39話~弥生時代よさようなら~
「また遭難したらって、やはり思っちゃうな。」
女王の墓の頂に歩いて向かいながら、トヨ海人が
Jに向かって小声で話をした。
「でもそれで、ふたりを元の時代へ還せました。」
トヨに付き添う役として一緒に歩いていたJが、そう振り返った。
「そうだね、前向きにいかないと。最後までイヨのいいお手本でいなくちゃ。」
そう言いながら、少し後ろをついてきているハヒコとイヨに笑顔を向けた。
さらに歩いていくと、頂にある、姿を隠さず設置されたマシンが見えてきた。
麓では既に、頂に現れたマシンとまた太陽が欠けはじめた空の姿に民達が大騒ぎになっていた。
「トヨ様が旅立たれたあとに、私は民たちに殺されたりしないでしょうか。」
イヨが、トヨに泣きそうな声で聞いてきた。
「大丈夫。今からそうならない様にしてみせるから、そこでハヒコさんと見ていて。」
そう言うと、トヨ海人はJとマシンに乗り込んだ。
「これを!」
ハヒコが女王の時と同じく、握り飯をふたり分手渡してきた。
「有り難う!ハヒコさん本当に有り難う!」
トヨ海人がそれを受けとると、マシンが扉を開けたまま上昇をはじめた。
空の皆既日食は進み、そろそろダイヤモンドリングが出来る頃合いが近づいてきていた。
いきなり皆既日食をバックに、トヨ達を乗せた菅田を露にしたマシンが空に浮かんだ姿を見て、民たち恐れおののきひれ伏しはじめた。
すると、マシンの開いた扉から、ドレス姿で身を乗り出したトヨ海人が地上に向かって叫びはじめた。
「私は今からおてんとう様に帰ります!でも!おてんとう様からみんなの事をいつも見ています!だから!イヨの事を頼みました!みんなで仲良く米を作ってください!美味しい握り飯を食べてください!!」
そう言うと、貰ったばかりのハヒコの握り飯をがぶりと頬張ってみせた。
「ヒメコ様もトヨ様も、いつもおてんとう様から私達を見ていてくださる!トヨ様!!!」
民たちは空を見上げながら、トヨの名前呼び続けた。
ハヒコとイヨは、頂から泣きながらマシンを見上げていた。
握り飯を食べきったトヨ海人は、大きく右手で地上に向かって手を振るとマシンの中へと入り、その扉を閉めた。
空にはダイヤモンドリングが出来はじめた。
「お疲れ様でした。もうハヒコさんの料理が食べれないのが寂しいですね。僕、ハヒコさんにはずっと似てる部分を感じていました。ひょっとしたら、僕の前世なのかも。」
Jはそんな事を言いながら、操作に集中した。
「前世か、あながちあるかもしれないね。」
マシン内部の壁面の仕様を変えた窓から、ふたりは地上の光景を慈しむように見続けた。
「安全装置は大丈夫ですか?では、出発します。着地予定場所は、飛鳥時代の大仙陵古墳。」
Jがそう言った途端、空には綺麗なダイヤモンドリングが
輝きだした。
マシンがガタガタと大きく揺れ始め、機内が真っ白になり、赤色の線が渦を巻き空間を歪めはじめた。
海人は静かに目を閉じた。
その渦の中に吸い込まれていく感覚に懐かしさを覚えながら。
その感覚を、全身で受け止めながら。
◇
ゆっくりと目を開けた海人は、マシンの中にいた。
隣にいるJを見ると、同じく海人を見つめていた。
「無事、飛鳥時代に到着したみたいです。身体もお互い大丈夫そうですね。ただ……本当は古墳の上空に着地するはずだったんですが……。」
そう話すと、Jが壁面を窓際仕様に変化をさせて、外が確認出来るだけ様にした。
「真っ暗だね……。ここは何処か室内??」
外は何もない真っ暗な空間で、室内なのは分かるものの基地の内部のような、そんな無機質な空気が流れていた。
「とりあえずさ、外に出てみようよ。このままでいるわけにもいかないしさ。」
そう海人に促され、ふたりは恐る恐る外へ出てみる事にした。
マシンの扉を開いて、地面に足をおろした瞬間、スポットライトの様な光がふたりを照らした。
「シンニュウシャヲハッケン、シンニュウシャヲハッケン」
機械音声が室内に響き渡ると、白いガスが室内に噴射されはじめた。
ふたりは成す術もなく、ガスを吸引すると、その場に倒れこんでしまった。
コツン、コツン…
室内に足音を響かせながら、誰かが倒れこんだふたりに近づいてきた。
「Jと海人を発見。今から保護する。」
その存在はそう呟くと、ふたりを何処かへと連れ去った。




