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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第一席 魔国編
620/671

機―19 共闘

一か月間お待たせしました。


「――驚愕、理解不能。よって主へと問う。如何するべきや」


 壊れ、崩れ落ちる無数の尖塔。

 鼓膜を貫くような大きな轟音が周囲に響く。

 まだ、街にも人が住んでいたみたいだ。悲鳴と共に家の中から姿を現した人々が僕らの隣を駆け抜け、逃げ出してゆく。

 そんな光景を傍目に、僕は隣へと視線を向ける。


 風に揺れる、黒い髪。

 僕の知る奴とは異なり、その身を包むのは純白の軍服。

 黒い軍服姿の彼女を知っているからか、その姿はどこか違和感を覚えてしまう。

 ……いや、違和感を覚えたのは服装に、ではないか。


「どうした、名も知らぬ男」


 奴は僕へと一瞥もくれることなくそう問うた。

 僕が彼女に違和感を覚えたのは、その『在り方』にだ。

 僕の知る混沌――クロノスは、狂気に満ちた復讐者だ。

 黒い過去を抱え、無数の部下の死に彩られ、何が正しいか何が間違っているか、それを自分に問いかけながら必死に生きている――他でもない、僕の姉だ。

 しかしながら今のコイツは、どこか世界を純粋に捉えているというか――暗い事を何も見ていないというか……純粋に、知らないというか。


「……なんでもないさ」


 ふと、言おうかと思った。

 コイツがこれから辿る、未来って奴を。

 けれども言ったところで無駄だと思った。

 僕らは、未来を変えることなんて出来やしない。

 何をしたとしても、どんな行動を取ったにせよ、多分無意味なんだと思う。

 なにせ、既に未来において『この時代に居たギン』という概念は固定化されていた。それはあのおばあちゃん――ユラン・ロードが過去に僕と出会っていた、ということからも分かる。

 ならば、どんな奇異な行動を取ったにせよ、これから気まぐれで暴れたとしても、その末にあの未来があることには変わりない。


 ――つまり、この女にいくら忠告したとしても、きっと未来は変わらない。


 コイツが妻に裏切られ。

 絶望し、憎悪し、狂い、壊れて。

 その果てに、その肉体すら捨てて『負』の権化となる未来も、きっと変わらないのだろうと思う。

 だから、何も言わないことにした。


「ただ、ざまぁみろと思ってな」


 そもそもの問題、僕ってコイツと仲良いわけじゃないのだ。

 むしろ嫌い。生理的に受け付けない。

 顔面から性格から何から何まで超苦手。

 だから言わん。

 未来を知ってて、絶望するって知ってて嘲笑おう。

 ――ハッ、ざまぁみやがれ、と。

 そっちの方が僕らしいし……何よりクロノス。忠告したってお前の奥さんの性格は変わらないんだ。僕の知る未来での『裏切り』が無かったとしても、きっとソイツは別の未来でお前を裏切る。

