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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第一席 魔国編
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機―13 面影

「……おや」


 ふと、声が漏れた。

 その声に彼の周囲にいた数人が振り向くが、けれどもその男はそれらの視線を傍目に遠く――幾千幾万里と離れたその場所へと視線を投げる。


「……ねぇクロノス、この世界に『影』の神様なんていたっけ?」

「……さぁな。少なくとも私の記憶にはないが」


 そう答える息子の言葉にふむと頷き、彼は再度その気配を確認する。

 神と呼ぶにはあまりにも弱々しく、下手をすれば一般人よりも劣っているのではないかと、そう思えるほどの薄らとした小さな気配。

 おそらく並の神であってもその気配を前にはまんまと騙され、その『本質』を見逃してしまうだろう。はたしてその『隠蔽』を見破れる存在がどれだけいるか……。

 と、そこまで考えて彼は笑う。


「いやはや、僕じゃないと相手にもならなさそうだ」


 少なくとも、自分以外にその存在に勝てる神は居なさそうだ。

 それこそエロース、タルタロスでも話にならない。今隣に立っているクロノスでも……まぁ、多分勝てない。

 それほどまでに異質な気配。

 それを前にふと、もしや『眷属』なのかとも思ったけれど、すぐにその気配がどこにいるのかを察して頭を振った。

 眷属は滅多な事じゃつるまない。

 だから、きっと違う。

 眷属でも、悪魔でも、ましてや人間でもない。

 他でもない、自分と同じ『神』の気配。


「うーん……、いきなりこのレベルの気配が産み落とされるとか無神世界もいいところだし。だとしたらあれかな、あの……なんだっけ、なんかあったよねそんな禁呪」

「あ! なんかそんなのあった気もしないでもなくもないよ! ……で、なんだっけタルタロス?」

「――大禁呪『時間遡行』」


 エロースやタルタロスが彼の言葉にそう返し、その言葉に彼は納得がいったように手を叩く。


「あぁ、それだよそれ! うんうん間違いないね、多分ものすごーく遠い未来からの来訪者。それも超ド級の化物ときた」


 これはちょっと楽しくなってきたね。

 そう笑い、彼は背後へと視線を向ける。


 ――かくして、そこに広がっていたのは地獄絵図。


 大地に倒れ伏す巨大な鬼。

 腹を斬り裂かれ、腕を失い、頭部も何割かが破裂し、既に原型を留めていない。

 その鬼の周囲には大地を埋め尽くすようにして無数の鬼たちの姿が広がっていたが、それら全てはとっくに命を散らし、鮮血の沼へと沈んでいる。

 むせ返るような鉄のニオイ。

 死臭と、そう呼んでも相違ない程の馬鹿げた血のニオイの中、倒れ伏していた巨大な鬼が立ち上がる。


「おや、まだ生きていたのかい」

『……き、きさ、ま……ッ、一体、何者だ! そ、の力ッ、明らかに一個人の保有していいソレではないッ! 明らかに我らが主に匹敵する――』


 と、そこまで言って鬼は気がつく。

 いつの間にか自らへと向けられていた男の掌。そこに自身をもはるかに上回る馬鹿げた魔力が宿っていることに。



「――禁呪『地縛獄鎖』」



 途端、鬼の体を周囲から召喚された無数の黒い鎖が雁字搦めに縛り付け、その場に確と封印する。

 その封印術に一瞬その鬼は目を見開いたが、すぐさま『舐めるな』と言わんばかりに体に力を入れ、その鎖を思い切り引きちぎってゆく。

 禁呪を己が肉体一つで引きちぎる。

 その異常さに小さく嘆息したその男――神王ウラノスは。



「今、なんだか面白くなりそうな所なんだ。これ以上面倒くさそうなことになるなら――君、本気で封印するからね」



 文句なんて言わないでよ、と。

 そう笑って、彼はその鬼を――悪鬼羅刹を封印した。


 この時、この瞬間。

 多少手間取ったとしても『殺す』ではなく『封印する』ことを選んだ事が、遠い未来において厄介事を巻き起こすのだが、それはまた別の話。


「さて、それじゃあちょっと、影神とやらのご尊顔でも拝見しに行くとしようかね」


 かくして彼は歩き出す。

 目指す先は人界――古代王国。

 時空神クロノス、獄神タルタロス、寵愛神エロース。

 加えて、全盛期真っ盛りの神王ウラノス。


 古代王国に、この時代の最高戦力が集おうとしていた。




 ☆☆☆




「へぶしっ!」


 くしゃみが出た。

 久し振りに風邪でも引いたかと首を傾げていると、目の前に座っていたドリーがわざとらしい咳払いをしたのを聞いて前方へと視線を向け直す。


「で、そろそろいいかい? お互い介入しない、必要以上に首を突っ込まないって条件だったわけだけど、最低限アタシらの現状と、目的を改めて確認しなきゃ何も始まんなさそうだしさ。んで、アンタの魔力云々に関してはもうちょい後かね」


