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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第一席 魔国編
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機―15 現実

お久しぶりです。

地震に停電に台風と、何だか北海道が心配になってきますが、今日も今日とてその北海道から配信します。

 暗転した視界が回復する。

 そんでもって恭香は確信した――あ、これ結構真面目にやばいヤツじゃん、と。

 眼前に広がるのは彼方まで広がる果てなき蒼穹。

 簡潔にいえば『空』。

 もうちょい詳しくいえば『天空およそ三千メートルくらい』に、彼女はいた。


「って、いやああああああああああああ!?」


 絶叫が轟く。

 彼女の体は眼下の大陸めがけて自然落下を始め、その意識を断ち切らんとばかりに風の塊が彼女の体を打ち付ける。


「な、なんなのこれ!? な、なんで過去に戻ったら天空の彼方!? ちょ、だ、誰か、た、助け――」

「――推測、何か用?」

「て…………って、あれっ?」


 誰がいるわけでもない空に助けを求め――そして、真横から返ってきた返答に、彼女は思わず目を丸くした。

 驚いて振り返れば、目の前数センチのところに金色の瞳。

 引き攣った悲鳴を漏らして身を引くと、そこには頭から真っ逆さまに自然落下中の見知った赤髪幼女――ギシルの姿がある。

 その光景に思わず口をぱくぱくと開閉させる恭香。対し、ギシルは眼前の光景を再度確認し、眼下を見下ろし、改めて恭香へと視線を向ける。

 その姿には一切の焦りや緊張は含まれておらず、そう言えば今のこの子はあのギンより強いんだったと、思わず安堵の息を吐いた恭香は――



「……遺言、もっと世界を見て回りたかった」



「ちょっと!? なんでそんな無表情で生存諦めてるの!?」


 思いもしなかった言葉に思わず叫ぶ。

 よくよく見れば彼女の頬には僅かな冷や汗が滲んでおり。


「……確信、私は強い。けど、流石にこの高度から唐突に自然落下するような非常事態は想定して造られてない。故に結論、共に死のう」

「い、いいい、いや嘘だよね!? 何かあるでしょ、ほら何か背中から機械の翼だして羽ばたいたりだとか!」

「即答、そんなご都合主義言われても」


 こんな時に実感する、このギシルが一瞬で死を確信するような状態から普通に『え、いやこれ普通じゃないんですか?』みたいな顔して帰還しかねない知人の化物たちの異常性。

 しかも全員が全員、未だ『発展途上』という恐ろしさ。

 一言で表すならば――【ご都合主義の権化】だろうか。

 果たして次に会う時、あの面々がどういった【糞チート】に変貌しているのか。ほんのり楽しみに思うと同時に、その中でも一際糞チートな男の気配を感じ、恭香は勢いよく眼下の大陸へと視線を向ける。

 そこには今と変わらぬ菱形の大陸が広がっており、その北部の大半を占めるような巨大な都市の姿を視認し、彼女の脳髄に無数の情報がなだれ込む。


 ――古代王国。

 ――初代魔王。

 ――最悪の時代。

 ――神霊王の眷属。


 ――そして、【機界王】。


「……ッ! こ、この世界――」


 ほ、本格的にマズイ所じゃないの!

 そう叫ぼうとして、それより先に口を開いたギシルの声が耳を打つ。


「……無念。ただ、本当に」


 その言葉に、どうしようもない違和感を覚える。

 明確な『脅威』であり『敵』がいなくなったせいか、最近はギンも思考を隠蔽することがなくなってきた。

 だからこそ、恭香は彼の懸念する『可能性』を知っていた。知った上で、その可能性が十分に有り得ると納得していた。

 だからこそ、思わず頬を引き攣らせて――



「発見、我らが【ORIGIN】に神々の神器が一つ。各機及びマスターへ通達……完了。これより我らが主の意思を告ぐ」



 響いた声に、二人の体が硬直する。

 されどその硬直は一瞬。すぐさま振り返った二人の目に映ったのは、膨大な熱量を孕んだ右腕を恭香へと向け、金の髪を風に揺らす一体のオートマタ。

 彼は機械の翼をはためかせ、その無機物のような赤い瞳に冷酷な暗い光を煌めかせる。



「『コア以外は不要』。結論――排除する」



 超高熱の光線が恭香の視界に溢れる。

 その刹那、咄嗟にギシルが放った光線がオートマタの光線と激突し――巨大な爆風と閃光が彼女らを包み込んだ。




 ☆☆☆




「ほ、ホントなのかいそれは!」


 ドリーの困惑したような声が響く。

 見れば彼女は身体中から組み上げた魔力を目の前の空間へと集め、凝縮しており、その後ろ姿を見つめながら僕は拳を握りしめる。

 こっちに来てから繋がっていなかったパスが急に繋がった感覚。どういう理由か彼女から念話は送られてきていないが、いずれにせよ『恭香がこの世界に来た』って事実だけは間違いない。

