竜ー02 無能の001~最弱と罵られた褐色女騎士は、実は最強だったようです~
この題名を考えるのに一番時間を使いました。
つんざくような悲鳴に、僕らは宿屋を出た。
阿保二人にはもちろん服は着せてある。安心してくれ。
外に広がっていたのは、明らかな異世界。
空の色は違うし、土もなんか赤いし。
なんというか、邪神が統べている世界、とか言われても納得しそうだ。
「で、覇王軍って……」
「むむ! 主様よ、あれではないか!」
白夜のアホ毛がピピーンと反応を見せる。
アホ毛の指し示す方向へと視線を向けると、黒い馬に乗った、明らかに悪者の顔をした男がいる。
その背後には……なんて数だよ。月光眼で探ってみると、驚異の4632人。対してこの村はせいぜい数百人が暮してるって程度の村みたいだぞ? 何しに来たのかはわからないけど、明らかに過剰戦力すぎるだろ。
しかも……それなりに強そうだ。
今の僕がそう判断するレベル、って言ったらお分かりか?
「ががっはははは! おいそこの村娘ぇ! 貴様に聞きたいことがああある!」
先頭の男が、叫んだ。
その男へと視線を向ける。
すると……まただ、頭の上に数字が浮かんできやがる。
ロシツ『890』
は、890……か。
なんだろう。僕や輝夜と比べるとものすごい数値だが、ウチの問題児と比べたら低く見える。
「ひ、ひいいいいいい!? あ、貴方様は!」
村娘、絶叫。
よほど、このロシツとやらは有名人らしい。
村娘の顔がみるみるうちの蒼白してゆき、涙まで浮かべている。
そんな姿に満足したように鼻を鳴らしたロシツは、馬から降りて村娘へと歩いてゆく。
その姿は、まるで不審者だ。
全身を黒一色のコートで包み、顔はニタニタと笑みを浮かべている。
一歩、また一歩と距離を詰める度に村娘の震えが大きくなる。
ガタガタと歯の音がここまで聞こえてくる。
そして――ついにロシツは村娘の目の前までたどり着いた。
「なぁに、殺しはしないさ。覇王軍の社訓は『殺すことなく星になれ』だ。くっくっく。俺ほど他人を殺すのが怖い覇王軍もいない。だから、安心することだ」
あれっ、覇王軍、もしかしていい奴なのか?
だとしても、あの村娘の怖がりようは常軌を逸している。
僕が不思議に首をかしげていると。
「――ッ!?」
「……感じましたか、お二人とも」
「ああ、余の直感が語りおった」
「「…………えっ?」」
唐突に、何かを察したアホ三名。
そして、取り残される僕と輝夜。
えっ、どうした? まるで真の強者にしか察知できない何らかの気配に気が付いた、みたいな顔をしているが。僕と輝夜はそうなると、その気配に気づくこともできない噛ませ犬だろうか?
白夜の頬を、一筋の汗が伝う。
現実に、ここまで綺麗に冷や汗を流したやつ、初めて見た。
僕は彼女の視線を追うと、ロシツは自分のコートに手を伸ばす。
それはまるで、懐から名刺を取り出すようにも……懐から拳銃を取り出すようにも見えて。
僕は、少し焦って目を見開いて。
――その直後、少女は泡を吹いて倒れていた。
「な……ッ!?」
み、見えなかった……だと?
一陣の風が吹き、赤い砂煙が舞い上がる。
その中で、ロシツは薄笑いを浮かべて佇んでおり、コートが風に揺れている。
「い、いったい何が……!」
輝夜も全く見えていなかったようだ。
僕も同様に、奴が自分のコートへ手を伸ばしたところまでは見えた。
しかし、その先は全く見えなかった。
瞬きをしていたわけでも、油断していたわけでもなく。
あの一瞬、あの刹那ッ!
この男……あの姉よりも早かった気がするぞ!
「冗談じゃない……」
僕が戦慄に震えていると、アホ3人が目を剥いている。
そちらを見ると、3人は次第に目を細めてゆき、真剣な表情を浮かべる。
「……見えたかの、二人とも」
「ええ、なかなかの技巧。一瞬で少女を気絶させる凶悪さ。……面白くなってきました」
「ふん。ただのざこじゃろ。余は手伝わんぞ。やるならおぬしらが相手するのじゃ」
えっ、こいつら見えてたの?