 なら、さっさと裏切られて、さっさと絶望して、さっさとその女と別れた方がずっといい。


「なぁ、混沌」


 聞こえていないと知って、未来の奴に問う。

 今のアイツが僕の立場にいたら、どうするか。

 そう考えて、少し顔を顰めてしまう。

 なんとなく、今の僕と同じようなことしてるんじゃないかと想像がついて。


「……? 先程から理解が付かないが……まぁいい。おい名も知らぬ男。貴様、ある程度腕は立つんだろうな」

「誰に言ってる。現時点でも今のお前よりは強いわ」


 なーに到達者でもないやつが調子乗ってんだこら。

 そう言わんばかりに答え、拳を構える。

 視線の先には、無表情な瞳でこちらを見据える無数のオートマタ達の姿があり、彼らを前に僕は笑う。


「おいお前、何体いける?」

「おや、てっきり私が全部倒すのかと思っていたが」


 ふと、隣から笑みが漏れる。

 能力値的に、今の彼女じゃオートマタには適わない。

 純粋なステータスが違う。

 シンプルにスペックが違う。

 されど今の彼女からは、一切の焦りを感じない。

 それはつまり……まぁ、そういうことだろう。


 隣のクロノスが拳を構える。

 僕は右拳を、彼女は左拳を。

 背を合わせるようにして拳を構え、眼前のオートマタ達へと突き付ける。


 魔力を使えない魔法職と。

 力及ばぬ未来のラスボスと。

 急ごしらえにしても酷すぎるツーマンセル。

 眼前には超威力の破壊光線を保有したオートマタ、ざっと見ただけでも二十体以上。どころかまだ増え続けている。

 しかしまぁ、不思議と敗戦の予感はない。


「少しは役に立てよ、クロノス」

「こちらのセリフだ、吸血鬼」


 僕らは笑い、走り出す。



 ――さぁ、蹂躙の時間だ。




 ☆☆☆




 大きく息を吐き、目を細める。

 魔力は一切使えない。

 魔法も神器も使えなければ、月光眼も、ましてや月蝕(イクリプス)、シルズオーバーも召喚できない。

 つまるところ、やることなんて一つだけ。


「――素手で、すり潰す」


 ゴキリと指を鳴らし、一気に加速する。

 視線の先には一体のオートマタの姿がある。奴は自身へと迫り来る僕へと対処しようと手を伸ばす――が。


「欠伸が出るぞ、欠陥品」


 伸ばされた手を躱し、顔面へと手を伸ばす。

 掴んだ――にしては鈍く重い音が響き渡り、伸ばした僕の掌が奴の顔面に大きくめり込む。

 ――そして、思い切り握り潰す。


「がヒュゥ……ッ!?」


 声にならない悲鳴が溢れ、頭蓋を握り潰されたオートマタが力を失い倒れ伏す。


「――ッ!? こ、困惑……! 貴様! 以前戦った時よりも数段早……」

「馬鹿かお前ら。初っ端から本気晒して底見せる馬鹿がどこにいる」


 あの時は、他の『目』があった。

 他のオートマタに見られている、あるいはそのオートマタたちを通じて『誰か』が見ている可能性があったため、残念ながら手を抜く他なかった。

 だが、もうそんなのはいいだろう。


「恭香も来た。白夜もとっくの昔にこっちに来てる。なら、そろそろ幕引き間際だ」


 だから、こっから先は本気で行く。

 魔力こそ使えずとも。

 皆から貰った最高峰の肉体と、どこぞの元学園長(グレイス)から盗んだ『拳』を用いて、ただひたすらに潰しにかかる。


「さぁ、誰から壊されたい?」

「――ッ」


 笑う僕に、オートマタたちが後ずさる。

 そして――銀色の光が瞬いた。

 それは視認できるかどうかといったわずか一瞬。

 刹那の間に四方八方を銀色の光が軌跡を描き、気がつけばオートマタたちの体は大きなダメージを受けて吹き飛んでいた。


「……ふむ、硬いな。なるほど神霊王の眷属……の眷属と言ったところか。殴るこちらの拳が痛くなる」


 とか言いながら、普通に倒してるクロノス。

 今の僕でも反応できるか危うい超速度。

 白夜の持つ『クイック』や、アルファの持つ『超高加速』。あれと同類の『自身の時間を早める』系統の能力だろうが――文字通りに『格』が違う。

 未だ力をつかいこなせていない白夜はもちろん、その能力に長けたアルファですら適うかどうか……。

 少なくとも、こと『速度』に関していえばかなりヤバい。

 まぁもちろん、魔力使える状態の僕なら普通に見切った上で普通にワンパンですけども。


「白夜も参考にすりゃいいのに」


 呟くと同時に、再び立ち上がったオートマタたちが一斉に両腕を僕らへ向ける。


「主へと連絡――確認、この二名を脅威と認識。今すぐに全力をもって排除する」


 その言葉と同時に、高密度の魔力が荒れ狂う。

 それは奴らの両腕に集まってゆき、十を超える光線を前に、僕は首を傾げて疑問を呈す。


「……お前らはアレか。『主』とかに一回一回連絡しないと行動も出来ないのか?」

「雑魚だな」

「いや雑魚に失礼だろ」


 混沌の言葉に対し、爽やかに(鼻で)笑う。

 ぶちりとどこからか音が聞こえてきて前方へと視線を向けると、そこには憤怒に顔を歪めたオートマタたちの姿がある。

 へぇ、怒れるんじゃん。

 そんな感想を抱くと同時に――致死の光線が放たれる。

 どう対処したものか。

 そう考えていると、スっと僕の前へと割り込んできたクロノスが片手を掲げる。

 途端、虚空に無数の『穴』が広がってゆき、瞬く間に迫り来る光線を飲み込んでゆく。

 ブラックホール、かと一瞬思った。

 けれども次の瞬間、別の場所へと全く同じ『穴』が開き、その中から飲み込まれた光線が溢れ出す。

 それは光線を放ったオートマタ達の姿を瞬く間に飲み込んでゆき、その後に残ったのはドロドロに溶けた鉄くずだけ。


 ――一言、強い。


 時空神の名の通り、ありとあらゆる『時』と『空間』を手足のように操り、支配し、自分に足りないステータスを完全に補っている。到達者でこそないが、その実力はまず間違いなく久瀬やギルと同等……下手すればそれ以上もありえる。

 の、だが。



「おいこらちょっと待て」



 華麗なるブリッジを決めながら、思わず言った。

 先程、なんか「私に任せとけ」みたいな雰囲気しながら僕の前に出て、なんが凄い魔法で光線を反射し始めたから「あっ、僕のこと守ってくれるのね」とか思ってたんだけど――


「ねぇクロノス? 僕にあたる一撃だけワープさせなかったのってなんで? なんでよりによって僕にクリーンヒットする一撃だけスルーした?」


 なんだろう、悪意を感じる。

 見れば彼女の横顔は喜色に歪んでおり、振り返った彼女は満面の笑みでこう言った。


「ああ悪い、私って弱いからなー。光線全てをワープさせるのは無理だったようだ」


 ……へぇ、あぁそう?

