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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第一席 魔国編
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機―22 荒療治

今年二話目です!

 彼女は、少し驚いた。

 それは永遠にも思える時を生きる彼女が、久しく忘れていた感情。

 そしてその後に続くのは、歓喜とも感動ともつかない、『面白い』といった感情だった。


『そう、ですか。貴方はそう乗り越えるのですね』


 玉座に腰掛け、彼女は微笑む。

 最近になって注目し始めた一人の人間。

 今はまだ指一本動かすことなく屠れる程度の弱さだが、この場所まで到れる可能性を持った人間。その可能性がたとえ一パーセントにも満たない小さなものだったとしても、その可能性はそれだけで彼女の興味を抱かせるに足るものだ。


『今回も、予想が外れました』


 かの人間の中には、彼女の魔力が流れている。

 なにせ、彼女が作り出した最高傑作にしてもう一人の自分。分体とも呼べる『アレ』を魂に宿しているのだ。力に目覚めた当初は本来の力の一パーセントも扱いきれていなかったが、下手に彼は死線を超えすぎた。


『私の魔力は、眷属以外には、毒でしかありません。あの子もそれがわかっていたから、供給する魔力は制限していたようですが……死線の果てに、ほんの少しだけ供給が乱れたようですね』


 最後の最後。

 混沌と戦い、魔力をそこまで絞り尽くし、その果てに彼はさらなる魔力を強く求めた。求めてしまった。

 それが自らの体を蝕む、毒だということも知らずに。


『私を、超える王道としては。言った通り眷属を倒して、存在としての格を成長させ、私の魔力を使えるに足る存在に至ること。そうして初めて、十回に一度くらいはまともに攻撃が入るでしょうし、百度に一度くらいは私の攻撃にも耐えられるでしょう』


 だが、彼はミスを犯した。

 眷属と戦い、存在としての格を上げてから初めて使うべき銀色の魔力を、格をほとんど上げることなく最初から全力で行使した。

 その末に混沌が新しい道を探り始めたことは彼女も知っていたが、それでも『自身に到れる可能性』が減ったことには変わりない。


『今、彼の体は壊れかけ。無理に魔力を行使しすぎたせいで、本来であれば魂に従うはずの魔力が暴走を始めている。下手に魔力回路などというものを埋め込んだせいもあって、魔力の流れる道がぐっちゃぐちゃ……。もはや魔力を扱えるような体ではない』