いつの間に僕より強くなったんだこいつら。
そっちの意味で僕が戦慄していると、ロシツの目が僕らを捉えた。
「む? お前らは……まさか、今のを見切った、とでもいうのか……?」
「…………」
無言で答える白夜。
おいこら、勝手に無言で返すなよ。
ほら見ろ、ロシツの野郎が『ほほう?』みたいな顔してるじゃん!
「なるほど……どうやら、まだ遊べる輩が残っていたか」
かくして、彼は懐へと手を伸ばす。
――ッ!? ま、また見えない攻撃がくる!
僕は咄嗟に身構えるが、奴は単純に、懐から道具を取り出したかっただけらしい。
……なんだけど。
「き、貴様……なんじゃそのブツは!」
白夜が、その道具を見て叫んだ。
僕は内心で絶叫した。
す、すすすす、す、スカ○ターだ! スカ○ター出しやがったぞこの男!
僕は色々な危険を感じて後ずさると、奴は道具を片目に着用する。
「くく、見たことがないだろう、知らないだろう? この最新機器は、敵の『変力』を測るものだ」
知ってるよ。
というか、日本人の多くがその道具の使い道を知ってるよ。
ただ、変力という言葉には覚えがなかった。
「変力……?」
「主様、なんじゃ、嫌な予感がするのじゃ。気を付けるのじゃぞ」
白夜がいつになく真剣に僕の前に立つ。
そんな僕らに対して、ロシツは機械を起動させた。
まず、視線が僕を捉える。
「変力……『5』? 雑魚だな」
輝夜を捉える。
「変力『3』? そこの男もそうだが、稀に見る低さだな」
ソフィアを捉える。
そして、男が焦ったように声を上げた。
「ば、バカな……なんだこの数値は!」
僕ら五人の中で最強の数値を誇るソフィア。
その数値は、文字通り僕らとは桁が違う。
その数値に驚いているのだろう。そう、僕は考えていたが。
「へ、変力……『001』、だと!?」
ロシツは、唐突にラノベみたいなことを言い出した。
え、何言ってんのこいつ。
もしかして、あれか?
一昔前にちょっと流行ったよね。
本当は戦闘力がとんでもない数値なんだけど、機器の性能が悪くて下三桁か四桁しか調べられない。そして偶然にも下数桁だけ見るととても弱く見える、ってやつ。
もしかして、それ?
『な、なんという戦闘力……クゥッ! 機器が壊れたッ!』
とか、そういうあれじゃないの。
僕は思わず呆然としていると、ロシツは次々と変力を探ってゆく。
「そして……本命は貴様らか。『213』に……『350』! は、はははははははは! すごい! ここまで数値が低いものの、覇王軍以外にここまで変力が高いものも見たことがない!」
ほら見たぁ。やっぱりね。
そして次の予想もついたよ。もうちょっとしたら新しい新型が出るのよね。四桁測れるやつ。そしたら、白夜は『0350』暁穂は『0213』、ソフィアは『0001』になるんでしょ? もう見え透いてんだよ設定が。
冷めてきた僕の内心。
それとは裏腹に、ロシツは実に楽しそうだった。
「ははははは! 愉悦ッ! なんという奇跡か! この俺が、日々血のにじむような実践訓練の果てに生み出した一撃必殺! その攻撃を貴様らは耐えられるかな!」
「――ッ! 気を付けるのじゃぞ、来るのじゃ……っ」
白夜が、またも何かを察したように叫ぶ。
対するロシツは、コートへ手を伸ばしながら、僕らへと駆け出した。
その速度は……駆け出し冒険者に毛が生えたくらい。
正直、遅い。
だが、先ほどの動きは全く目で追えなかった。
僕は月光眼へと膨大な魔力を籠め、全身を戦闘態勢へ移行する。
対する白夜たちは、警戒しつつもどこか余裕を見せて立っており。
ロシツは、コートの下から巨大な大砲を現した。
大砲……そうだ、ものすごい大砲だ。
ロシツは、両手でコートを広げている。
その下に広がっていたのは、肌色一色。
――俗にいう、全裸である。
視線は自然と下の方へと向かい。
そして、巨大な大砲とご対面だ。
「んぎゃああああああああああああああああああ!?」
「いやあああああああああああああああああああ!?」
僕と輝夜、思わず絶叫。
特に僕がひどかった。
月光眼の動体視力を高めたのがあだとなった。
とんだ悪手だ。
とんでもねえブツを見ちまった……。
「うおっぷ……」
「な、なんと凶悪な……ッ!」
輝夜と僕は、その場に崩れ落ち、口を押えてえずく。
気持ち悪さここに極まれり。
ロシツ、って名前から察するべきだった!
