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マナの秘策

 そんなある日の事。


「ねぇ、マスター。今ちょっといいかな?」


 就寝場所の改装業務に一旦の目途がついて、共同の物置の改築についての工程表を作成しているとマナが両手を後ろに組んで訪ねてきた。


「どうしたんだ?」


 いつもなら頭より先に体が動いてしまうこの子が遠慮がちにしているところは珍しい。


「あの、ごめんね……? 私のせいでこんな事になっちゃって……」


 


 あぁ、そうか。そう言えばこの村に関わる事を決めたあの夜。大嫌いって言われたんだっけ。

 でもその事についてはもう謝ったはずだ。何より今の時点で俺はあの決断を後悔していない。


「何が正解で何が間違っていたかなんて結果が出てからじゃないとわからないさ。今俺達に出来る事は、後悔する未来から少しでも遠ざかるために今出来る事をするだけさ」


 あのまま適当に3人で暮らしたって良かった。でもそれだって「本当にこれで良かったと言えるのか?」なんて疑問は一生ついてまわる。

 少なくとも「より多くの人々を救う選択肢があったんじゃないか」なんて考えは絶対にしたくない。

 それはどこまで行っても先の見えない何もない道だ。その道を突き進む事の出来る人間を尊敬はするが、道半ばで多くの狂人を生み出した呪いの道でもある。


 だが、マナの反応は予想と少し違っていた。


「あ、あの、それもあるんだけど……おねえちゃん機嫌悪くなっちゃったの私のせいだよね……」


 

 あぁ……なんかファーストキスが云々のくだりか。

 いや、でも流石にこの数日で普通に口聞いてくれる程度には回復したしもういいよ。

 まぁ若……干……機嫌悪いかなぁって気もしなくもないけど許容範囲だ。


 と、言うかそもそも男女のキスって訳でもなかったんだし……ノーカンですよノーカン。


「あのね。お姉ちゃんを怒らないであげて欲しいの。ただ、マスターをとられちゃうって思うとどうしようもなく恐くなっちゃうだけなんだよ」


 ちなみに当の本人は現在休眠中である。呼べば起きるが別にわざわざ起こす事もないだろ。



「大丈夫だって。って言うかお前、最初の方とかむしろ楽しんでたクセに」


「にゃはは。いや、これを機に二人が急接近するかな~ なんて思ってたらまさかあんなにヘソを曲げるとは……」


 面目ない。って感じにおどけた表情をする。


「ま~ったこいつは。なにをからかってんだか」


 おでこをつーんとつつくと


「二人とも可愛がってくれてもいいんだよ?」


 両手を猫の手にして交互に上下させ、猫っぽい動きでからかってくる。


「なんだよ。俺はちゃんと二人に平等に接してるだろ」


 笑いながら答えるとマナはクルリと後ろを向いて、再び両手を後ろに組んで背中ごしに口を開いた。

 肩までかかった髪がふわりと円を描き……夕日の中で柔らかく輝いている姿に、なんだか吸い込まれてしまいそうになる。




「うん、知ってる……」


 なんだろ。毛がざわりと逆立つ感じがして空気が変わった気がした。


「でもね。やっぱり一番はお姉ちゃんじゃないとダメだと思うの。だってお姉ちゃんにはマスターしかいないから……だから約束はしてないけど破ったのは私の方」


「……マナ?」


 なんだろう。この感じ。珍しい? うん。いつもと違う雰囲気のはずだ。でも不思議と「彼女らしくない」と言う気持ちは全くしなかった。

 なんて事を考えてたんだが、  


「だからね! お姉ちゃんとマスターが本当に仲直り出来るように、ここでマナ先生が一肌脱いであげちゃおうと思うのです!」


 そう言って再び。クルリとまわってこちらに笑顔を向けてきた彼女は、すっかりいつもの雰囲気で……


「……気のせいか」


「ん? なにが?」


「いや、なんでもない」


 気の抜けた返事をすると、彼女は腰に左手をあて、人差し指をたてて頬をぷーっと膨らませた。


「もう。大事な話してるんだからちゃんと聞いてよね! まぁ、いいでしょう。それじゃあ、楽しみにしててね~♪」


 そう言って彼女は口に手をあててクスクス笑いながら去っていく。


 

 なぜだろう。何もおかしいところなどなかったはずなのに。

 なぜか俺は狐につままれたような気分で彼女の後ろ姿を見送っていた。




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