 だが、しかし。

 そう彼女は――神霊王イブリースは微笑んだ。


『脳筋、と言うのでしょうか。従わないなら力ずくで押さえ付け、黙らせる』


 なんという馬鹿な思考。

 天才と馬鹿は紙一重。

 もはや天才というより馬鹿に近いんじゃないだろうか。

 そんなことを思う自分がいるが、不思議と理にはかなっている。


『不老不死の吸血鬼……でしたか。確かに常に身体中が内から爆発する痛みと衝撃に耐えながら戦闘できるなら、それも可能ではあります』


 彼がやろうとしているのは、自殺行為だ。

 魔力を無理矢理に正常通りに流させ、身体中の異常をぶっ壊しながら回復する。頭の先から足の先まで。壊れた全ての組織を壊すことで正常へと戻そうとしている。


『馬鹿ですね』


 イブリースは笑った。

 実に楽しそうに、微笑んだ。


『貴方がどう生きようと、私は基本、干渉しません。……まぁ、私の自由を邪魔だてする輩には容赦は致しませんが、それ以外はただ、ここで観賞させてもらいましょう』


 貴方が一体、どう生きるのか。

 どのような娯楽を、私に与えてくれるのか。

 彼女は満点の青空を見上げ、心の中で囁いた。




 ☆☆☆




 大きく息を吐き、重心を落とす。

 両の腕を大きく構え、前方を見据える。

 こっから先は、死力を尽くす。

 文字通り、死ぬ覚悟で全力を尽くす。


「暴れるぞ、野郎共」


 端的に告げて――魔力を汲み上げる。

 それはまるで、暴力の嵐だ。

 身体中を荒れ狂う魔力の本流が流れてゆき、尋常じゃない激痛が走る。脂汗が額から滲み出し、歯が折れるほどに噛み締める。


「……理解不能、自傷行為とは頭がイカれたか」


 傍目に、僕の行動は常軌を逸しているだろう。

 不気味に隆起する体。千切れ、破れて裂けて、壊れていく肉に、その度に周囲へと弾けてゆく真っ赤な鮮血。

 何をしているのかは理解がつかないかもだが、今の僕の行動が自傷行為であるというのは理解出来ると思う。


「お、おい貴様……! 一体何を」


 クロノスの声が響く中、眼前のオートマタたちが一斉に僕へと掌を向け、眩い破壊光線を撃ち放つ。

 それは圧倒的熱量を誇る致死の一撃。

 喰らえば骨すら残さず灰燼と帰す、破壊の一撃。

 それを前に『時間停止』しようとするクロノスをよそに、僕は眼前へと右手を掲げる。

 肉が裂け、血が噴き出し、骨が砕ける。

 が、そんなこたァどうだっていいんだ。


「――ただ、今此処に『壊れぬ盾』を」


 体をぶっ壊す覚悟は既に出来てる。

 体を魔力が通らないなら、ぶっ壊してでもこじ開ける。魔力の通り口を、体壊すことでぶち開ける。僕は不死だ、死ぬことは無い。

 だから、力ずくで突破しよう、この逆境を。


「無理無茶無謀。それを通して、この僕だ」


 轟音が鳴り響く。

 空気を灼くような破壊光線が飛来し――黒いローブが風に舞う。

 そして、着弾。

 巨大な爆発と閃光が周囲を包み込む。

 その爆発を、爆煙を前にオートマタたちは勝利を確信し、愉悦の表情を浮かべている。そう、()()()()()()()()()()()()()


「この一瞬だけは、かなり本気だ」


 オートマタ達が目を剥く中、周囲を包み込んでいた爆煙が晴れる。

 かくしてその中より現れたのは、巨大な盾だ。

 ハニカム構造をした数枚の盾。

 破壊光線は上の一枚のみ破壊したようだが、残り数枚には傷一つつけられておらず、驚き動揺を走らせる奴らへと、僕は瞳から流れる鮮血を袖で拭う。


「ばっ、馬鹿な……ッ! き、貴様一体どうやって!」

「何驚いてるかは知らないけど――」


 オートマタの絶叫が響く。

 そして――次の瞬間、僕の姿が奴らの背後へと現れる。

 ――位置変換。

 奴らはただの石ころへと変化した……否、ただの石ころと入れ替わった僕の姿に目を見開いて固まっており、僕は目の前のオートマタへと手を伸ばす。そして――。


「――天焰」


 瞬間、溢れ出すのは強烈な炎。

 太陽と熱量が変わらぬオレンジ色の爆炎が奴らの姿を包み込み、遅れて奴らの悲鳴が周囲に轟く。


「な……ッ!? そ、それは太陽神の……!」


 クロノスの声が聞こえてくる。

 そう言えば、あのツンデレ女神もこの時代に生きていたんだったか。

 そんなことを思いながら、上空から迫り来る二体のオートマタへと視線を向ける。


「困惑……だがしかし其の姿! 諸刃の剣と断ずる!」


 位置変換に、炎天下。そして月光眼。

 両腕からは膨大な血液が滴り落ちており、両の瞳は既に破裂し、血で溢れてほとんど前が見えてない。傍目に見れば満身創痍にも見えるだろう。だが。


「そうだな、だから何?」


 瞬間、奴らの背後へと影分身の姿があらわれ、いきなり背後へと現れた影分身に反応出来ず、二機のオートマタは顔面を殴られ、かかとを落とされ、地面へと力なく墜落してくる。


