53話~最後の砦~
「お帰りなさい。古墳はどうでしたか?」
Jに迎えられた海人は、後で話すと告げるとそのまま崩れる様にその場に倒れこみ眠ってしまった。
今日は遠出で、少し接触時間が長すぎたのかもしれない。これからコンタクトの時間は、もう少しセーブしなければ海人さんが先に潰れてしまう。
Jはそう考えながら、眠りに落ちた海人の体にブランケットをそっとかけた。
すると、突然ホワイトが部屋に入ってきた。
「海人さんの身体が僕は心配です。エネルギーの消費が限界を超えてきている。これ以上はさすがに無理ではないでしょうか。」
Jは早速ホワイトに詰め寄った。ホワイトは、わかっているというかの様に頷くと、スクリーンに柊の姿を映しだした。
銀色の装置の中では、変わらず眠り続ける柊がいた。
現段階の未来は、未だに変化はないらしい。
『ここからは少し、指示に従ってもらいたい。』
ホワイトがそう言うと、空中に黒色の、まるで筆で書かれた様な脈絡のない文字が、一文字、一文字シャボン玉の様に浮かびはじめた。
Jが呆気に取られていると、その文字達には意志があるかの如く、Jのまわりを囲みはじめた。
「え??こ、こんにちは?」
Jの前に整列したその文字を、左から右へ向かって読むと【こんにちは】と言う文字になっていた。
Jが意味を汲み取ったのがわかると、その文字は笑い声を発して、またバラバラに、空中を漂いはじめた。
『これが言葉の魂。いわゆる、言霊だ。』
ホワイトはそう言うと、少しぶ厚めの本らしいものを取り出すと、両手で開いてみせた。
するとその文字達は、その本に掃除機の様に吸い込まれていくと、一文字残らずいなくなってしまった。
ホワイトはそれを確認すると、パタリとそのノートを閉じた。
「これは一体??」
Jか全く意味がわからないという表情でホワイトを見つめていると、ホワイトが説明をはじめた。
自分も働きかけるから、最初からの海人の物語をしぶ子に話し、それを小説という形にして書き記す様に説得をする事。
かなりな文字数になるから、おそらく尻込みし嫌だと駄々をこねるだろうが、必ずその道へと向かわせる事。
まずは、自分用に下書きをさせて、ある程度それに慣れたら小説投稿サイトがあるから、そこへ投稿する様に説得する事。
そうすると、柊に必ず変化が起こるという話だった。
「それが、どうして柊さんに変化をもたらすんですか?僕には全く理解が出来ない。」
Jが納得いかないとばかりに、ホワイトに詰め寄った。
『言霊を侮るなかれ。』
そう言うと、ホワイトは部屋から出ていってしまった。
◇
その日から、海人の身体の調子はあまり優れなかった。
Jからホワイトの話を聞いて、すぐにしぶ子の元へと行こうとした海人だったが、まっすぐ歩く事にすらままならず、Jは体調が戻るまで行く事を禁じた。
横たわる海人の横に、Jはスクリーンをひろげ、しぶ子を映しだし、海人はそれを静かに眺める事にした。
しぶ子はホワイトから直接色々説得をされているらしく、色々文章を書く練習をさせられているようだった。
「J見ていてごらん、きっとそろそろしぶ子が爆発するよ。」
海人が微笑みながら、そう言った瞬間
「ああもう絶対やらない!!どうせホワイトの事だから、今から何か無茶ぶりするんでしょ!?
例えば海人の物語をまとめろとか、絶対そんな事を言ってくるに決まってる。私だって自分の時間が欲しいの。
こんな意味がわからないまま、やらされるのは嫌なの!」
スクリーンの中のしぶ子が爆発をした。
ほらね?と目で海人がJに語りかけると
「上層部を手こずらせるなんて、しぶ子さんって滅茶苦茶破天荒ですね。」
Jは笑いながらスクリーンを消した。
「少し眠りましょうか、海人さん。」
そして、顔色の優れない海人に、休むよう促した。
「いや、今から俺行ってくるよ。もしこれ以上動けなくなっていったら、説得すら出来なくなる。しぶ子が俺の最後の砦なんだから。」
そう言うと、ゆっくりと海人は起き上がった。
「長時間は駄目です。説明をしたらすぐに戻ると約束して下さい。タイムリープみたいに僕には強制的に連れ戻せないので。」
Jは不安な表情を浮かべながら、海人の両目を見つめた。
「わかった約束する、行ってくるよJ。」
海人はそう微笑むと、扉をくぐった。
◇
「ホワイトの次は女装男子?何で来たかならわかってるから。いくら言われても私はやらないから。」
しぶ子は不機嫌に海人を迎えた。
怒りの感情が海人になだれこんできて、同調した海人の心をかきみだした。
「ねぇ、もういい加減諦めてよ。昨日から、色々と説得されてるのに拒んでるみたいだけどさあ。
あなたが嫌だと首を縦に振らなくても、もう、俺はその道しか進ませない。
その為にずっとずっとずっとずっと時間を追ってきたんだ。
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと!」
「急に何言い出すのよ女装男子……。」
しぶ子は海人の気迫に圧倒されて黙りこんだ。
海人はしぶ子の前に立つと、じっと目を見つめた。
「彼女は俺の婚約者だった。何度も転生をくりかえすこの法則の波の中で、いつも追ってきたんだ。時間をくぐり、干渉をくりかえし、その変化した未来のひとつに、あいつを取り戻したいだけなんだ。ただ、それだけのことなのよ。」
「婚約者って?」
「だからいい加減了承して?ね?お願いだからわかって?
地球を守りたいとか?宇宙の平和とか?
俺には全く興味なんてねーんだわ。
だから、わかってほしいんだわ。
俺にさ、あいつを返してよ。
俺に、あいつの笑ってる顔をみせてよ。
俺、あいつの笑顔好きだったんだよ。
眠ったのは二人だった。
実験は、未来目覚めた二人が
子供をつくり、繁殖をスタートできたら?
未来のスタートが違う人間を
生み出す事がミッションだった。
な?人間って残酷だろ?
だから、俺とあいつが選ばれた。
そして、あいつは目覚めなかったんだ。
機械のトラブルかそれすら、もうわからんけど。
あいつを目覚めさせるために、あらゆる事を試した。
そして、今あんたの所にたどりついた。
あんたなら、変えれるんだよ
あんたしか、いないんだ。
あんたが、俺にとっての、
たったひとつの希望の光なんだよ!」
そう一気にまくし立てた海人は汗が吹き出し、肩で息をしていた。
そして、完全に言葉を失ったしぶ子を切ない目で見ると、背中を向けて扉から出ていった。




