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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第一席 魔国編
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機―25 不条理、再臨

すいません、1日遅れました。

 ほんの少しだけ。

 魔力、ってモノから離れた生活をしてきた。

 こんなの数年前からすれば当たり前のことだったんだけど、魔力ってモノになれてしまうと、いざそれが使えなくなったって時に死ぬほど苦労する。

 正確には、魔力ありきでの生活に慣れ過ぎて、魔力ある前提の無理無茶無謀、そういうヤツを積み重ねる『習性』ができ始めているから、苦労する。


 ま、苦労したくないなら自重しろって話だけれど。

 そこのところは見逃していただきたい。

 僕だって好きで今の僕になったわけじゃないし。

 自分の未来を好きにできるなら、きっと僕はもっと強い。

 僕は、まだまだ強さを求め足りない。


「さぁ、やるか」


 大きく息を吐き、瞼を閉ざす。

 周囲には超過稼働を始め、暴走の果てに限界を超えた力を得たオートマタたち。その姿には否が応でもかつての自分を重ねてしまうが、そんな自分も昔のことだ。


「その方法は、死ぬほどに懲りてるんでな」


 命を代償に、力を得る。

 あんなのはあの一回だけで十分だ。

 力を得る代償に、命と一緒に仲間たちの悲しみがついてまわる。

 そう知った時に、悔いるほど骨身に染みて、理解した。

 理解して、覚悟した。


「僕はそんな裏技使わずに、普通に強くなろう」


 瞼を開く。

 発動した月光眼により両の眼が白銀に染まる。

 途端に知覚していた世界が一変。まるで世界中の全てを把握出来ているような全能感が身体中へと襲い来る。

 されど慢心、油断することは微塵もない。

 ただ僕の中にあるのは、懐かしい、やっと戻ってきたか、という安堵だけ。


「もう裏技は使わない。順当に、真正面から、正々堂々歩いてやる」


 何か習得できる力があるなら、何かを代償にすることなく、ただそれに必要なだけの修練を積もう。

 何か必要な力があるのなら、代用も何もせず、ただ時間をかけてその技術を、力を習得しよう。

 自分に力が足りないのなら、一つ一つ積み重ねて大きな力の束にしよう。一つ一つを組んで、併せて、いつか最強へ至る足がかりとしよう。

 もしもその道を阻むものがいるのだとすれば。

 ただ、その日まで積み上げたもの全てを用い。


「――真正面から、踏み潰そう」


 そう笑い――次の瞬間、僕の体が消え失せる。

 一瞬にしてその場から消えた僕にオートマタ達が一瞬戸惑うが、後方から大局を見ていたあの男――機界王ギシギブルと視覚でも共有してるんだろう。すぐさま上空へと転移()んだ僕の姿を捉えてくる。

 ま、さほど脅威でもなんでもないが。



「――時刻変化《夜》」



 途端に、世界が夜へと移り変わる。

 燦々と地上を照らしていた太陽は月に成り代わり、オートマタたちの動きが一瞬だけ停止する。機械に『暗順応』なんて通用するのか知らんかったが、こうして見るに通じるらしい。

 下手に人間に近づけすぎた弊害か。

 あるいは、機械として視覚の調整に多少手間取ってるだけか。

 まぁ、いずれにしても、さっさと殺るに限る。


「エアロック」


 固めた足元の空気。それを蹴り抜いて一気に加速すると、先頭にいたオートマタの顔面へとドロップキックをぶちかます。

 太陽神による温熱と影神による物理的な斬撃。

 熱が溶かし、影が切り裂く。

 一瞬にしてヤツの顔面はドロッドロのザックザクへと変わり果て、驚かせる間もなく周囲のオートマタ達へと腕を薙ぎ払う。


「クロエ!」

『おうよ!』


 途端に顕現するのは聖獣・白虎の腕。

 氷の骨に、炎の血肉。

 雷を纏ったその腕は僕の動きに合わせて周囲をなぎ払い、一定範囲内のオートマタ達を一瞬にして切り裂いてゆく。


『だァっ、硬ぇなおい! テメェなんでこんなカッチコチな化け物一撃で沈められんだ、ばかじゃねぇのか!?』

「よく言うだろ、太陽と影が合わさりゃ無敵だって」


 相反する二つの力。

 大抵の物語じゃこういう力はクライマックスまで入手出来ないのが定番だが、僕の場合はクライマックスらしいクライマックスは既に過ぎてる。なんだそれチート過ぎるだろって能力も今の僕ならなんの問題も感じられない。


『も、もう……な、なによお似合いだなんて……っ! そ、そんなのまだ早いわ!そ、そう、もっとお互い知ってから――』

『あ、ご主人様。アポロン様が異なる世界へトリップし始めましたので、今度は私が力をお貸ししますね』


 アポロンの声に被せるようにウルの声が聞こえる。

 同時に背中から血色の炎が吹きあがる。それは翼の形を取って顕現し、同時に先程まで用いていた『炎天下』が彼女の力に塗り潰された。


『まぁ、凡庸性には欠けますが、こういう【物】を壊すことに関していえば私に並ぶ力はありません。なにせ全てを壊す絶対破壊――』


 同時に溢れ出す彼女の魔力。

 腕を振るえば周囲のオートマタが魔力の奔流に飲み込まれ、視界を回復させ、背後から迫ってきた奴らは皆、血色の棘に串刺しにされる。


『――控えめに言って、壊せぬモノはありません』


 瞬く間に活動を止め、地上へと落下してゆくオートマタ。

 ……うん、相変わらずとんでもない力だな。どんなものでも壊せるってのは、言ってみれば精密機械の天敵みたいな力だ。

 そう苦笑して――次の瞬間、僕は機界王のすぐ後方へと転移する。


「どうした機界王、どっか行くなら僕も連れてけよ」

「……ッ!」


 そう笑って肩に手を置くと、彼の体が一気に震えあがる。

 コイツは僕が『リハビリがてら殴って潰そう』的なこと言った直後、『え、やったぁ、オートマタ囮にして逃げられるじゃん!』みたいな顔してたからな。ギシルを小脇に抱えて逃げ出す様子、しっかりと月光眼で見張ってました。


