機―27 肯定しよう
お久しぶりです。
そしてヤバい、何時になく多忙な月末月始……。
すいません、今月はワールドレコード、SilverSeoul共に遅れるかもしれません。
「はァァァァッ!」
拳を振りかぶり、魔力を高める。
対するギシギブルは哄笑を響かせたまま動くことは無い。
反応できない……なんて訳では無いだろう。
ならば、と様子見で全力で放った拳は――次の瞬間、奴の眼前に張られた透明な壁にぶち当たった。
『か、ははははははははは! ギシギブルコアはこの俺が全力を賭して作り上げた最高傑作、考え得る最大スペックを持つ潜在能力の塊! 初歩の初歩、魔力による障壁でさえこの硬度よ!』
「……なら」
ギチギチと壊れる気配の見えない壁を感じて、すぐさま僕は奴の上空へと飛んだ。上空の空気を対象とした位置変換だ。
無言のまま魔力を拳へと込める。
先程とは異なり、クロエの炎を纏わせた拳。
それを情け容赦なく奴の本体部分へと振り下ろす――だが。
『愚鈍が、今の俺に死角などありはせん』
拳に感じたのは、先程と同じ壁の感覚。
一撃の衝撃が壁中へと突き抜け、一瞬だけ壁の全体像が視認できた。
それは奴の本体部分を中心として全方位へと展開されており、死角からの一撃も、不意を狙った一撃も聞かないのだろうと察しがつく。
(チッ、結界内に転移できりゃいいんだがな……)
クロエが悔しげに呟く。
それは僕も考えたが、腐っても眷属。あの壁にはそういう『異能を弾く』系統の効果が付与されているんだろう。やってみたけど無理だった。
ホント、あらゆる異能を弾く壁とかチートもいい所だし、それを初手、単純な防御の一つとして使ってくる時点でコイツの化け物加減も分かるというもの。
だからこそ手は抜かない。
一切の容赦なく、真正面から捻り潰す。
「おいウル、異能無効の概念くらい、壊せるだろうな?」
『ええもちろん。私に壊せぬものはありません』
頭に響いた声に笑い、拳に纏わせていた魔力の質を変化させる。
白銀色から、背筋が凍るような血の色に。
それを拳に纏わせ、攻撃性を持たせ、ただぶちかます。
なんの技名もなく、なんの技術もなく。
チートを、それ以上のチートを持って捻り潰す。
「さぁ、壊れるまでぶっ叩こうか」
大きく笑い、拳を振り下ろす。
途端に壁中へと一気に血色の魔力が突き抜け、悲鳴をあげる壁を見て、目に見えてギシギブルが狼狽える。
しかし、壁は壊れない。
だからこそギシギブルは安堵の声を漏らし――次の瞬間、振りかぶったもう片方の拳を見て驚きの声を上げた。
『ま、まさか――』
「言ったろ、壊れるまで、って」
一度でダメなら二度。
二度でダメなら、三度でも四度でも。
奴を嘲笑うように右と左の拳を出鱈目に、何度でも何度でもその壁へと叩きつける。最早技術もへったくれもない。
ただ、ぶっ壊すためだけの連打、乱打だ。
『ま、待っ――』
「うるせぇ、ぶっ壊れろ」
静止の声を無視し、最後に右の拳を叩き付ける。
途端に奴の周囲を覆っていた壁は眩い光となって弾け散り、それを見たギシギブルは怒りに声を震わせる。
『くっ……! 死に晒せ下郎が!』
奴がそう叫ぶと、蜘蛛のように奴の本体を支えていた足の内、三本の足が襲い来る。
その先端部はアダマンタイトでさえ貫けそうな鋭さだ。僕は再度大きく拳を振りかぶると――次の瞬間、奴の背後へと居場所を変える。
『な――』
虚空を空ぶった三本の脚。
自称『死角なし』のギシギブル。驚きの声を漏らした奴の本体部分へと拳を叩き込むと、つんざくような轟音と共に奴の体が浮き上がる。
『が……ッ!?』
「お前は強いよ。よく分かった。その重量で、その速度、攻撃力に魔力量も常軌を逸してる。加えて防御に関してはあらゆる異能を弾くと来た。こりゃ、チートもチート。一年前の僕なら頬を引き攣らせて命乞いしてただろうさ」
だが。
バランスを崩し、かつて自身が住んでいた居城を押し潰したギシギブル。困惑と怒りの混じった声を漏らす奴へと、僕は堂々と胸を張って見下した。
「けど、それ以上に理解した。お前じゃ僕には勝てないよ」
『勝て、ない……だとォォォォォォォッ! ふざけるな下郎!』
叫びと共に、奴の本体から生えていた足が大地へと深々と突き刺さる。
奴の本体部分がちらりと輝いたかと思うと、次の瞬間、目が眩むほどの鋭い光線が撃ち放たれる。
光速に片足突っ込んだソレは瞬く間に迫り来る――が。
「それなら、知り合いの紫野郎の方が速かったな」
呟いて、目の前へと『転移門』をこじ開ける。
その光線は吸い込まれるようにして転移門の中へと入り込み――やがて、光線を完全に飲み込まれたギシギブルは唖然と体をうち震わせる。
『ば、馬鹿な……! な、なんなのだその力は! 今の一撃は星すら砕ける超一撃……! それを飛ばすなど……、貴様、もしや時空間に長けた能力者――』
「じゃ、ないんだよな、これが」