「ば、ババ馬、鹿な……? 理解、不、能……身体能力が大きく――」


 目の前へと落ちてきたオートマタが何事か呟いていたが、身体中へと魔力を流し、激痛を吐き出すようにしてその頭を踏み潰す。

 何を勘違いしていたのか知らないが、僕の本質は魔力によって馬鹿ほど強化された身体能力と、その魔力を豪勢に使って放たれる高威力の魔法攻撃。


「魔力無しの僕と戦って、知った気になられてもな」


 身体中から鮮血が溢れ出す。

 常闇のローブが真っ赤に濡れてゆき、肉が裂け、骨がへし折れる音が身体中から響いてくる。

 ふざけるな、押さえつけるな、暴れさせろ。

 そう言ってくるような魔力な奔流。もはや僕の意思を離れて暴れ始めた魔力の塊を……意思と精神で力任せに押さえつける。押さえつけ、矯正して、無理矢理に通常の魔力として体に流す。

 そのおかげで混沌戦が懐かしいくらいに身体中がボロッボロだが。


「いいね、治ってきた」


 壊しては、癒える。

 そして完治する間もなくまた壊して、また癒える。

 無限にも思える苦痛地獄だが、もう慣れた。

 そして無理矢理に使い続けることで、やっとこさまともに魔力も流れ始めてる。壊れた体に新たな『通り道』が出来始めている。

 もちろんまだまだ本調子には程遠いけれど。


「――影魔法【悪鬼羅刹】」


 全開時の、軽く三割くらいは出せそうだ。

 軽く体の底から魔力をくみ上げ、身体中へと纏わせる。

 全身鎧は感覚的にまだ難しそう。だから両腕と両足、その他必要な部分にのみ魔力を纏わせ、紅蓮の鎧を顕現させる。

 それは全開時からすれば遊戯にも等しい雑魚強化。

 されど、オートマタ達からすれば――まぁ、顔色を見れば一目瞭然。


「た、退避ッ! こ、この男には耐久戦を――」

「させるか馬鹿が」


 大地を蹴り飛ばし、一足でオートマタの懐へと入り込む。

 そして、勢いそのまま正拳突き。

 放った拳は小さな抵抗と共に奴の体を貫通し、一瞬にして寿命を散らしたオートマタの体を振り払い、周囲へと魔力を放出する。


「影よ命ずる――『穿ち貫け』」


 瞬間、僕の影から現れた無数の茨が奴らの体を串刺しにし、たった一撃で周囲のオートマタ十体近くがガラクタに変わる。


「くっ……! なんなのだその力は……!」


 運良く影の茨から逃れたオートマタが一体。

 奴は腕を巨大な剣へと変形させて斬りかかってくるが――


「【終焔】」


 ちろりと金色の炎が大気を揺らし、迫り来る巨大な剣が一瞬にして『蒸発』する。


「ば――」

「悪いな、お前らじゃ今の僕には触れられない」


 言いながら奴の体へと軽く触れると、たちまち熱気に当てられた奴の体が蒸発し、硬そうな核の部分を残して虚空に消える。

 周囲からはいつの間にかオートマタたちの姿は無くなっており、僕は終焔と共に秘密裏に周囲へと展開していた結界を解くと、オートマタ達のいた塔の方へと向き直る。


「……ちょっと待ってろ、今向かう」


 父さんがいるなら大丈夫だとは思う。

 けど、それと『心配しない』ってのは同意じゃない。

 僕は身体中へと魔力を通して走り出し――。


 ――ブツンッ、と。


 頭の中に嫌な音が響く。

 同時に体がバランスを崩して大地に崩れ、僕の意識は目の前に迫る地面を最後に暗転した。




こうして見ると、やっぱりギンと混沌って頭一つ飛び抜けてますね。あの戦い終わって経験値も得てるとなると……完全復活した時はどんな化け物になってるんでしょう。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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