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銀と銅と金(かね)

「…………え?」


 口をポカンと開けてマナが見つめてくる。

 よっぽど俺の返答が予想外だったんだろう。

 

「出来ないの?」


「難しいだろうな……」


 眉間に皺を寄せて腕を組んで唸ると、村人達がざわめきだした。




「なんで? お姉ちゃん強いんじゃないの? アレンさん達だって手伝ってくれるはずだし」


「いや、冒険者って言うのはただ強ければいいって訳じゃなくてな……えっと、銅級より銀級の方が依頼の報酬が高いのはわかるよな?」


「うん」


「銅級の依頼なら俺達でもこなせる。魔物の出た村や街にいって、巣を探したり待ち構えたりして討伐すればいいだけの話だ。だが、それじゃこの人数を食べさせてはいけない」


 銅級だと4人でPTを組んだ場合、食べていくだけでカツカツになってしまう。ソロなら貯金も出来るが……




「一般職と比べて格段に実入りが良いと言えるのは銀級からだ。だが銀級に指定されるような大型の魔物が相手の場合、被害があってから動いては遅いんだ。山中での目撃証言や、すでに全滅した集落の跡など限られた情報から依頼が出される。そして銀級の冒険者は次の犠牲者が出る前に自ら狩りに赴いて魔物を仕留めなければならない」


 そう。銀級の仕事の場合、戦闘と言うのはあくまで最後の仕上げに過ぎない。


「爪痕、足跡、体毛……残された痕跡から魔物の種類を特定し、周辺の地理と照らし合わせながら追跡する。それが銀級のクエストにおいて最も重要な仕事なんだ。……決して楽な仕事ではないぞ。恐らく想像以上に危険を伴う」


 いくら体力に自信があっても、素人が土地勘もなしに知らない山や森に立ち入れば一発で遭難する。

 才能だけでは決して通用しない、知識と経験と準備がものを言う世界。



「彼らは魔物との戦闘のスペシャリストと言うだけではない。十分な知識と経験を兼ね備え、強靭な肉体と精神に支えられた恐るべきレンジャー達だ。

 ある時は鉄の杭とロープだけで崖を登り、装備を担ぎ上げ、火山だろうが雪山だろうが走破してしまう。

 またある時は濁流で水分を補給し、蚊で視界が真っ黒になるような中で野宿する。毒をもった虫や植物にも詳しく、ありとあらゆる食料を現地で調達する」


 ガセネタを掴まされて一か月以上も歩きまわされる事なんてよくある事らしい。

 更に言うと銀級以上の魔物と真正面から戦った場合、本来は人間側に勝ち目などほとんどない。

 あくまでこちらが敵より先に相手を察知し、十分に準備を整えてから狩りを始める事が勝利の必須条件だ。




「追跡に詳しい人を1人だけ雇って、お姉ちゃんに戦ってもらうのはダメなの?」


 マナがちょっと考え込むように唇に指をあてて、視線を天井に向けながら言う。


「銀級の冒険者が戦闘要員として銅級を雇うケースは多い。大抵銅級試験の時に同行してもらった師匠についていくケースがほとんどだ。

 だが、その場合報酬の大半を銀級の冒険者に持っていかれてしまう。銅級の冒険者はいつか銀級になって裕福な暮らしをする事を夢見て、経験を積むために銀級の依頼に同行させてもらうんだよ」



「じゃあ……」



「あぁ。銀級に上がるには十分なクエストの実績の他。筆記、模擬戦、サバイバル試験と面接に合格しなければならない。一年で駆け上がれば天才と呼ばれる世界だ。とてもじゃないが……」


 巷で言われてるような、身1つでいきなり一攫千金を掴める世界じゃない。


 わかっていたことだがみんな表情が暗くなってしまった。アレン達も下を向いたり腕を組んだりして考え込んでいる。


「で、では、私たちは……どうすれば……」


 老人の1人が手をあげて口を開く。



 策がない訳じゃない。駒の動かし方としては正しい流れになるはずだ。

 だが机上の空論などいつだって簡単に盤をぶん投げられて地面に叩きつけられてしまう。

 どうしても危険を伴うだろう……しかし現状を冷静に考えるとこのままおとなしくしている事もどこまで安全なのか疑問だ。



「……作物の実入りが期待出来なければ狩りにでるしかないだろう。だが今から説明する案には危険が伴う。アレン達にも無理に同行を求めるつもりはないし、もし率直な意見があれば遠慮なく言って欲しい」


「狩り……ですか?」


 俺がこめかみを抑えながら難しい顔をして言うと、アレンが尋ねた。


「しかしこの辺りの狩猟権は他の街や村に抑えられておりまして、密猟が発覚した日には……」

 

「わかっている。……駆除しなければいけないのはもっと危険で有害なヤツらだ」


 俺は卓上に粗末な地図を広げてみんなの視線を集めた。


「残念ながら俺は猟師でもないし、山中の獣の狩り方に詳しい訳でもない。だが、一種類だけ今まさに大移動を始めている獣の事を知っている」


 地図の上をツツーッと指を走らせる。その指先はニューゲートを超えて更に北上し、トレイランの領土に入り込む。


 危険だ。決して気乗りはしない……だが、現状でヤツらを素通りさせると言う事が何を意味するのか。

 王国とトレイランの関係が今後いかなる様相を呈するにせよ、ヤツらはそれに先んじて来る。

 決して対岸の火事などではない。ヤツらが狙っているのは俺達のハラワタそのもの。そして子供たちの血肉だ。


「今から北の戦線で職にあぶれた傭兵達が次々と南下してくるだろう。移動しながら生活するために財産の一切を指輪や金貨に変えて身に着けた状態でな。道中では多くの農村や集落が略奪に会うはずだ。獲物に喰らいつく無防備な横腹。そこを襲撃し、すべてを奪い取る!」



 会議室に。

 動揺が走った。

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