竜ー01 変態クロニクル
新章開幕!
頭を空っぽにして呼んでください。
目が覚めたら、そこは異世界だった。
「…………はっ?」
な、なんだ……どういうことなんだ?
さっきまで僕は自室で眠っていたはずなのに。
どうやらここは、どこかの宿屋? のようだ。
なぜここが異世界かとわかったのか? そう聞かれれば窓の外を見ろと答えよう。なんか真っ赤な満月が浮かんでるよ。空の色紫色だよ。ここはどっかの最終決戦上ですか?
「……いや、マジでどうなってんだ」
僕は頭を抑えて呟いた。
どうも、ギン=クラッシュベルです。
なんだかとってもお久しぶりな気がするね。
気のせい? だったらいいのだけど。
……いや、全然良くねぇなこの状況。
僕は深いため息を漏らすと……ガチャリと、部屋の扉が開かれた。
そちらを見ると、見慣れた金髪の女が立っていた。
「おお! 主殿、起きたか!」
「……輝夜。どうなってんだこれ」
金髪碧眼のアンデッド、輝夜の姿がそこにはあった。
彼女は僕が起きているのを見ると僕の方まで駆け寄ってくる。……なんだかよく分からない状況だし、本物かな? と注視するが……よく分からない。少なくとも僕が判断するに本物だ。これで偽物だったらお手上げです。
「どうもこうもないぞ! 目が覚めたら草原の真っ只中だし、何故か主殿たちは気絶しているし……何とか近くの街まで連れてくることは出来たが……」
「……たち? 僕の他にもこっちに来てるやつが居るのか?」
「……ッ!? そ、それは、その……」
……んん? なんだろうかその反応は。
とっても嫌な予感がするのですが。
僕は眉根を寄せていると……ドドドドッと、どこからか走ってくる足音が聞こえてきた。
ガバッと輝夜が入口を振り返り。
そしてまもなく、変態が姿を現した。
「ふむ! ここから主様の匂いがしたのじゃ!」
「寝起きにコイツはきついぜ……」
「す、済まない主殿。置いてこようかとも思ったのだが」
置いてこいよ。
そうは言えなかった。状況が状況だしな。
部屋の前に立っているのは、もう、声だけでお分かりですね。
ええ、白夜です。
ドMです。
奴は僕に向かった突撃してきたが、直前で足を出して、足裏でその顔面を受け止める。
「寄るな鬱陶しい」
「はぅ! な、なんという冷遇! 寝起きの体にしみるのじゃ!」
彼女はその場で倒れ込むと、体をよじって頬をあからめる。
うっはぁ、どギツい。
コイツは出会った頃から終始変わらないね。
一時期僕の呼び方も変わったけど、なんか戻ったし。
変わったのは目の色と強さくらいか?
……特に、強さに関しては常軌を逸してるからな、変態だけど。時を止める変態とか誰が勝てるんだよ本当に。まじ変態。
そうこう考えていると、輝夜が苦笑を浮かべていた。
「あ、主殿……。まぁ、皆眠りが深そうだったから問題ないと思うのだが、一応、覚悟だけは決めておいてくれ。これよりヤバいのがあと二人いる」
「えっ、逃げていい?」
いや、それもう答え言ってるじゃん。
白夜と同等の変態って二人しかいないじゃん。
露出狂と変態系ピラミッドの頂点だろ?
その言葉だけで顔が浮かんだ僕は、もう手遅れなのでしょうか?
「ええ、安心してくださいませ。この私、マスターが何処にいようとも必ずしや追いついてみせます。全裸で」
聞きたくもない声が聞こえてきた。
入口へと視線を向ける。
変態が立っていた。
ブロンズの髪に、翡翠のような碧眼。
頭からは狼の耳が、背中からフワッフワの尻尾が見える。
道を歩いていれば10人中10人が振り返るであろう美人だ。
――ただし全裸。
その女は、衣服の類を一切身にまとっていなかった。
「あ、暁穂! 私が気絶している貴様に着せた服はどこへやった!」
「あら、輝夜。こんばんは。今日は全裸が良く似合う夜ですね」
「この変態が……! とりあえず服を着れ貴様は!」
どうしよう、輝夜がマトモに見える。
コイツ、まだ中二病1回も出てないよ?