 肯定の代わりに『早く頼む』とばかりに視線で答えると、その視線を察してか彼女は大きく息を吐く。


「……分かったよ。消耗激しいからあんまり多用したくはないんだが……そこまで言われちゃしょうがないね……ッ!」


 かくして彼女は合掌する。

 体の底から叩きつけるような膨大な魔力が溢れ出し、彼女の眼前へと大きな『門』をこじ開ける。



「発動!【転移門(ワープゲート)】!」



 彼女の声が大きく響き、身に覚えのあるその能力に思わず目を見開いてしまった。

 目の前には――形状こそ僕の使用する『時空の歪み』とは異なる『扉型』ではあれど、まず間違いなく空間と空間をつなぐ時空の門が生み出されており、その異様な光景に思わず頬が引きつってしまう。

 空間系の魔法系統にて恐らく最上位に位置する高位魔法。それこそが【転移門(ワープゲート)】という魔法である。

 なにせ月光眼と相性がよかった僕が、四年近くにわたって常時発動という荒業をし続け、その末に初めて使用することが許された能力である。

 ……といっても、月光眼は他の二つの魔眼に比べると些か見劣りしてしまう分、まだ【先】があるのではないかと邪推してしまう僕だけれど。


「……白夜でも、使えないんだがな。それ」


 到達者ですら使用不可能な高位呪文。

 それを時間こそかかれど、無詠唱で発動して見せたその手腕。なるほど魔法の王様、その祖先といわれても納得してしまうほどである。

 しかしながら、月光眼のような特殊な媒体を一切持たずにかの魔法を発動するのはかなりの負担がかかるのか、彼女は息を荒らげて膝を付いており――


「はぁ、はぁっ、い、行くなら早くしておくれよ……っ。ほ、本来なら一ヶ月以上貯めなきゃ行けない魔法だから……たぶん、今回は送り込めたとしてもアンタだけだからね」


 そう儚く笑う彼女の姿から余裕は一切窺えない。

 額から滲み出した冷や汗が頬を伝って滴り落ちてゆき――直後、どこからか巨大な爆音が響き渡った。

 ミシミシと岩の天井が悲鳴を上げ、小さな埃を落としてくる中、僕もまた思わず冷や汗を流す。


「――なるほど、念話する余裕もないわけだ」


 言いながら、僕は前へと歩き出す。

 眼前には煌めく魔力の扉が存在しており、その前に立ち、背後のドリーへと振り返る。

 すると彼女は苦々しくも乾いた笑みを浮かべており、そのなんとも言えない表情に少し笑ってしまう。


「……ま、言いたいことは分かるよ」


 大方、協力関係を結んでおいて、結局動かなきゃいけない時に動けない自分たちの無力さが云々――って感じだろう。

 僕の言葉に彼女は力なく笑むと、汗で額に張り付いた前髪を軽く整えた。


「……正直な話を言っちまうとさ。今のアンタが出てったところであの大軍に勝てるだなんて思えない。気分的には自殺に赴く大バカ野郎を送り出す気分だし、これが最後かもしれないから言っとくよ」


 そう告げる彼女はしかと僕の瞳を覗き込む。

 その魔族特有の紫色の瞳にはしっかりとした覚悟の光が灯っており――


「もしも普通に死んだら笑ってやるさ。でもね、もしもアンタが私たちの世界を救ってくれるんだとしたら。その時はどれだけかかったとしても、絶対に恩は返す。たとえ幾千年と経ったとしても、ね」


 幾千年……ねぇ。

 まぁ、幾千年どころじゃ足りないとは思うけれど、それでもなんかくれるって言うなら貰っとこう。


「了解した。んじゃ、あんたらの世界を救う報酬は、次に会ったその時にでも」


 そう笑い、僕は前方へと振り返る。

 ――はてさて。

 もうちょいゆったりと、それこそ未来の『ユラン・ロード』を見つけるまではこの街に滞在したかった訳だけれど、そうそう現実がうまく動くとは限らない。

 だからこそ、僕があの大軍を前に恭香を取り戻せるのかと聞かれれば首を傾げたくもなるけれど、逆に言えば『取り返せない』だなんて断定もできない。なればこそ。



「さて、ちょいと世界でも救ってきますか」



 何事も、やってできないことは無い。

 そう、僕は前方の転移門へと目を向けて――








「あー、なにこのへんなのー! なんかへんなかんじー、どっかに繋がってたりするのか――」



 ぷひゅんっ!

 そんな効果音とともに、セリフの途中で転移門の向こう側へと姿を消した見覚えのある幼女――ロウリィと。

 同時に跡形もなく消え去ってしまった転移門を見つめながら、僕はしみじみこう思う。



「……現実って、ほんと上手くいかないな」



 ……さて、真面目にどうしよう。



ロウリィぃぃぃぃぃぃ!

ということで、ギン出陣ならず!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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