表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『海人と柊』~女装男子~  作者: なにわしぶ子
54/74

54話~手当て~



「もうしぶ子さんの所に行くのはやめましょう。」


Jは、海人にそう告げた。海人は見るからに衰弱してきていた。


思えば、100年コールドスリープをし、タイムリープやタイムトラベルを繰り返した海人が、今まで普通に生きていた事がいわば奇跡であった。


「いや、行くよ。しぶ子を納得させられるのは俺しかいないんだから。」


海人は静かに微笑んだ。


「とりあえず、暫くは休養しましょう。しぶ子さんも丁度、ご友人から相談を持ちかけられたりして少し忙しいようです。しぶ子さんの為にも。」


Jの言葉に、海人はわかったと頷くと少し疲れたと言って横になり、目を閉じた。


海人が眠りについたのを確認すると、Jは海人の右手の袖をまくった。

海人の右腕には、いくつものヒビのような模様が走っていた。


「何で今頃、変化が起きるなんて。」


Jは、流れ落ちる涙を拭うと、海人の袖を元に戻した。







「一段落したし、早く作業進めてね。」


今日の海人は、女装ではなく白い長袖のシャツに紺色のズボンという、21世紀でも通用するファッションでしぶ子の部屋を訪れていた。


「いきなり現れて、喋ったと思ったら督促だなんて。

なんかずっと黙ってるなとは思っていたけど、私の日常が落ち着くまで待っててくれたの?」


しぶ子は目の前に久しぶりに現れた海人に、少し嬉しさを感じながら聞いてきた。


「崩壊されても困るしさぁ。あんたすぐテンパるから塩梅っての?一応気を遣ってるのよこれでも。」


海人が満面の笑みでそう言うと、しぶ子は少しふてくされた表情を見せた後、ひどい!と怒る仕草をして笑った。


ふたりの間に、和やかな空気が漂った。


「早く進めるってのは女装男子、あれだよね?

物語をちゃんとまとめなさいって事よね?」


「そうだよ。命を吹き込むんだ。」


「まずは、練習も兼ねてアイってタイトルの違う話を少しまとめてみてるの。半分は書けたかな。そのあとが女装男子の話だよね?この過程が一体何になるというのか。」


「未来が変わるんだよ。あんたもいつも言ってるでしょ?答えはいつもシンプルだって。」


「確かに、そして地味だよね。」


「今はわからなくてもいいよ。後でさぁ、あぁあの時こうしたから今があるなって思った事ってない?案外沢山あるよね?

今からする事で、道を分岐させてほしいだけ。ただそれだけなのよ。」


「わ、わかった……やってみる。」


しぶ子は意味がわからないまま、それを承諾すると、海人はJから聞いてきた小説をタブレットでいつでも書けるアプリを、しぶ子に伝えた。


そして、今書いている話を書き終えたら、次はこのアプリを開き、自分の話を綴って欲しいとも伝えた。


「これを開いたらもう後には戻れない。滅茶苦茶過酷になるのだけは感じ取れる。文章って難しいし、何だか憂鬱だなぁ。」


「大丈夫だよ。俺がちゃんとサポートするから。じゃあまたくるよ。」


「え?もう?」


「うん、こう見えて俺案外忙しいのよ。」


振り返った海人は、首を横にかしげるとおどけてみせた。 


「そっか、とりあえずまた来てね。話を女装男子から聞かないと、私全然書けないからね。」


海人はわかったと笑顔で言うと、戻っていった。






「おかえりなさい海人さん。ホワイトさんが色々設備を整えてくれたんです。まずは横になりましょう。」


戻った海人を見るなり、Jはベッドに横になる様促した。


「わかった。」


海人は倒れこむ様に、ベッドに自分の身体を沈めた。そしてすぐに眠ってしまった。


Jはホワイトが用意したワゴンから注射器を取り出すと、海人の右腕を露にし、針を刺して薬液を注入した。


腕に走っていたヒビが、消える事はなかったが、少し薄くなった様に感じた。


「良かった……。」


Jが安堵の声を漏らすと、ホワイトが入ってきた。


「ホワイトさん有り難うございます。この薬で何とか。」


『それは一時的なしのぎにしかならない。』


「でも毎日これを打てばきっと!」


『J、お前なら理解出来るはず。薬はあくまでも治癒を促す補助的なものに過ぎない。』


Jは、言葉を失った。


『それよりも、しぶ子を急がせた方がいいだろう。』


ホワイトは海人の右腕を見ると、部屋を出ていった。



Jは海人の傍らに静かに座ると、両手で海人の右手を握りしめた。


手を当てると書いて、手当て。


手当てには、薬と同じく治癒力を高める効果がある。

Jはそう考えながら、さらに海人の手を固く握り続けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