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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第一席 魔国編
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機―09 ユラン・ロード

今月二話目です。

「魔国の歴史って、知ってるかしら」


 そう口にした彼女の言葉に、僕は素直に「微塵も知らないですけど」と答えた。途端、彼女からの好感度が物凄く下がったのが分かった。


「……チッ」

「……あの、今舌打ちしませんでした?」

「は? 言いがかりは良してくれないかしら。気持ち悪いわよ、主に顔が」


 おい顔関係ねぇだろこの野郎。

 そう言いかけて、でもやめた。

 大きく息を吐いて彼女へと真面目な視線を向けると、彼女もまたふざけるのを止めにしたか、小さく吐息を漏らして口を開いた。


「古代王国……のことは、後ろの恭香ちゃんから聞いてるわよね。まぁ、一言で表すなら、ここ魔国はかつてこの地にあった『古代王国』の名残りみたいなものなのよ」


 そのいきなりの重大発言に(おそらく何も知らなかったのだろう)先程までの空気と化していた周囲の魔族たちが大きくざわめき出したのが分かった。

 しかしながらそんなざわめきも魔王さんの睨み一つで消えてしまい、再び静まり返った謁見の間で、魔王さんは淡々とその事実を口にしていく。


「――古代王国。魔法技術の生みの親にして、薬術、医術、錬金術に、果ては科学技術すら生み出し、使いこなして見せたとされる万能にして絶対にして、最大最古の超巨大都市。貴方も知ってのとおり、件の【眷属】に加え、全盛期の神王ウラノス、時空神クロノス、獄神タルタロスと……、正直全力の貴方ですら下手を打てば死にかねない化物たちが闊歩してた時代。その時代において、一切滅びることなく存続し続けた、歴史上最も長く繁栄した最強の都市。それが【古代王国】」


 全盛期の父さん……ね。

 今ここにいたって初めてわかるその言葉の常軌を逸する非常識さに思わず頬が大きく引き攣り、そんな『非常識』が我が物顔でそこら中を練り歩いていたその時代、その馬鹿げた異常さに思わず乾いた笑みが溢れた。


「……つまり、その時代なら分かったかもしれない、ってことですか?」

「ま、端的にいえばそうね。詳しくは伝わっていないけれど、名前も顔も容姿も種族も、なにも伝わっていない古代王国の初代国王――つまるところ創始者。その本人か、あるいはその初代の継承者、私の御先祖様である二代目国王にして魔国の創始者――『ユラン・ロード』なら、その症状も治せるのかも知れないわ」


 なにせ、あの時代の技術力と情報は、多分現代の魔国の比ではないもの、と。

 そう、どこか諦念にも似た感情を滲ませ、大きくため息を漏らした彼女。

 けれどもその言葉は言い換えれば『現代』では無理、と言っているようなもので、その残酷な事実に思わずため息を吐いた僕は――



「それじゃ、ユラン様に会ってみましょうか。多分今頃、魔王城の別棟でお昼寝してる頃だと思うわ」



「……はっ?」


 ……えっ、ユラン様生きてるの?

 思わずそう声を上げた僕を、一体誰が責められようか。

 そう、心の中で呟いた僕へ、魔王さんはしてやったとばかりに口の端を吊り上げ、ハンッと鼻で笑って見せた。




 ☆☆☆




 ――とまぁ。

 そういう訳で、現在位置、魔王城の別棟。

 彼女は執務があるために魔王城の本館からは離れることは出来ないらしく、僕ら一同は、その古代王国時代からの唯一の生き残りとされる二代目国王にして、魔国設立の創始者とされる一人の魔族――ユラン・ロードへと会うべくして別棟へと向かったわけだ。