 もちろん異論はない。

 だって魔力が使えなくなるとかこんな超常現象、簡単に解決策が見つかるはずがないのだから。

 そう思いながら首肯で返すと、彼女は大きく息を吐き出して語りだす。


「まず最初にもいったけれど、アタシたちは『影の民』。表を跋扈する機械共に追いやられ、反発し、そんでもって街の中にはいられなくなった異端者の集まりさ」


 いつかも聞いたその事実。

 あの無駄にイケメンなオートマタに気を取られていてあまり注目していなかったが、よくよく思い出してみれば街中には確かに人々の姿があった。が、しかし。


「……その『表』ってのも見てきたけど、随分とお通夜ムードてんこ盛りだったぞ」

「……その『オツヤ』っていうのが何かは知らないけど、その気になればこっちのことをあっという間に殺せちまう化け物とおんなじ所に住んでて、気が休まるわけねえって話さ」


 その言葉に顎に手を添え小さく呻く。

 確かに、その相手が人間だったとしても恐ろしい。だって街中に僕と同等の身体能力を持った一般人が溢れかえってるようなもんだろ? そんな街、僕はおおよそ二つくらいしか知りはしない。


「……ってことは」

「ご想像の通り、アタシらの目的はソコにある」


 僕の言葉にドリーが凄惨な笑みを浮かべる。


「アタシらの目的は単純明快、上を……『表』を、あの化け物共から取り返すッ! そんでもって、誰でも自由に生きられる、そんな国を作り上げる事さ!」


 その言葉に乗じて近くの椅子に座っていたロウリィが「おー!」と握りこぶしを突き上げる。何この子可愛い。

 見ればドリーもまたロウリィを見て少し頬を緩めており、けれども僕の視線を感じたかすぐに咳払いをして本題に戻る。


「以上がアタシらの作戦さ。……アンタは、作戦とも呼べねえ無謀だっていうかい?」


 そりゃあ言いたい、すっごく言いたい。

 だってアレ単体がギルクラスだよ。機械だからちょいといじれば壊れる分こっちの方が幾分か弱いのは間違いないが、それでも純粋な戦闘能力は奴に比肩する。

 そんな軍勢を相手に、街を取り戻すと来た。

 そりゃあ難しいですよ、そう僕は素直に思うが――


「もちろんあるんだろ? 裏技ってやつ」


 その言葉に、彼女はここに来て初めて楽し気に笑って見せた。


「――正解。あの大群に真正面きって戦おうとする馬鹿だったらどうしようかと思ってた」


 すいませんね、先に来てたウチの仲間がその馬鹿で。

 そんなことを思いながら視線で彼女に先を促すと、彼女は懐から一枚の地図を取り出した。


「簡潔に言うと作戦はこうだ、『大将首を最優先に』」


 その言葉を聞きながら、僕はその地図へと視線を落とす。

 そこにはおそらく『表』の街だろう。その街の中に広がった無数の隠し通路、そして裏道が事細かに記されており、それらを頭に叩き込む僕を前に彼女はその事実を口にする。


「――三年前。そう、三年前さ。あの機械共を作り上げる『技術者』がこの街に来た。体の半分以上が機械で出来たからよぉーく覚えてる。そしてそいつが『街のために』とかいってあのボンクラどもを作り出したところから全てが始まった。なら――」

「そのボンクラを治すも壊すも生み出すも、そいつを押さえればすべてが止まる」


 あれだけ高位のオートマタだ。

 それ相応の『メンテナンス』無しでは長時間の稼働は不可能だろうし、加えて何の動力もなしにあれだけの戦闘能力を誇っているわけでもないだろう。

 つまるところ、彼女はそれらを担う彼らのボス――表に存在する『王』をひっ捕らえ、オートマタたちをエネルギー切れ、言い換えれば『餓死』へと持っていこうというわけだ。


「……知能が高いオートマタだ。下手すれば自分たちで何とかする可能性も――」

「無きにしも非ずだね。でも、いくら頭が良くったって同じ個体を生産するなんてのは不可能さ。今もなお、刻一刻と増え続けているオートマタの生産はまず間違いなく停止する」


 ――つまり、『終わりが見える』ということ。

 そう笑った彼女を前に、僕は苦笑交じりに確信を覚える。

 この地図――というより隠し通路を作り上げ、全てを把握し、民を導くその姿。

 たった一手で全てをひっくり返せるだけの作戦を練り上げ、実際に僕が居れば殲滅も不可能ではないと思えるほどの実現性を提示して見せたその頭脳。

 まず、間違いない。


 ――この人には、あの魔王さんと同じ血が流れている。


 そう苦笑する僕を、きょとんとロウリィが見つめていた。


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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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