新たなる生活
「みんな集まってもらってすまない。だが大事な話だからちゃんと聞いてくれ」
全員が入れる部屋がないので演説をした広場で話し合う事になってしまった。
子供たちは聞いているだけだがそれでも一緒に聞いておいて欲しかった。
「領主様はなんとかこの村の存続を認めてくださった。だがそれで全ての問題が解決した訳ではない。これからは一致団結してこの苦難に立ち向かう必要がある」
みんなの反応を見つつ言葉を続ける。
「差し当って解決したいのが住居の問題だ。以前のように各自がそれぞれの住宅で暮らす事は困難だ。年長のものが幼子の者の面倒を見つつ、共同で暮らしていかねばならない」
子供たちが任さてくれと言わんばかりに良い顔をしている。良いぞ、頼もしさを感じて俺も声の調子が良くなる。
「今は前村長宅と宿屋の建物に無理やり雑魚寝しているが、今日からは住民を3つの班に分ける。そして一部の壁をぶち抜いたり寝具を運び込んだりして共同住宅に改造するんだ。これにはアレン達も協力してくれる」
「任せてください」
元々イケメンな奴が、更に良い顔して答えるもんだからまぁ。一部の少女が頬を赤らめて両頬に手をあてて視線を送ったりしている。それにちょっとムッとした少年がいたりなんかしてて見てると微笑ましい。
「アレン達のおかげで治安の問題は大幅に改善される。後ほど村外から大工も雇う事も出来るが、幸い必要な道具は揃ってる事だし出来る事は自分達でやろう。共同住宅にするのは前村長宅。ファーレンさん宅、オーレンさん宅だ。宿屋はすまないがこちらの事情で潰す訳にはいかない」
「わかりました」
「使わなくなる建物もそのままと言う訳にはいかない。人が住まない建物は痛むのが早いんだ。腐りそうなものは全て取り出し、出来る限り防腐処理も行う。衣類などはしまい、埃が立ったり虫が入らないようドアや窓を密閉する必要もある」
みんなの顔を見渡す。特に異論はない模様。ここまでは順調にきたか……だが、問題はここからだ。
「これからは食事はみんなで作り、みんなで片づけるんだ……いや、それだけじゃない。食料も何もかも村の共有財産として俺が管理する。すまないが当面の間、この村は配給制になってしまう」
俺は老人達に視線を向ける。反応はかえってこない。
彼らの反応をじっと待つ。だが特に何も返ってこない。
……しびれを切らしてこちらから問いかけてしまう。
「いいのか?」
「はい?」
老人の1人が返事をする。
「いや、この村を配給制にすると言ってるんだが」
「はい」
「食料だけじゃない。一旦畑も土地も何もかも取り上げて、労働力を可能な範囲で分配する事になる」
「はい」
「いいのか? 財産のすべてを取り上げられるんだぞ? そのあとで俺が独り占めしてしまわないかとか不安にならないのか?」
「他に頼るアテもありませんので……」
「…………」
「…………」
いいのかよ!!
絶対こういうのって年寄りが「ここは先祖代々守ってきた土地で……」とか言いだすかと思ってたんだが。
人間って言うのは自分達が思っているほど理性的に物事を考えられない生き物だ。目先の欲望のために簡単に身を滅ぼす。
そう思い込んでしまっていたので老人達の態度には驚いてしまった。
「すまない。何も無作為に取り上げる訳じゃないんだ。元々持っていた財産はしっかりと記載しておき、村の運営が軌道にのったあとで考慮させてもらう」
「構いません」
「お任せします」と言う言葉と、「後から文句は言いません」と言う言葉の間には何の関連もない。
だがまぁそのことをさし置いても、今この場で反論されないって事は好都合だった。とりあえずは動き出す事が出来る。
「……わかった。悪いようにはしない」
「ゲオルグ村長」
「はい」
真剣な眼差しに思わず敬語で答えてしまう。
「……この村をお任せします。我らをお救い下さい……」
老人達がふかぶかと頭を下げる。それを見習って子供たちも次々に頭を下げる。
……やばい。無茶苦茶期待されてる……
胃がキリキリと痛む。だがここで言う言葉はただ一つだ。
「大丈夫だ。任せておけ!」
やってやろうじゃないの。
俺達の新しい生活が始まった!
タイトルとあらすじコロコロ変えてすいません。