「ギン=クラッシュベル様、この先にて初代魔王――ユラン・ロード様がお待ちです。……ご老体ゆえあまり無茶もできませんので、どうぞご配慮のことお願いします」


 ここまで案内してくれた侍女さんがそう口にして、僕は頷きながらも恭香へとアイコンタクトを送る。

 まぁ、その旨は概ね――


『頼む、白夜を入れたら絶対うるさくなるから、ここでなんとか押しとどめておいてくれ』


 と言った感じになっており、僕の心の声に乾いた笑みを浮かべた恭香は白夜の耳へと口元を寄せる。

 そしてゴニョゴニョと、果たして何を言ったのかは不明だが、ビクンッと大きく体を震わせた白夜を見て『これは大丈夫だろ』と察した僕は、反対側のギシルへと視線を向ける。


「ギシル、ここからは僕一人で行く。お前は白夜が変な事したり、奇行や奇声を撒き散らしたり、変態的な行為に走ったりしないように見張っててくれ」

「了承、たしかにこの場に変態パンツ師匠放つのは愚行中の愚行。結論、彼女をしかと見張る任務、見事完遂してみせる」


 そう言って敬礼してみせるギシル。

 その姿に少し微笑ましくなって頬を緩めた僕は、侍女さんに一礼してその扉を開け放つ。

 西洋風の魔王城において珍しい、横引きの扉。

 その扉を開けた先には、どこかこじんまりとした小さな空間が広がっており、その中心――布団の上で上体を起こしてこちらを見据える彼女と視線が交差し、僕は微笑んだ。


「初めまして、ユラン・ロード。少し聞きたいことがあってここに来ました、ギン=クラッシュベルって言います」


 そこに居たのは、一人の老婆だった。

 かつて金色の色を放っていたであろう肩まで伸びるその髪は白く色褪せ、魔族特有の紫根の瞳は、どこか焦点があっていないようにも思えるが、それでもしっかりと僕の方へと向いている。

 ――なるほど、この人が初代魔王か。

 そう、心の中で呟いた僕は――次の瞬間。



「……おお、久しぶりじゃのぉ、お兄ちゃん」



「…………はい?」


 その言葉に、完全に硬直した。

 ……久しぶり、だって?

 いや何言ってんのこのおばあちゃん。明らかに僕らって初対面ですよね。流石の僕もこんな重要そうな人物、一目見たらまず忘れないと思うんですけど。

 そう思いながら頬を引き攣らせていると、ぱんぱんと自らの隣を叩いた彼女――ユラン・ロードは、口元を緩めて口を開いた。のだが。


「……はて、いったい何年ぶりじゃろうのぅ? 万年か、億年か、兆年か。はたまたそれ以上か……、ずっと昔にあった気がしたんじゃが……はて、何じゃったっけ? よう覚えとらんの……」


 確信した、これはただの『ボケ』である。

 どこでこんな人と会ったっけ、と内心考えていた僕は大きく息を吐いて彼女の隣へと歩いてゆくと、腰を下ろして彼女の瞳をのぞき込む。


「ユランさん、僕らは初対面ですよー? 初めましてです。初めまして」

「そうかのぉ……? いや、違うぞお兄ちゃん。きっとどこかで会っておる。そのどことなくイケてなくもないように見えて、よく見たらまったくイケてない顔面偏差値。むかーし……それこそ、ここがまだ古代王国だったころに見た覚えがあるからのぉ」

「はっはー、それ明らかに別人ですね」


 おばあちゃん相手に怒るわけにもいかず、なんとか頬を引き攣らせながらもそう返した僕は、同時に『古代王国だったころに』という言葉に確信を深めた。だって僕、その時代まだ生まれてすら居ないんですもの。

 そう彼女へと話しかける僕だったけれど、けれども彼女は全く話を聞こうともしない。


「懐かしいのぉ……、覚えておるかや、お兄ちゃん。わしがまだロリっ子だった時期、ワシの前にふらっと現れたお兄ちゃんがの。たしか自信満々にこう言ったんじゃ。『いいかいお嬢ちゃん、イケメンなんてのは決まって心の奥底真っ黒黒だから、将来は僕みたいなそこそこイケメンな奴と結婚――』」

「おいおい、なんだその僕が言ったみたいなセリフは」


 なんかVRゲームの世界でシロに似たような事言った覚えがあるんですけど。

 ……にしても、なんだかその『お兄ちゃん』って人物、聞けば聞くほど僕に瓜二つだな……、もしや前世の僕だったりするのか?

