世知辛い話
住民が1人増えた……誰ともあろうアレンの彼女。アン嬢である。
結構な数……と言うかほとんどの住民が彼女の事を知っていて、感動の再会を果たしていた。らしい。俺は現場には居合わせられなかったんだが……
アンは元々定食屋でウェイトレスをやっていたそうだが、店主が腰を悪くしてからは厨房に入る事が多くなっていたらしい。
どうにかこの村に残ってもらえないかと考えていたら、なんと向こうの方から手伝わせて欲しいと申し出てきたのだ。
当面タダ働き同然になると再三念を押したのだが、それでも構わないと言ってくれた。
正直なところ、食材を無駄なく美味しく効率よく使ってもらうと言うのは非常に頭も使うし時間をくう仕事なのだ。
俺達が最大限の感謝の意を表して彼女を迎え入れると、配給制ながらも村の食事の質は飛躍的に向上した。
……子供たちには出来る限りの仕事を割り振った。麦踏み、雑草取り、掃除、洗濯……
特に「使ったものは片づける」と言う事を徹底させ、食器洗いにはかなり年少の子たちも参加させた。
年少の子たちは洗い物をしっかり完遂する事が出来ず、あとから年長の子たちが洗い直しになったのだけれど、それでも構わないからと続けさせる。
本来、子供と言うのは仕事自体が嫌いなケースは少ない。仕事をしても誰も何も反応をしてくれないのが嫌いで、だんだんと作業が嫌いになるのだ。
その場その場で子供たちが「今何に興味があって、何を褒めて欲しいのか」と言う事を察すると言う事は容易な事じゃない。
全てがうまくいった訳じゃなかった。しょうもない見落としや勘違いで傷つけてしまう時もあったし、時には大声で怒鳴ったりした事もあった。
それでもなんだかんだで生活はうまく回りだした。
マナが村の中でいじめや仲間外れが起きないようにとてもよく心を配ってくれていたのも大きかった。
衣食住に足る対価が支払われ、自分の努力や存在を認めてくれる人がいて、人間関係がそれなりにうまくいっている。
それだけあれば人は生きていけるものだ。
そう……あとは金さえあれば……
「話がある」
これまで村人達は、元来余所者であるはずの俺の話をよく聞いてくれた。だがここからはとても世知辛い話をしなければならない……
「今年の収穫だが、どうしてもこの人数では人手が足りない。臨時で人を雇うためにまとまった金が必要になる。そして……」
苦々しい顔をしてみんなに告げる。
「収穫のあと、次の種まきは行わない」
「なんですと!?」
村に動揺が走る。
「ど、どういう事ですかな?」
老人達に向き直って俺は説明を続けた。
「この時期にしては粒が小さすぎる……無理な連作で土地が弱っていて、病気にかかっている穂もある。一度草地にして休耕しなければならない」
「し、しかし前の村長が。この村の麦は丈夫だから問題ないと……」
「何を根拠に言っていたのか知らんが、ケチって適当な事を言っていただけだろう。土地も硬くなっていて本格的な手入れが必要だが、人手も足りないし今年は無理だ」
老人達が顔を見合わせてうろたえる。子供たちも訳がわからずに動揺する。
「し、しかしそれでは来年はどうやって生きていくのでしょうか……村にそこまでの蓄えはありませんぞ」
わかっている。いくら食い扶持が減っている状態とは言え、収入0では何も成り立たないどころか税金すら払えない。っと、そこへマナが割り込んできた。
「へーきへーき! だって私達冒険者なんだもん。こないだみたいに魔物をやっつけてギルドからお金もらってくればいいじゃん。ね? マスター」
マナが自信満々に胸をはって話を振ってくるが、俺はそれに渋い顔をして首を横に振った。
「……………………できない……」