「き、きき、貴様……ッ」

「大口叩いてた割に情けないな。自分より弱いやつは思う存分いたぶり、残虐なまでに蹂躙し、勝てないかもと思った相手からは即逃げる。安心しろよ、勝てない()()じゃない。お前は僕には勝てないよ」


 告げた瞬間、奴の体の体表を突き破り、無数の『脚』が現れる。

 まるでギシルが暴走した時と同じような、機械の脚。

 それは瞬く間に僕の身体中を穿ち、貫く。


「ハッ、何が勝てないだ、馬鹿め! そうして調子に乗るから人間や神は我らには勝てぬ! いくら実力で勝ろうと油断すれば……すれ、ば……ッ」

「油断すれば、なんだって?」


 問いかけた言葉に、目の前のギシギブルは目を向いた。

 油断? 仮にも眷属相手にそんなもんするわけないだろう。

 僕の体は事前に『霧』へと変身済み。

 僕は体中を貫いた脚をすり抜け、彼の体を回るようにして歩き出す。


「折角、打開策を考える時間をやったのに、やることと言えばギシルを連れて逃げるだけ。言っちゃ悪いが、今のお前を倒したところで、経験値入ってくるかも微妙なんだよ。察してくれないか」


 身体能力は僕より劣る。

 攻撃力も格段に劣り、防御力はあれど破壊可能。

 奇襲も月光眼があれば余裕で見破れる。

 その上で白夜のような超絶チートも持ち合わせてない。

 つまり、完全なる格下。

 だから思った。こんな奴を倒した所で神霊王には近づけないんじゃなかろうか、と。そのためわざわざ時間をやった。というのに。


「……お前、どこまでも僕の神経逆撫でするよな。目の前で連れ去られる友達、放置しとくわけないだろうが」


 ギシルを抱えていた腕を肩ごと握り潰し、馬鹿みたいな絶叫をあげる奴の顔面へと蹴りを叩き込む。

 途端に奴の身体は大きく吹き飛ばされてゆき、地面へと落ちてきたギシルを常闇のローブで抱きとめる。


「悪いな、遅くなった。大丈夫か?」

「……唖然。何が起きた、お前」


 何って……元に戻っただけなんだが、彼女に行っても通じないだろうしな。一体どう説明したもんかと悩んでいると、吹き飛ばされて壁にめり込んでいた機界王から憎悪の声が聞こえてくる。


「き、さまあアアアアアアアア! 貴様っ! よ、よくも、よくも私の尊ばしい顔に蹴りを……無粋極まれり! 何たる不敬、万死に当たる! 我が体、我が顔は我らが王、神霊王様による創造物! それを足蹴にするなど許され――」

「るんだな、コレが。本人から『眷属潰して早く強くなれ』と承ってる」


 それに何より、僕って元を辿れば『イケメン見たら何となく殴り飛ばしたくなってくる人種』の人間ですし。

 無様と罵ってくれて結構。

 モブ顔ブッサww とか罵ってくるなら上等だ。こちとら超絶イケメンって訳じゃないが、顔面偏差値中の上から上の下あたりうろちょろしてるってこと、骨の髄まで教えこんでやる。


「それにお前、白夜のこと殴ったろ。万死に値するよ」


 そしてそれはもちろん、拷問なんてやってくれた雑多共も同様に、だ。

 上空を見れば、そこには一斉にこちらへと襲撃してくるオートマタたち。

 元々は一体ずつ殴り飛ばしてやろうと思ってたけど……それが原因で目の前の親玉に逃げられても癪だしな。


「もういいや。全員死ねよ――属性強化・罪炎滅却(シルバーアウト)


 途端、溢れ出すのは血色の炎。

 クロエの炎にウルの絶対破壊をエンチャントした最悪の炎。

 それらが全てのオートマタの()()()()吹き上がり、一瞬にしてそれらの体を燃やし尽くして行く。


「な……ッ!? ば、馬鹿な……!」


 ギシギブルが驚いているが、別に言うほどの事じゃないだろ。

 罪炎滅却、シルバーアウト。

 神器手にして、結構初期の頃から開発してた技だが、結局は『相手を体内から焼くとか、そんな回りくどいことしなくても強い一撃ぶちかませば良くね?』という暴論に沈んでしまった哀れな力。

 けれど月光眼が大幅に強化された今、僕は範囲内に在る全てを、かなり高水準で把握出来る。なら、あとはピンポイントで発火地点を調整するだけ。


「――言ったろ、潰すって」


 上空から血色に燃えた鉄塊が落ちてくる。

 パーツ一つ一つにまで壊れ、分解され、哀れな姿で落ちてくるそれらはまるで地の雨のようで、その光景にギシギブルの顔が青く染まる。


「あ、有り得ない……! 理不尽……ッ、不条理だ! 何故、何故貴様のような人間が主に認められる! 何故、何故そのような力を――」


 そう喚くギシギブル。

 僕は彼へと神剣の切っ先を向け、あっけらかんと笑ってやった。



「悪いな、不条理ってのは、僕からすれば褒め言葉だ」




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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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