何かに長けている。
その言葉に当て嵌めるとすれば……なんだろうな。回復力? あるいは一回たりとも実践してないが、暗殺術がそれに当たるだろう。
それ以外に関しては『上がいる』。
自分よりも優れた存在を知っている。
だから、別に長けているとは思わない。
ただ、そういう能力も使えるってだけ。
「星すら砕く? はっ、そんなもんはスタートライン。ア○レちゃんみたいなこと出来ないで、なにが到達者だ」
僕らは、既に『異常』の域に居る。
もうチート一つで一喜一憂してられる時代は超えてきた。
いくつもの力を積み重ね、いくつもの苦渋を舐め、時にチートに頼りすぎたのが原因で死にかけもした。
その上に僕がいる。僕らが立っている。
生まれた時からその座に胡座かいてた奴とは違う。
「お前さ、マトモに戦ったこと、ないだろ」
冷たく笑い、奴の図星を抉り射す。
「知り合いに、数万年ぶりに戦ったせいで序盤は雑魚だった奴がいたから、よく分かる。お前は違う。お前は強くなることではなくドーピングすることにリソース費やしたタイプ。つまり、戦いを知らないタイプだ、ってな」
それこそ、文字通りの意味で、だ。
生まれつきの『最下位』という序列。
自信に備わったモノづくりの異能。
上を見れば限りがない化物じみた眷属たち。
そんな中に、この男は絶望したんだろう。
だからこそ、自身を高めることではなく、自身を高めるアイテム作りに精を出した。リソース全てを費やして、生まれてからの全ての時を費やした。
……まぁ、合理的だと僕は思う。
僕もその立場ならそういった手段を取っていた……かもしれない。だからこそ否定するつもりはない。だが。
「本気で他の眷属と殺り合うつもりなら、自分自身の修練も積んでおくんだったな。お前の手段は否定しないが、全てのリソースをギシル開発に注いだことは間違いだったと否定しよう」
『こ、この……人間風情がァァァァァァッ!』
ギシギブルは体を起こすと、巨体に則わない速度で迫り来る。
『貴様のような人間に……人間風情に何が分かる! 生まれた時より最底辺と定められた我が運命! 如何に上昇志向を持てども適うはずもない!』
鋭く襲い掛かる無数の脚
技術もへったくれもないが、それを抜きにしてもあまりあるその速度。月光眼へと魔力を注いで回避に専念する最中も奴の慟哭は響き続ける。
『知らぬだろう! あぁ知るはずもない! 序列一位より始まる眷属序列の高位連中を! 個にして完結、個にして無双、最強という二文字をこれ以上なく色濃く反映され、創られた、奇跡の存在を!』
奇跡の存在。
その言葉を聞きながら翼をはためかせ、大きく飛び上がると、僕を見上げたギシギブルは怒声の限りを響かせる。
『故に、俺は今の俺を肯定する! されば貴様はここで死に逝くが道理! なにせ、正しい俺が負けるはずがない!』
正しい自分が、負けるはずがない。
なんだか、どこかで馴染み深い言葉の気がする。
というか、つい先日までそんなこと言って殴りあってた気がする。
「……まぁ、知らないよ。僕はそういう奴と会ったことがないから。だから知らないし、お前の苦労なんて知ったこっちゃない。というか、興味無い。お前の思う正しさになんて興味無い」
だからさ。
今更、正義云々と言われたところでどうしようもないんだよ。
千差万別、十人十色。
人によって思うことは変わってくる。
その人によって、正義の定義は変わってくる。
だから、そんな話に興味はない。
「知ってたか。合わない奴らはどれだけ話してたって平行線。噛み合うことなんてありはしない。果てに辿り着くのは自分の意思を通すためだけの殴り合い。エゴを通して他者を蹴落とす、意地汚い泥仕合」
身をもって知っている。
合わない奴とは、どんだけ話し合ったって意味が無い。
僕と、アイツがそうだったように。
僕と、お前がそうであるように。
「だから、僕も僕とて、僕自身を肯定しよう。世間一般に正しいかは分からない。けど、仲間を守り損ねて、必死になってその失敗をなかったことにしようと足掻いてる。そんな情けない自分を、それでも僕は肯定しよう」
そんな僕を、僕は好きではないけれど。
正しいと思ってないと、とてもじゃないけど進めない。
こんな険しい道を、歩いてなんて居られない。
だから、せめて自分だけは、自分を信じて。
唯ひたすらに、がむしゃらになって突き進もう。
僕は右手にシルズオーバーを顕現させると、改めて眼下のギシギブルへと突きつける。
「馬鹿からDV被害を受けてる、一人の友人を救いたい」
言ってみれば、それだけの事。
我ながら、珍しくマトモな正義掲げてんな……と関心しそうにもなるが、とりあえず、僕の心象としてはそんなところ。
なら、僕はその正義を貫くべく、全力賭して足掻いてやろう。
「――これより、正義を執行する」
さぁ、友達を救いに行こう。