 お前、そういうことするんだ。

 いいよいいよ。

 うん、別にいいって問題ない。

 そっちがそういうつもりならこっちにだって考えはあるし。

 僕は青筋浮かべながら満面の笑みで返すと、こちらへと襲いかかって来たオートマタへと手を伸ばす。


「はいちょっと顔面借りますよ」

「がはぁ……っ!? き、貴様! 何故一瞥することも無く当機の顔面をアイアンク――」


 握りしめた顔面から、バキリと音が鳴る。

 オートマタから悲鳴が響き、いつの間にか前方へと視線を戻していたクロノスが感心したような声を漏らす。

 そして僕は、そんな彼女に向かって――


「ほう、先程から見ていれば、貴様それなりに腕が立つようだな。と言っても私ほどではなぶはぁっ!?」

「でええぇぇええええいっ!」


 思いっきりオートマタをぶん投げた。

 顔面クラッシュしたオートマタは見事クロノスの背中にクリーンヒットし、オートマタの直撃を受けたクロノスは無様な悲鳴をあげてゴロゴロと転がっていく。

 そして、その姿を見て嘲笑する僕。


「あーっ、ごっめーん! 手が滑ったァ〜」


 多分、今ものすごくイラッとくる顔してる。

 そんな自覚があった。

 現に、よろよろと立ち上がったクロノスはどす黒い憎悪を身体中から迸らせており、その姿に思わず笑う。もちろん鼻でだが。


「おいおいどうした時空神様ぁ? あれっぽっちの光線も防御しきれない上に、ドヤ顔セリフの途中で『なぶはぁっ!?』とか無様な悲鳴あげてた時空神様ァ?」

「…………貴様、どうやらオートマタに先んじて滅びたいらしいな」

「あん? やんのかコラおい。いいぞかかってこいオラ。今ちょうど一勝二敗だからこれでチャラにしてやんよ」


 シュッシュッとシャドーボクシングを始める僕。

 対してクロノスの体からはどす黒いオーラが溢れ始めており、もしかして混沌に覚醒するんじゃないかと思えるほどの憎悪に口角を吊り上げる。


 ええ、もちろん分かってましたとも。

 こいつと共闘? できっこないよそんなもん。

 十中八九途中で喧嘩になるのが目に見えてる。

 イフリートの時は奇跡だったね。

 珍しくイフリートさんが『ポット出テキタ我最強ナリ』みたいなオーラだしてたから、奇跡的に僕らの敵意が全部彼に向かった。その結果の共闘だ。

 が、これは違う。

 だってオートマタ、あんまり強くないし。

 というか弱い。

 ステータスと破壊力だけギルレベル。あとは防御力も速度も厄介さも何もかもが雑魚。てんで話にならない。


「こ、困惑……! き、貴様ら先程から何をやっている! 我らとの戦闘の最中に余所見など……我らを創りし主への冒涜! 万死に値すると知――ひぃっ!?」


 オートマタの声が響くが、悲鳴に変わる。

 途中で割って入られたことで僕とクロノスの視線がオートマタの方へと向かっており、僕らの放つびっくりするくらいの殺意に奴の身体が竦み上がる。


「おう、安心しとけオートマタ。この馬鹿潰したら次お前だ」

「そうかっかするな木偶の坊。この忌々しい吸血鬼を干物にした後でいくらでも相手をしてやる。だから今は疾く失せろ。普通に邪魔だ」


 僕らの声が続いて響き、オートマタは押し黙る。

 まぁね、こんな所で姉弟喧嘩とか、正直いって大人気ないとは思いますよ? 恭香とかにバレたらまず間違いなく怒られるレベルの大人気なさだと思う。

 ……でも、しょうがないじゃない。

 コイツ、なんか無性に腹立つんですもん。


「吸血鬼を干物に……? おいおいずいぶんオシャレな言い回しじゃねぇか。センスの欠片も感じなくて失笑するぜ」


 僕は拳を開き、顎を突き出し笑みを浮かべる。

 ――圧倒的、挑発。

 クロノスの額に青筋が浮かぶ。


「ほう、まさか今の言葉が洒落だとでも思ったか? これだから顔面……じゃなかった。頭の悪い男は嫌いなんだ」


 奴は僕の顔面から視線を逸らし、鼻で笑う。

 ――圧倒的、侮蔑。

 僕の額に、青筋が浮かぶ。


「お? やんのかオイこら」

「は? 潰すぞお前オイこら」


 ガンのくれ合いが勃発する。

 まるでその姿は喧嘩するヤンキー。

 だが、その雰囲気はあまりにも殺伐とし過ぎており、限界を知ることなく登っていく緊張感と威圧感が周囲一帯を占め付ける。

 そして――。


「き、貴様らあアアアアアア! いい加減にせんか! それ以上我らを侮辱しようものならば、我が主の名にかけて――」


 響くのは、邪魔な声。

 その途中で声の方向へと視線を向けた僕らは、今もなお話し続けてるそのオートマタへと、たった一言。



「「……あ?」」



 オートマタは黙った。

 その瞳には、何故か涙が浮かんでた。



ヒロインピンチなのに何やってんのこの子たち。

ということで次回『神の王』

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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