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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
いずれ最強へと至る道
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終章―01 終局へ向けて

最終章開幕!

最近『続けて』との感想が多く、悩み始めてる作者ですが、とりあえず締めに入ります!

 カツカツと、足音を鳴らして廊下を歩く。

 後ろから数人の足音が響く中、小さく背後を振り返る。


「今回は、お前らは出るな」


 淡々とそう告げる。

 今回の勝負は、完全なる私怨だ。

 部下たちは眠っている間にほとんど捉えられた。

 バルベリス、アザゼル、ラーヴァナの三人こそ『戦いに参加しないこと』を契約されて返されたものの、依然として捉えられた多くの部下たちは帰ってこない。

 それは言外に『他を巻き込むな』という脅しだろう。

 これは僕と、お前の戦いだ、と。

 それ以外は余人であれば誰であろうと関わらせるな、と。


「……全く、性格の悪い弟だ」


 そう苦笑交じりに呟くと、背後からサタンの声が響く。


「――混沌様。無礼を知ってお願いがあります」

「……何だ、サタン」


 足を止め、背後を振り返る。

 そこにはバルベリスたちを背後にしたサタンが私へと真っすぐに視線を向けてきており、その覚悟の決まった瞳に嫌な予感を覚えながらも、そう問うた。

 その言葉に、じっと見つめ返した私の瞳に。

 奴は爛々と瞳を輝かせ、確かにその覚悟を口にした――




 ☆☆☆




 最終決戦。

 それは、物語でいうところの最後の方。

 つまりは最終回間際に起こるものである。

 しかし最終決戦とは一体何ぞやと、最近になって痛いほどそう思う。

 ぶっちゃけた話を言っていいのであれば。

 ――いや、もう二回ぐらい最終決戦やってんじゃん。

 と、そんな感じになると思う。


「しかもこっちサイドがどっちも負けてるというね」


 一体何ということだろう。

 二回中、二回である。

 言い方を変えれば必敗、全戦全敗、などとなる。

 正直「何度同じ展開やれば気が済むんですか」と聞きたい限りなのだが、その当人としては「……まあ、こっちの実力不足も否めないわけだし……」という気分なのだ。

 ……とまあ、何が言いたいかといえば。



「――勝てる気がしねえ……」



 呻くように、そう呟いた。

 この僕、ギン=クラッシュベルは今現在、天界に居た。

 というのも、最後の最後で敗北をし、世界に灰色を齎した残念な方の英雄、執行者。

 つまりは僕は、世間じゃ情けないとか、そういう感じで意思統一が進んでいたのだ。

 まあ、正直僕は影の方でこそこそやってこその影の神、って感じだし、表の方は残念じゃない方の英雄こと久瀬くんに任せておきたかったのだが――


「……イフリート倒してから復活させるんだった」


 そこまで言ったらだいたい察してもらえたかと思う。

 そう、今現在地上では『執行者復活祭』などという馬鹿騒ぎが巻き起こっているのである。もちろん先導者は港国、あと森国。

 というわけで、見事エルザからの伝言をギルに伝え忘れた僕は、のこのこと天界まで逃げてきた、というわけなのだ。


「で、最初の話に戻る、って感じかな?」

「うん……、まあ」


 目の前から聞こえた声に顔を上げる。

 そこに居たのは――一人の少女だった。

 正確には幼女と少女の中間、といったところか。

 漆黒、という色を体現したような腰まで伸びる黒髪。

 宝石みたいな金色の瞳には頭を抱える僕の姿が映り込んでおり、その表情にはどこか呆れたような、それでいて心配そうな表情が浮かんでいた。


「気にし過ぎだとは思うけど……」


