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『海人と柊』~女装男子~  作者: なにわしぶ子
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56話~祈り~



 海人は通い慣れたしぶ子の部屋にいた。

枕元に置かれたしぶ子のタブレットは、2019年11月14日の午前6時25分を表示していた。

しぶ子は、まだ夢の中の住人だった。


もう少ししたら、目覚ましのタイマーが鳴って起きるはず。

海人はしぶ子が眠る傍らに座り込むと、しぶ子の寝顔を穏やかに見つめながら待つ事にした。


するとタイマーが鳴るより先に、白猫がしぶ子を起こしにきたのか室内に入ってきた。

白猫はゆったりと歩を進め、海人に向かってにゃあと鳴いた。


「お前、俺の事がわかるの?」


海人は少し驚きながら白猫に話しかけた。

白猫は自分の身体を押し付ける様な仕草をした後、海人の指を毛繕いする様に舐め始めた。


「あまり強く舐めるのは勘弁してね。まだそこは多分大丈夫だけどさ。」


自分の指にじゃれる白猫にされるがままになった後海人は白猫の頭をゆっくりと撫でた。


『さっき柊に反応があった。』


突然猫が話し出して、海人は目を丸くした。


「え!?その声、ホワイトは猫なの!?どういう事??」


そんな海人をよそに、白猫はあくびをひとつすると


『戻って確認するといい。柊が声かけに顔をしかめたり僅かだが反応をみせる様になった。この世界の先の未来が変わりはじめているのは確かだ。』


そう言うともうひとつ大きなあくびをして、右足で右耳の後ろを掻きはじめた。


「柊が………。」


海人は鼓動が早くなるのを感じながら、ふと横を見た。

そこには、等身大のミラーがあり、海人の姿を映し出していた。


「そんな……。」


海人はゆっくりと、自分の左手を頬に当てた。

触れた瞬間、ヒビ模様が走り始めた左頬の皮膚の表面が、パラパラと床に落ちるのがわかった。


海人の目から、次から次へと涙がこぼれ落ちた。



あぁ……


やっぱり嫌だよ……

醜い姿になっていくのは嫌だよ……


こんな姿じゃ驚かせちゃうじゃないか

柊に会えないじゃないか


Jにはあんなに偉そうな事を言っておいて

柊の為なら何でもやるなんて言った癖して


俺って本当に弱っちい、ホントカッコ悪い


柊がもしかしたら目覚めるかもと聞いたら

こんな姿でもう会えないって思ったら


余計に会いたくなるなんて………


矛盾しまくりな自分が嫌になる……

本当に嫌になる………………


海人は、気づくと堪えきれず子供の様に

声を出して、泣きじゃくっていた。


すると、アラーム音が鳴り響き、しぶ子が起床した。


「海人どうしたの!?」


目覚めた途端、海人が泣きじゃくっている姿が視界に飛び込んできて、しぶ子は慌てて起き上がった。


「あぁ……私が何か失敗してるの?

私、ちゃんと書き留めるから。やり遂げるから。

お願いだから、泣かないで?」


海人は返事をする事も出来ない状態で、首を横にただただ振り続けた。


「どうしよう………そうだ!私ね、昨日神社にお参りに行ってきたの。御神籤も中吉だったんだよ!」


しぶ子は、気を紛らわせようと明るく言葉を続けた。


「あと、神社って願い事する場所なわけだからいつも私、皆が笑顔になります様にってお願いするのね。

でも、それだとなんか、弱いんじゃないかなって。帰宅してからそう思ったわけなのよ。」


海人は、泣きながらもしぶ子の言葉の意味がわからないという風に、小首をかしげた。


「いや、だからね。柊が目覚めます様に!海人が笑顔になります様に!それだと弱いのよきっと。

だから一緒に今からやろう!神社でなくても祈りをやり直したら、多分いけるはずだと思う!

いや、それは流石にわかんないか。でも、とりあえずやろう!」


そう言うと、しぶ子は両手を合わせ目を閉じた。


しぶ子のその姿に押されて、海人はだんだん落ち着きをみせてきた。


「じゃあいくよ?続けてね?いつも有り難うございます!」


海人は鼻をすすりながら、小さな声で声をうわずらせつつ、いつも有り難うございますと続いた。


「あなた様と出会えて有難うございます!」


「あ、あなた様と出会えて有り難うございます。」


「じゃあ次ね?今日も生きています!有り難うございます!」


「今日も……生きて…生きています……。」


海人の言葉が詰まった。


そうだ色々あったけど、今俺は生きている。

それが既に奇跡なのに、何を贅沢言ってるんだ……


そう深く考え込んでしまった海人を心配そうに覗きこむと、しぶ子は再度手を合わせ、言葉を続けた。


「さぁ次ね!柊は必ず目覚めます!海人は必ず笑顔になります!」


不意をつかれた海人は、泣きながらも思わず笑ってしまっていた。


「しぶ子、それは反則だって。」


海人はそう言ってから、大きく深呼吸をするとゆっくり、そして言葉ひとつひとつに想いを込めて、願いを唱えた。



「柊は必ず……必ず目覚めます。これでいい?」




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