 そう、一人考えていた僕は――はたと、そういえば最初の要件を忘れていることに気がついた。


「あ、そういえばユランさん。ユランさんに聞きたいことがあって来たんだけど……」

「……ぬぉ? ご飯はまだじゃったかの、お兄ちゃん。良かったら今からワシと一緒にどうじゃな?」

「……いやいや、おばあちゃん? ご飯はまだだけど、それより先に聞きたいことが――」

「ほぅほぅ……そりゃ良かった。ほれ侍女さんや、ワシとお兄ちゃんの昼飯……晩飯じゃったかの? まぁよい、朝ごはん持ってきておくれぇー」


 ……ダメだこのおばあちゃん。全く話通じねぇ。

 さっきから『お兄ちゃん』と『ごはん』の話しかしてないことに気がついてそう頭を抱えた僕ではあったが――はたと、頭を抱えた僕の手に、ユランさんの手が重ねられたのを感じて顔を上げた。



「……お兄ちゃん。いつか、また会えた時に言おうとおもっとったんじゃがのぉ。……あの時は、ありがとのぉ?」



 その言葉に、僕は思わず苦笑う。

 まず間違いなく僕ではない、それでいて僕自身なんじゃないかと思えるほどに僕と瓜二つな『誰か』へと向けられたその言葉。

 そしておそらく、その人物には決して届かないであろう、少し悲しい彼女の言葉。

 それを前に、一体どうしたものかと頬をかき――


「――ッ!?」


 ――次の瞬間、()()()()()()溢れ出した膨大な魔力を感じ、大きく背後を振り返る。


「ちょ、な、何やってんの……っ!?」


 廊下――つまるところ、恭香とギシルに白夜を預けていた場所から吹き荒れた大きな魔力の奔流に、『おい白夜こんな場所で今度は何してやがる!』と、今にでも叫ばんと立ち上がり、大きく扉を開いた僕は――




「………………あれっ?」



 ――ぬるり、と。

 まるでぬるま湯の中に入ったような感覚を覚え、思わず足元へと視線を向けた。

 するとそこには、廊下に出ることで入り込んでしまった真っ赤な結界が広がっており、その結界が内包する異様な魔力量に目を見張った僕は顔を上げて――限界まで目を見開いた。


「ぎ、ギシル……ッ!?」


 そこに居たのは苦しげに頭を抱え、体の内から結界を迸らせるギシルの姿があり、結界から溢れ出した光が徐々に視界を埋め尽くしてゆく。

 ――これは、やばい。

 本能の叫び声に、咄嗟に結界から脱出するべく外へと手を伸ばす。けれどもバチリと壁に弾かれ、大きく歯を食いしばった僕は白夜へと声を上げる。


「白夜……ッ!」

「む、むむ無理なのじゃ! なんじゃこの結界! 全快時の妾でも壊せるかわからない魔力量――というか主様、さっき何も知らないくせに妾のこと怒ろうとしてなかったかの?」

「い、今それどころじゃないでしょうが!」


 話を逸らすべくそう叫ぶ。

 けれども現状が逆転することなど決して無く、結界に魔力が行き渡り、大きく光り輝いたのが視界に移り込む。

 結界に張り付き破壊しようと足掻く白夜。

 異様な状況に思わず立ち尽くす僕。

 結界の中心で頭を抱えて蹲るギシル。

 その中で、蹲ったギシルの背に手を伸ばした恭香が愕然と声を漏らし――



「こ、この術式――禁呪【()()()()】……ッ!?」



 その言葉に目を見開くと同時。

 ブツンッ、と僕の意識は暗転した。



次回『古代王国』。

さて、この章もやっと動き始めます。

次は七月半ば、時期は不明!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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