それほどまでの……彼女がうっかり真面目になってしまう程の変態オンパレード。もう帰りたい。たすけて恭香。
しかも、まだ1番やべぇ奴が出てきてないと来た。
もうね、助けて誰か。
この際恭香じゃなくてもいいから、とりあえず助けて。
「主人様ぁぁぁぁあああああああああ! 余は起きたぞぉ!」
ほら見てよ、なんか聞こえてきたよ?
ドダドダトドドドドドッ! と凄まじい足音。
そして、当然の如く僕の方へと一直線に向かってくる。変態には主の位置を把握する変態レーザーでも搭載されているんだろうか?
僕は、入口の方へと視線を向ける。
――そして、変態が現れた。
褐色の肌、ピンクブラウンの髪、青い瞳。
――しかも全裸。
変態の要素は既に全て揃っていた。
コイツのせいで変態=コイツみたいな印象が根付いてしまった。
この四つのうちどれかひとつでも入ってたらその時点で変態な気がする。……そんな僕はもう手遅れなのでしょうか? 手遅れですね。
あと、全裸は普通に変態だ思います。
「……むむ、なんじゃこの状況は。白夜が快楽に溺れ、暁穂はありのままの姿をさらけ出し……主人様は床にて余を見つめている! ま、まさか酒池肉林の事後!? ま、まさか、二人を喰らい尽くしてもなお足りぬ性欲とでも言うのか……ッ! 望むところだ! さぁ、余を孕ませると同時に殺すといい!」
「輝夜、そこのド変態をつまみだせ」
「承った」
改めて紹介しよう!
ソフィアです!
変態です!
なんか、ドラマチックに殺された後に自分が産んだ僕の子供として生まれ変わりたいという、あからさまに頭のイカれたことを公言するドサイコ畜生イカレ鹿、しかも変態。もはや手に負えねぇ。
頼む、だれかコイツ以上の変態を探し出してくれ。
まだ上がいると理解が出来れば、僕もちょっとは我慢できると思う。
「くっそぉ……せっかくみんなが起きて、やっと平穏な日常に戻れると思ったのに。恭香たちにこの三人の世話を任せて一人悠々と暮らせると思ったのに! なんでラスボスのあとにもっと凶悪な変態の相手しないといけないんだよ!」
「安心せよ主人殿。余と白夜はとりあえず罵倒していれば満足するし、余と暁穂は何もせずとも常に全裸よ」
「だから安心できねぇってんだよ!」
とりあえず、お前と暁穂は服を着ろ。
話は全部それからだ。
僕は輝夜にコイツらの服を持ってくるよう命じると、呆れのあまり片目に左手を添えてため息を漏らした。
「……ったく、なんでったってこんな変態の…………って」
……んん? なんだろう、これは。
――白夜の頭の上に、不思議な数字が浮かんでいるんだが。
僕は目を丸くして左手を退けると、途端にその数字は消えてしまう。……試しにもう一度左手を目に当てると、再びその数字が浮かび上がる。
片目をとじている時だけ、浮かんでくる数字?
とりあえず、白夜、暁穂、ソフィアの順に見ていくと、全員の頭の上に数字が浮かんでいる。
白夜『8,003,350』
暁穂『9,002,213』
ソフィア『90,000,001』
「ぶふぉっ」
僕は思わぶ吹き出した。
えっ、なんか、ソフィアだけ桁が違うんですけど。
この中じゃ、白夜、秋穂、ソフィアの順番で強いはずだが……なんだ、この数値は? もしかして数値が低いほど強いのか?
そう考えて僕の頭上を見ると。
ギン『5』
「……これは違うかなぁ」
うん、数字が低いほど強いってのも違うみたいだな。
だって、白夜がアレで、僕がコレなわけが無いし。
さすがに僕の方が強いと思うが、もうちょっと力量差は埋まってるはずよ。うちの白夜を舐めないで頂きたい。
「主殿、服を持ってきたぞ」
輝夜が部屋へとやってくる。
輝夜『3』
ほら見てご覧、僕より輝夜のほうが強いことになる。
なら……この数字は一体なんなんだろうか?
何かを表しているのだろうが……。
うむ。何か分かりそうで……分かりたくないような。
暁穂とソフィアが渋々服を着て。
白夜が正座のまま僕を見上げてくる中。
「い、いやぁぁぁぁぁ!? は、覇王軍よ! 覇王軍が来てしまったわ!」
つんざくような叫び声が、響き渡った。
この数値の意味がわかった人、挙手。
※ヒント・HENTAI