こいつ……ただの露出狂だ!
「くくく……どうだい、俺のビックマグナム」
最低だ。
僕は思った。
そして同時に理解してしまった。
何故、この三人の『変力』が異様に高いのか。
僕と輝夜は既に満身創痍。
極限まで極められた、最恐の業。
一瞬で、刹那に自分の局部を相手の網膜に焼き付ける。
なんて業だ。素直に脱帽するし、戦慄する。
だけどな、変人野郎。
その程度で、変態は名乗れないぜ?
「これで、雑魚の三人は無力化……っ」
「おい。どこに目を付けている?」
ロシツの背後で、女の声がした。
彼は限界まで目を見開いている。
目の前に倒れているはずの弱者は、三人ではなく、二人だ。
残る一人は……言っちゃ悪いが、最強なんでね。
「ば、バカな……!? いつの間に後ろにッ!?」
ロシツは大粒の汗を流し、咄嗟にその場を飛びのいた。
自分のいた場所を振り返った彼は、そこにいた褐色女騎士に目を見開く。
「な、な……なぜ! なぜ変力『001』の貴様が……!」
「何故、じゃと? 奇怪なことを聞く。その目の機械に聞いてみろ」
ソフィアはそういうと、余裕の笑みを浮かべる。
その反応は、自分の変力――いいや、【変態能力】に自信のあったロシツの怒りに火をつけた。
「貴様! 貴様貴様貴様あああああ! この俺を誰と心得る! 三柱の覇魔王が一角、名前を呼ぶことも躊躇われるあのお方が率いる四天王が一角! そのお方の第三師団を率いるロシツだぞ! それを貴様は――!」
「ん? 何か言っていたか?」
瞬間、ソフィアの姿が掻き消えた。
……いいや、ロシツの背後に現れた。
彼は唖然と目を見開き――次の瞬間、彼の体を覆っていた衣服の一切がはじけ飛ぶ!
目にも追えない早業だ!
「ふっ、これぞ妾の目指す変態」
「ええ。言いたくはないですが――格が違う」
白夜と暁穂が戦慄する。
ロシツは唐突な全裸に赤面し、股間を隠して背後のソフィアから距離をとる。
そして、目を見開いた。
だってソフィアも、全裸だったのだから!
「な――ッ!?」
「いつから貴様は、自分だけが全裸だと錯覚していた?」
ソフィアは笑う。
なんの羞恥もなく、公衆の面前へ全裸をさらけ出し。
それでもなお、決して揺らぐことなき風格。自信。
あまりの全裸に、ロシツは赤面し目をそらす。
それは、ほかの覇王軍も同じであった。
「く、く、クソが……ッ!」
「貴様の敗因は一つだよ。変態度が足りなかった」
その言葉が、理由のつかない衝撃波となってロシツを吹き飛ばす。
覇王軍がたった一言で吹っ飛び、壊滅。
それを見て、影から見守っていた村人たちはソフィアへと視線を向ける。
彼女は、長い髪を右手で耳にかけ、余裕の笑みを浮かべるのだった。
「変態は、常に全裸と心得るべし。……今日から、それを家訓にするといい」
無能と思われた001。
最弱と罵られた褐色女騎士は、実は最強だったようです。
書いてる最中で悪乗りが止まらなくなりました。
次回の題名もお楽しみに!




