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特訓

「コニィィィィ! しっかりしろぉ! 目を覚ますんだぁ!」


 いくら体を揺すってもコニーはこっちの世界に戻ってはこなかった。

 ぶつぶつとうわ言を繰り返し、視線の焦点が定まっていない。


「ダメだ……コニーはしばらく休ませるしかない。ベッドに連れていこう」


 コニーが脱落し。この日の特訓は打ち切りになった。



 通常の訓練もお休みにし、哨戒任務も俺があたって小隊は休養にあてた。

 


「ぶつぶつ、ぶつぶつ……」


「おかあさん。おかあさん……」


 夕食の時、みんなは死んだ目をしていた。危険だから近づいてはいけないと子供たちに注意せざるを得なかった。

 翌日も小隊の精神状態は思わしくなく、とてもじゃないが訓練を再開できる状態ではなかった。




「みんな! 聞いてくれ!」


 ゾンビみたいにうろつきながらぶつぶつ言ってる小隊のみんなに、強制的に話を聞くよう注意を向けさせる。


「休養して回復してもらおうと思ったけど、こんな風にじっとしてたらかえってダメだ。走ろう!」


「そ、村長?」


 アレンが疑問を呈するが、ここでやるべきは冷静な話し合いじゃない。


「いいからいくぞ! ほら。こんなに外は良い天気だ!」


 無理矢理腕を掴んで全員を訓練場に引っ張り出した。



「いくぞ。ほら! いっちに! いっちに!」


 先導して走り出す。だが、精神的にすっかり参ってしまってる小隊の連中はついてこれない。

 ピエールが膝をついて崩れ落ちる。


「そ、村長。俺はもうダメです。走れません」


バシィン!


 泣き言を言うピエールに駆け寄って思いっきり頬を張り飛ばす。


「止まるな。しゃがみ込むんじゃない。闇に飲み込まれるぞ!」


「そ、村長!?」


「脱げ」


「え?」


 言うより見せた方が早い。俺は服をかなぐり捨てるように脱いで上半身裸になった。


「脱げ! 太陽の光を全身で感じるんだ。命令だぞ!」


 小隊のみんなはとても訝しがりはしたが、命令とあらば指示に従う。そして思いのほか効果はすぐに現れた。


「こ、これは?」


「心なしか、胸を締め付ける暗い霧のようなものが少し薄らいだ気がします!」


 俺はニヤリと笑ってみんなに言う。


「かつて古い文献で読んだ事がある。太陽の光には闇を払う強い力があると。感じるんだ。燃え盛る太陽の火。その大きさを!」


 両手をナナメに掲げ、Yの字になって全身で太陽を感じる。


「うそだ!? なんか本当に気分が楽になってる!」


「太陽凄い!」


「太陽万歳!」



 かつて異国の地に栄えたと言う。今はもう滅んでしまった古い国で信じられていた太陽の信仰。

 眉唾ものの話をダメ元で試してみたら、思いの他効果はてきめんだった。これなら走りだせる。



「はしれ! 止まるな! 声を出すんだ!」


「サー! イエッサー!」


 みんながついてくる。俺は応援していたマナに向かって叫ぶ。


「布とお湯を用意してくれ! あとアンに頼んでシチュー作っておいてもらってくれ!」


「あいよ!」


 



「いっちにぃ。さん、しぃ!」


「ごぉろく! ひちはち!」


「にぃにぃ。さん、しぃ!」


「ごぉろく! ひちはち!」


 俺達は走った。心の闇を振り払おうと全力で走った。



「よぉし、きゅうけぇ!」


「サー! イエッサー!」


「水だぁ! 水を飲めぇ!」


 汗だくになった男達が水をゴクゴク飲む。


「うまい!」


「水うまいです村長!」


「うまいだろ! 水うまいだろ!」


 うまい具合に思考がとんでいる。教会の聖書によると。人間に命をあたえたのは神だが、知恵を与えたのは悪魔だったらしい。信仰心などみじんも持ってはいない。だが、なるほど。考える知能がなければ恐怖などないのかもしれないと言う実感があった。



「よし、拭けぇ! 体を拭くんだ!」


 お湯に浸してアッツアツにした布で体を拭かせる。


「あっつ! 熱いです村長!」


「なぜ熱いお湯を!?」


「バカ野郎。考えるな! こういうのは熱いからいいんだよ!」


「なるほど!」


「アツイ!」


 いいぞ、みんなバカになってる。



「言われた通りに作っておいたけど……って、きゃぁぁ!?」


 食堂でシチューを作っておいてくれたアンがびっくりする。異常な熱気を称えた上半身裸の男達が入ってきたからだ。


「くえ! 感謝して食うんだ。頂きます!」


「頂きます!」


 

「うまい!」


「うまいです村長!」


「感謝しろ! 感謝が闇を振り払う!」


 これもまた古い文献にある今は亡き古い国に伝わった伝説。彼らは自然と一体になり、万物に感謝する事で闇を克服したと言う。


 俺は食い終わった連中を連れて小隊の連中を草原に連れて行った。

 みんなを大の字にさせて草原に寝転ぶ。



「あぁ……」


「風が気持ち良いっすねぇ……」


 頬を撫でる風が気持ちいい。



「かつて東の大陸に栄えたと言う古い国では。植物も、風も、大地も。みんな生きているものとして扱ったそうだ。俺も以前は妙な信仰だと思っていたが……今はなんかわかる気がするよ。お前らはどうだ? 感じるか?」


「あぁ……なんか今はわかる気がします」


「地面に背中つけると、なんか凄い安心感があります」


 ピエールが言う安心感のようなものを、俺も確かに感じていた。俺達が今、なんらかの感覚を共有しているのは間違いない。


「生命に感謝し、命を感じる……古代の人達はそうやって闇の恐怖に対抗していたらしい。そして感じるんだ。仲間の存在を」


 古代の人々は暗闇と孤独が恐怖を増大させる事を本能的に知っていたらしい。そして今の俺達には。光と、そして仲間がいる。


「村長」


「村長!」


「どうだお前ら! 明日から頑張れそうか!?」


「はい!」


「大丈夫です!」


「やってやりましょう!」


 

 男達が色めきだす。特訓が加速しだした!

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