38話~花占い~
トヨに扮した海人の前で、父親によって連れてこられたハヒコの娘は、完全に緊張で体を強張らせていた。
「名前は、何て言うの?」
緊張をほぐそうと、海人は娘の視線の位置に自分の視線が来るようにしゃがみこむと、にっこりと微笑みかけた。
それに安心をしたのか、娘は恐る恐る返事をした。
「イヨ」
「イヨちゃんって言うのね。とりあえずこれから私の手伝いをして欲しいの。お願いできる?」
イヨは、コクリと頷いた。
イヨはハヒコに似て、とても理髪な聡明な子だった。
ムラを女王トヨが見廻る時には、必ず事前にイヨが民の声を集めトヨへ報告をし、場を整えた。
そうする事で、イヨへの民の信頼は日々蓄積されていった。
居に戻ってからは、海人は様々な学問を教えた。
例えば、空の動きの読み方、星の読み方、今出来うる役に立つ知識をイヨに伝えた。
イヨの吸収力は凄まじく、予想を越える程だった。
そんなイヨがトヨ海人とムラを歩いていたある日、いきなり質問をしてきた。
「トヨ様から沢山色々な事を私は教わりました。それは、トヨ様が居なくなった後の為だという事もわかりました。
でも、本当に居なくなった後、もし道に迷ったらどうしたらいいのでしょう。私はそれが心配でなりません。」
トヨ海人は、目の前に咲いていた、白い花びらを蓄えた花を摘むと、イヨにも1本手渡し、自分も手にした。
きょとんとしているイヨに、トヨ海人は
「道に迷ったら、占いをするんだよ、イヨ。」
「占い……ですか?」
「例えばイヨは私の事が好き。」
そう言って、花びらを一つちぎり取ると、続けて
「嫌い。」
また花びらを一つちぎりとり、それをトヨ海人は花びらが無くなるまで、好き嫌いを交互に言いながら続けた。
「よし!これで最後、嫌い!どう?イヨ当たってる?」
「その花は嘘つきです!私がトヨ様を嫌いなわけがありません。」
「じゃあ、答えは最初から好きで決まりだね。迷って損しちゃったなぁ。」
トヨ海人は、笑いながらイヨの手に持たせた花を、イヨの髪に飾り付けてあげた。
「迷ったら、相手に直接聞いてみたらいいんだよイヨ。そんな話し合いをまずする事。皆でいつも相談する事。
もしそれでも答えが迷ったら、占いを皆でしたらいい。
あーだこーだ言いながら、それを楽しみながらやればいい。
そうしたら、もしそれが当たっても当たらなくてもきっと大丈夫だよ。
そんな事をしてるうちに、ひとつのその時の一番良い答えがみつかるかもしれない。
大事なのは、その出た答えに振り回されず、言いなりにならず、ちゃんと自分の考えを人に言える事、さっきのイヨみたいにね。」
「自分の考え……。」
イヨは頭に飾ってもらった花を指で触れた。
「ヒメコ様みたいな、術で皆がまとまる時代はもう終わらないといけない。これからはみんなが話し合ってクニを作らないといけない。私はイヨなら出来るって思ってる。
さぁ、帰ろう。ハヒコさんが待ちくたびれてるよ。」
そして、ふたりは居に向かい歩き始めた。
そんな二人に、弥生時代のおてんとう様の
沈みかけの陽射しが、優しく降り注いでいた。
◇
「イヨさんも民の中で浸透しましたし、そろそろ起こる皆既日食に僕達が乗ってきたマシンを女王の墓の頂に設置し、飛ぼうと思っています。」
深夜、Jは海人に計画を話した。
「ふたりともいきなり居なくなるって、大丈夫なの?J。前の内乱みたいな事がもし起きたら。」
海人は、その後のクニを危惧した。
「トヨさんは最後まで、ファンタジーでいきます。マシンをわざと民に見せて旅立ちます。遭難時に民の数人はこのマシンを見かけていますし、その方がそのトヨさんが指名したイヨさんだと、民はそうそうおかしな事はしないはずです。
あと、何が未来の分岐スイッチになるかわからないので、古事記から今からどうせ記載は消すわけですし、今はド派手に動いておきたいですね。
僕達のマシンの素材は石ですし、逆に色々都合が良いと思っています。」
「石が?全く意味がわからない。どういう事?」
すると、Jが端末を開き海人にある画像を見せた。
「え?マシンでしょこれ。これが何?」
そこには、四角い形に外の壁面には突起物のある石で出来たマシンが映っていた。
「これ、実は古墳の石棺として歴史には刻まれてきたものなんです。僕が子供の頃に習った知識はこうでした。
科学者となり、マシンの研究に携わる中で、マシンが石棺に似てるのは、未来が過去の遺物の真似をしたと思っていたんですが。。
その逆なのかも?と思ってる自分が今はいます。だからわざと人前に晒す事で、変化をみてみたい。」
「そうしたら辻褄が合わないよね。今からマシンを御披露目するわけだよ?その後に改編された未来なら、そんなのが現れてもおかしくないけど、Jが子供の頃にその歴史を学んでるって事はさ、もう既に過去にあったって事だよね?って事は、自然発生で出来た石棺に、たまたま形を似せて、未来ではマシンを作ったって事でしょ?」
「でもあまりにも、デザインがそのまますぎます。それ含めて確かめたいんです。ここは単純に僕の科学者としての探求心です。」
「まぁ確かにそのまますぎではあるし、興味はあるかな。この辺りは上層部なら知ってそうだけど。ところで、このマシンにしか見えない石棺?これどこにあるの?」
「大仙陵古墳です。飛鳥時代には既にあるので、飛鳥時代の仁徳天皇陵を着地点にして飛ぼうと思っています。」
「歴史疎いけど流石に知ってる。あの一番大きな鍵穴の形の古墳でしょ??って事は、ピラミッドみたいな役割の場所って事?そこにも施設があるのかな。。」
「パワーはあると思います。なので、いきなり戻るのではなくてそこへ立ち寄るのは悪い事にはならないとは思っています。」
「わかった。目指すは飛鳥時代!次は大仙陵古墳!とりあえず柊に変化がある事を祈るよ。さぁもう寝ようか、おやすみ。」
相談を終えたふたりは、眠りについた。




