機―21 打開策
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
それとちらっと宣伝。
去年のクリスマスイブに短編を投稿しました。
コメディ100%、頭の中空っぽにして読む作品ですので、暇な時にでもご覧くださいませ。
「はぁっ、はぁっ、か、はぁっ……!」
「し、しぶといじゃないかモブ顔が……!」
大きく息を荒らげ、前方を睨み据える。
視線の先には顔を真っ赤に腫れ上がらせた混沌……じゃなかった、クロノスの姿があり、奴の地味に整った顔が腫れ上がっていくのは見ていて爽快である。というかまぁ、晴れ上がらせてるのって僕なんですけども。
「これでも……打たれ強さは自信があってな」
戦闘中に進化してくる戦闘大好き脳筋野郎。
人体を破壊することに特化した行き遅れ幼女。
悪魔みたいな形相をした暴力の権化。
攻撃も魔力も存在すらも『触れたら即吸収』という、耐性持っていない奴には絶対に勝てっこないクソチートの権化野郎。
そんな奴らと嫌ってくらいに戦ってきた。
「……まるで、私よりも強い誰かと戦ったことがあるような口振りだな」
「あぁ、お陰様でな」
嫌味を込めてそう告げる。
今のこいつには分かりっこないだろうけれど、本当に文字通りにお陰様だ。どっかの誰かが馬鹿ほどぶん殴ってくれたから、こうして痛みに慣れることが出来た。暴力に屈せない体を手に入れてしまった。
大きく息を吐き、拳を握る。
「さて、そろそろ喧嘩も終わりにしよう」
頬に浮かべていた薄ら笑いを収め、拳を構える。
正真正銘本気の構えに、クロノスもまた身構える。
高まってゆく緊張感。
圧迫感を伴って周囲へと伝播してゆく闘志。
空気が重みとなって身体に押しかかり、周囲から音が消えてゆく。
そして――
「「――ッ!?」」
周囲へと、それを上回る威圧感が迸る。
それは、素の僕でも警戒するような馬鹿げた気配。
間違いなく全快の白夜以上……下手をすれば狂暴者状態の久瀬や絶望の燈を使用したギルでも勝負にならないかもしれない。
そんなレベルの気配が、最低でも十以上感じられた。
「ま、まず――」
既に喧嘩なんて言ってられる状況は超えていた。
咄嗟に喧嘩しながらもオートマタ達から離していたロウリィへと手を伸ばし――次の瞬間、伸ばした手が虚空を空振る。
「な……ッ」
「確認、なるほどこの力は凄まじい」
すぐ背後から声が聞こえた。
考えるよりも先に裏拳を叩き込むが、返ってきたのは異様な硬さ。
まるで素手で地球を殴っているような感覚。一ミリたりたも動かぬ腕に驚いて振り返り……次の瞬間、みぞおちへと強烈な一撃が叩き込まれる。
声にならない悲鳴。
身体中へと落雷が突き抜けたような衝撃と痛みが走り抜け、肺の中の空気が一気に外へと漏れだしてゆく。
「モブ顔……ッ!」
おいこら呼び方気をつけろ。
そんなことを考える間もなく歯を食いしばり、拳を握る。
目の前には先程とは雰囲気の一変したオートマタの姿があり、その身体中からは金色のオーラが溢れだしている。
――生命の燈。
不思議とその名を思い出す。
自らの命、寿命を代償として、一瞬……それこそ限られた一時だけ限界を超えた力を手に入れる。リスク度外視の超リターン。そんな力だ。
見れば奴の背後……未だ数体残っているオートマタの一体がロウリィの体を抱えて佇んでおり、その光景に嫌な予感が加速する。
「クソ……ッ」
油断しすぎた……?
いや、誰がこんなに急激な変化を予測できる。この変化はあまりにも唐突で、大きすぎる。これだけのパワーアップだ、何かしらの原因だったり前触れがあってもおかしくな……。
「ッて、意識の共有か……!」
思考の途中で気づく、その可能性。
コイツらが全機の意識を共有しているのであれば、ここまで唐突な変化だってうなずける。コイツらとは別の場所で、オートマタ達がこの姿にならねば勝機も見えないやつと戦っている。そう考えれば辻褄は合う。
そして、その相手にも心当たりがある。
「神王、ウラノス……!」
この女が『クロノス』である時点で分かっていた。
この時代は、神王ウラノスの全盛期。
そしてその男がこの街に来ているのだとして、オートマタと敵対しているのだとすれば、あるいは――。
「……いや、んなこと考えてる場合じゃないか」
拳をにぎりしめ、大地を蹴って走り出す。
同時に視界の隅に銀色の奇跡が走り抜け、物凄い轟音が周囲から鳴り響く。だが。
「視認可能、もうその速度は通じない」
直後に響いた淡々とした声と、聞き覚えのある悲鳴。
見れば一体のオートマタが何かを蹴り抜いた姿勢のまま静止しており、ものすごい勢いでクロノスの体が吹き飛ばされてゆく。
あの女はまだ壁すら超えていない。そんな彼女が今のオートマタ達の攻撃をまともに食らってしまえば――
「がは……ッ」
血を吐き出すクロノスの姿が見えた。
その姿からすぐさま視線を逸らして前へと向くと、そこには眼前へと迫っている拳。
