうなったの?ホワイトとの関係性もわかってきたけど、J、早く続きを教えてよ。」


しぶ子は、ストックが無くなり物語の展開が

全く予想出来ない状態になり、これからどう進むのか全くわからなくなっていた。


「はい、じゃあ少し腹を括って下さいね。」


「括る?何それ。あぁ……今度はきっとあれだ!

古事記のくだりを確かめに行くんでしょ?じゃあ飛鳥時代から少し先の時代に行くのかなぁ、確かめる為に。」


「はい、それで合っていますよ。」


Jはにっこり微笑みながら話し始めた。


「え……そんな…………。」


Jの口から語られた話には、身に覚えがあった。

それは、さながら物語の中で2019年10月13日にタイムトラベルしたかの様だった。

そう、それは忘れもしない、しぶ子の前に女装男子が現れた日の出来事だった。



「待って?43話からは私が出てくるの??古事記の確認はいいの??」


「大丈夫です。そのくだりはまたあとで必ずわかります。ここからは、逆に書きやすい反面、その背景を知ってしまう事になります。だから、腹を括って欲しいんです。」


「わかった…でも、名前がしぶ子なんて!!言ってくれてたらもっと可愛らしい名前にしたのに!!」


しぶ子は床を転がりながら悶絶をした。


「でも僕、ホワイトさんからしぶ子さんが自分でペンネームは決めたって聞きましたよ。その名前が一番大切で大好きだからって。」


しぶ子は少し考え込むと、黙って静かに小さく頷いた。


「では進めます。しぶ子さん書いてください。」


Jに促され、しぶ子は43話の下書きを書き終えた。

書き終えたあと、投稿する事を躊躇う自分がいた。


これからは、予約投稿とかではなく

書いてすぐ投稿みたいなスタイルに、きっと変わっていくのだろう。そして、【今】に追い付く日がきっと来るのだろう。


その時の自分は、どんな自分でいるのだろう。


そんなしぶ子をJは急かす事はせず、静かに見守った。


そして翌日の、2020年1月12日

1日、()を置いて、しぶ子は43話を投稿したのだった。







小説の中に自分を登場させるなんてとんだナルシストだよな。


別目線でそんな事を考えながら、しぶ子はその日も、物語の言の葉を積み重ねていた。


女装男子と大仙陵古墳へ行ったあの日の事。

色々を勉強する為に切磋琢磨したあの日の事。

あの時の海人の気持ちをはじめて知り、しぶ子は胸が締め付けられた。


そうこうしてる間に、物語の中の時間の流れはさながら時間旅行の様に進み、【今】に近づいてきていた。






2020年1月20日-


しぶ子の脳内にいきなり、人の様で、もはや人ではない

身体の表面が崩れ落ちた姿の、誰かが視えてきた。


それは、さながらピラミッドの石室で長い眠りについていたミイラの様な、そんな姿。


「泣いてる……。」


その存在は、右手を頬に当ててそして静かに泣いていた。

しぶ子も気づくと泣いていた。


これは誰? 


まさか柊?実は知らない間に目覚めてるとか?

こんな姿なのが何故かはわからないけど、でもそれだと違和感がある。


まさか、海人とか言わないよね。

でも、そうなら辻褄があう。海人が私の所に来なくなった理由。実は病気になっていたのかもしれない。

もしそうなら、そんな展開を今から書かないといけないの?そんなの、きつすぎる。


しぶ子は心が乱れるのを感じながら、ここで冷静さを欠いてはいけないと、極力気持ちを切り替える様に努めた。


すると、Jがやって来た。



J「視てしまったんですか?ではさらに腹を括って下さい。僕からはこれ以上は言えません。では今日は54話です。いきますよ?」


しぶ子は黙って言葉を書き留めた。

54話の中で、海人の身体にはヒビの模様が走り、異変が起きはじめているようだった。


「やっぱりあれは海人なの?ヒビって何なの!?」


Jは悲しい目を向けるだけで、答えてはくれなかった。

ひょっとしたら時空を越えすぎて、身体がミイラ化していってるのかもしれない。


「何で私に言わないのよ、バカ海人……。」


しぶ子は泣きながら、言葉を綴り続けた。





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