52話~古墳と円盤~
「何で降りちゃったんだろう。ホワイトのせいだからね!」
しぶ子は三国ヶ丘駅のプラットホームの椅子に座ると、脳内でホワイトに文句を言った。
返事はなく、どうしたものかと考えていると普通電車が駅に滑り込んできた。
「とりあえず、今日は予定変更して百舌鳥に行ってみようかな。」
しぶ子はそのまま、大仙陵古墳を目指す事にした。
日本最大の古墳、実際行くと自分自身がどんな風に感じるのかにも興味が沸いてきたのもあった。
駅を降りて古墳の方向へ歩いていくと、鬱蒼とした森が見えてきた。近くで見る古墳からは、鍵穴の形を察する事が勿論出来るわけはなく、しぶ子は少しがっかりした。
そして、ここに来るのはやはり間違いだったのかも?と、迷い立ち止まってしまった。
海人はそんなしぶ子の姿を見かねて、背後から静かに声をかけた。
「最近運動不足だしさ、のんびり散歩でもしようよ?」
「あぁ女装男子いたの?って事は、ここに来てよかったのよね?」
海人の姿に気づいたしぶ子は、ほっとした表情を見せた。
そしてふたりでゆっくりと、古墳の周囲の道を散歩モードで歩き始める事にした。
思えば、こんなゆったりとした時間は久しぶりだった。
海人も特に何も話す事をせず、まずはしぶ子との散歩を楽しむ事にした。
するとしぶ子の方から、海人に質問をしてきた。
「そういえばこの目の前のお堀、水が古墳の周りにあったのは、何か理由があるの??盛る土をそこから取ったから、凹んで堀になった。通説通りなのかな?」
「勿論それもあるけど答えは一つじゃない。あと磁場の構築かな。」
「磁場??そうだ!日本じゃないけど始皇帝のお墓の周囲にもお堀みたいに水、それも水銀の海があったんでしょ?
磁場に必須なのが、水?金属?って事なのかな?そもそも磁場が何故いるんだろう。」
「へぇ……色々調べてくれたんだね。」
海人は、次から次へと出てくるしぶ子の疑問を聞いて少し楽しくなってきた。
「それにしても、始皇帝って不老不死を信じて、水銀を飲んでたんだよね。なんか想像すると怖い。あんな銀色のどろどろとした液体、普通は飲めない。」
それを聞いた海人は、掌をひろげ赤色の石のホログラムをしぶ子に見せた。
「何それ?」
「辰砂。別名、賢者の石。いわば、水銀の源かな。」
「へぇ、賢者の石って本当にあるんだ!アニメの中の話だとばかり思ってた。それにしても綺麗。確かに、これが水銀の源なら全く抵抗ないかも。やっぱり色々を知らないと駄目だな、視野が狭くなる。」
しぶ子はそう言うと何かを見つけたのか、小走りに走っていった。海人も慌てて着いていくと、右手に鳥居が見えてきた。
そこがどうやら、この古墳の拝所らしい。
海人は鳥居の上にひろがる青空を見上げた。
飛鳥時代のこの古墳の上空から、光の渦に飛び込んだのが遠い昔の様に思えた。
今Jがいる、時空の狭間。
その空間は、あの鳥居の向こうに存在しているのだろうか。それとも全く違う場所なのだろうか。
そんな事を考えながらしぶ子を見ると、手水舎で手を清め、拝礼し手を合わせている所だった。
真剣に拝む姿を邪魔しない様にと、海人は更に鳥居に近づき、ぼんやりと空を再度見上げた。
すると、向こうから30機程の円盤形のマシンが飛んでくるのが見えてきた。
そこに集まっている人々をすぐさま確認すると、どうやらそれらは見えてはいない様子だった。
「俺もしぶ子にしか見えないのと同じ理屈なのか、それともチップのせいで俺だけみえるの?空に浮いてるって事は、マシンなはずだけど、あの形を俺は知らないな。。」
海人は、ただただ浮かんでいる見た事のないそのマシンを凝視し続けた。
「何だあれは。」
いきなり真横で声がして、顔を向けるとしぶ子が食い入る様に空を見つめていた。そして、手帳を出すとスケッチをはじめた。
描き終わった手帳の中には、海人が見えている同じマシンの姿があった。
しぶ子には、あれが見えるのか。。
勿論、自分とコンタクトを取れるのだから、当たり前なのかもしれないけれど、改めてそんな姿を目の当たりにすると、不思議な感覚に襲われた。
しぶ子はそんな海人にはお構いなしに、今度はボランティアの解説員らしき人に話しかけられると、色々を教わり始めた。
海人はそんなしぶ子姿を見守りながら、傍らで座り込むと会話が終わるのを待った。
話終えたのか解説員にお辞儀をして、海人に駆け寄ってきたしぶ子は開口一番こう叫んだ。
「古墳マニアに勘違いされた。全部女装男子のせいだからね!」
話を聞くと色々古墳の事で話が弾み、近くに博物館があるから行ってみるといいと薦められたらしい。
早く博物館に一緒に行きましょうと言うしぶ子に可笑しくなりながら、海人は微笑みながら頷くと、一緒に歩きだした。
博物館の中は少しひんやりとしていて、子連れのファミリーや年配の人まで幅広い年齢層の人達が訪れていた。
しぶ子は真剣に、ひとつずつの展示物を見てまわった。
後ろから着いて歩いていた海人は、部屋の中央に見覚えのある形の展示物を見つけた。
【石棺】と展示されたそれは、大きさは少し違うものの、まさに自分達が乗り込んできたマシンそのものだった。
「しぶ子、これこれ面白いでしょ?」
海人は深くは語らず、しぶ子をそこへ誘導した。
「これが棺なの?なんか、棺桶みたいなイメージでいたから。大きさもめちゃくちゃ大きいし、なんか、アトラクションの乗り物みたいだなこれ。エンジンの火とか吹き出してきそう。」
しぶ子は興味を持ったのか、あらゆる角度でそれに見いった。
海人はそれ以上は何も語る事はせず、そのあともゆっくりと展示物を見てまわり、帰路へついたのだった。