首を振って肌一枚で回避すると、同時に奴の腕を両手で抱え、思い切り膝蹴りを叩き込む。
ミシリ、と音が鳴る。
されど響いたのはオートマタの腕からではなく、僕自身の膝からだった。
「クッソ硬い……!」
「理解。なるほど、貴様の方が若干力量は上か」
膝が砕けて鮮血が吹き出す。
痛みに顔を顰め、同時に顔面へとオートマタの手が伸びる。
咄嗟に手を払い、疎かになっていた足を払う。
流れそのまま背負い投げへと持ち込んでゆくが――
「――ッ」
一体のオートマタと相対している僕に向けられた、無数の掌。
「ま、まず――」
気がつけば、無数のオートマタが僕の周囲を囲んでいる。
能力に縛りのない僕なら、絶対にしないような凡ミス。
周囲への確認を、一瞬だけ怠った。目の前の脅威に一瞬だけ本気で集中した。意識を割いた。
――その結果が、これか。
オートマタたちの掌から強大な光が迸る。
背に投げていたオートマタを地面に叩きつけ、回避に移るが――されど、右足をしかと掴まれ初動が遅れる。
そして……気がつけば視界が一転していた。
「はぁっ、はぁっ……おい、モブ顔! 貴様、私が動いてなければ死んでいたぞ……!」
「く、クロノスか……」
隣へと視線を向ければ、そこにはロウリィを抱えたクロノスの姿がある。
何が起きたかは理解出来ないが、この僅かな間で彼女の内包する魔力が馬鹿みたいに減っている。……恐らく『時間停止』をして僕とロウリィを回収したのだろう。今回ばかりは彼女に救われたみたいだ。
「悪い、しくじった」
「……なに、私もこれは予想していなかった。貴様との喧嘩に便乗し、奴らを『本気』にしない内に始末するつもりだったが……あのクソ親父、動くのが早すぎるだろう」
そう言って彼女は遠方を見る。
今気がついたが、この場所は街の中心部に近い路地裏のようだ。
彼女の視線の先には無数のオートマタ達が集っている一本の塔のが存在しており、その中から見知った気配を幾つか感じ取る。
恭香と白夜と……離れたところにギシルの気配も感じるな。十中八九ギシルは眷属本人かかその配下か、どっちかだろうから心配無いにしても。
「…………ふぅ」
大きく、息を吐き出した。
……本当に、嫌気がさす。
こんな現状を作り出した、自分自身に。
こんなにも自分が嫌になったことなんざ、最初の頃に油断しまくってバジリスクたちに屠られかけた時以来か。あるいは自分の無責任さが原因でアポロンを見殺しにしてしまった時以来か。
「……ほんっと、学ばないよな、僕は」
言いながら立ち上がり、塔へと向けて歩き出す。
「クロノス、ロウリィを預けていいか」
「……逃げ回るだけならば問題ないが」
そういう彼女に苦笑を返し、拳を握る。
爪が皮膚を食い破って血が溢れだし、拳に滴る。
ある程度強くなって、知らん間に慢心してた。
今の自分なら大抵の事はなんとか出来るだろう、今の自分なら大体の事件は乗り越えられるだろう。そんな馬鹿馬鹿しい全能感に浸かってた。
その果てに、仲間をピンチにした。
仲間のピンチに、駆けつけられずにいる。
「お前に頼むのは、最初で最後だ。彼女を頼む」
何を勘違いしてる。
僕は、まだ弱い。
強くなんて決してない。最強でもなんでもない。
魔力が無くなれば何にもできない。魔力に知らず知らずの内に頼って、頼り切りになって、いざ魔力が使えなくなればロボの一体にも勝てやしない。
そんな自分を、誇れるか。
答えは否だ。断じて否。
こんな自分を誇れやしない。
自分の為に死んだ人や、自分に負けて、自身の正義を折ったヤツらに。
今の自分を、誇る訳にはいかない。
「……発見、目標を排除する」
目の前に、オートマタが現れる。
背後のロウリィから小さな悲鳴が上がり、クロノスから魔力が溢れる。
『お兄しゃん! 魔力しゃんにわがまま許しちゃ、めっ、だよ!』
ふと、彼女がいつか言った言葉を思い出す。
……そうだよな。
魔力は魔力、どこまで行っても僕の一部。
僕の、支配下。
「我儘なんざ、許さない」
分からないことな無駄な思考を回すのは、柄じゃない。
考えるのは好きだが、わからないことを考えるのは好きじゃない。
だから、考えるのはもうやめだ。
ユラン・ロードが誰かなんて、分からない。
現状を打破できる切り札もない。奥の手もない。
なら、本気を出す以外に道は無い。
右腕へと魔力を流す。
途端に銀色の魔力が暴走を初め、魔力爆発を引き起こす。
肉が裂け、血潮が弾け、痛みが走り抜ける。
――けど、もう躊躇なんてしない。
「魔力が使えないなら、無理矢理にでも使えばいい」
生憎と、僕は不死だ。
滅多なことじゃ死ぬことは無い。滅びることは無い。
なら、この身が裂けて、血に塗れようとも。
魔力に……自分の支配下の力に我儘なんて許さない。
煙の上がる傷だらけの右腕を構え、僕は告げる。
「悪いが、こっから先は死力で行くぞ」
既に、顔から笑みは消えていた。