 そう続けた彼女――我らがヒロイン恭香は、赤い髪留めで黒髪を首の後ろでまとめている。

 気にし過ぎ、と。

 そうは言うけれど、僕の立場からすると『不安』っていうのは正常ではなかろうか、と思っている。


「……僕、一度死んでるからさ」

「…………」


 その言葉に、彼女は沈黙で返した。

 僕は、一度死んでいる。

 死んで、違う世界を魂となって彷徨い、成長し、そして戻ってきた。

 今の僕は、間違いなく強い。

 きっと、死ぬ前の何十倍も強くなってる。

 けれど、それでも。


 ――死ぬ感覚だけは、どれだけ経っても拭えない。


 覚えている。

 死んで、燃え尽きて。

 全てがゼロになって、ぷつりと糸が切れたような感覚があって。

 そして、意識があるのに、体が動かなくなって。

 しばらく経って、僕は死んだ。

 心細くて、寂しくて。

 あの何とも言えない虚無感こそが、僕の覚えている最後の感覚。


 その感覚を思い出して、ぐっと胸を詰まらせる。

 ああ、怖い。

 昨日はなんとか混沌の前に立てたけど。

 自らを鼓舞して頑張れたけど。

 またあの怪物と相対すると考えたら、心が壊れそうになる。


「……ふぅ」


 大きく、息を吐いた。

 とりあえずは深呼吸だ。

 恐怖を鎮め、バクバクとうるさい心臓をなだめる。

 瞼を閉ざして顔を上げると――ふと、恭香の声が響いた。


「――逃げても、いいんだよ」


 その言葉を聞いて、少し経ってから瞼を開いた。


「……逃げる?」

「そう、世界も何もかもほっぽいて、皆を連れて逃げる」


 その言葉には、冗談みたいな魅惑が含まれていた。

 思わず言葉を詰まらせる僕に対して、彼女は椅子の上で膝を抱えると、首を傾げて問うてくる。


「どう? 逃げちゃう?」


 それは、一種の麻薬だ。

 逃げる、嫌なことから逃亡する、逃避する。

 彼女はきっと、皆がいればそれでいいと、僕が死なずにそこにいてくれればそれでいいと、そう言ってくれるんだろう。

 ――ああ、嬉しい。

 こんなにも嬉しいことが他に在るだろうか。

 そう考えたら、きっとない。

 大切な人に「大切だ」と、そう言われることより嬉しいことなんてきっとない。

 けれども――否、だからこそ。


「――僕は、逃げないよ」


 僕は、そう答えた。

 僕は逃げない、逃げたくない。

 怖いけど、また死ぬかもしれないと思うと辛いけど。


「……あいつらが、あんだけ頑張ったんだ。ここで逃げたら嗤われる」


 思い出すのは、二人の男の姿。

 一人は、友を救うべく必死にあがき続けた。

 一人は、仲間を救うべく必死にあがき続けた。

 その果てに、一人は未だ目覚めず、一人は新たな道を見つけ出した。

 なればこそ。


「今逃げだしたら、最高にカッコ悪い」


 あいつらが必死になって掴んだ未来の可能性を。

 そう簡単に、手放してたまるかってんだよ。

 恭香へと視線を向けると、彼女はどこか嬉しそうに微笑みながら、ぐぐぐっと体を伸ばして見せた。


「そういうところ、結構好きだよ」

「うるせ、この野郎」


 冗談でもなく、ストレートに好意を告げてきた彼女の言葉にそう返し、ふっと立ち上がる。

 さて、と。

 心の準備はできた。

 混沌との約束は今日の正午。

 今は午前の九時だから、時間まであと三時間。

 場所は――悪魔界。混沌の居城。

 それまでは、まあ言い方は悪いかもしれないけれど、最後の準備期間とするとしよう。

 勝つにせよ、負けるにせよ。

 たぶん、忙しいのはこれが最後だ。

 だからこそ。


「さあ、あと少し、必死に足掻くと致しますか」


 冗談交じりにそう言って歩き出す。

 歩き出した僕の隣には、恭香が楽しそうに歩いていた。




 ☆☆☆




「やあ、銀。覚悟は決まったかい?」


 父さん(ウラノス)がいた。

 その隣にはなんだかむくれた様子の白夜がおり、明らかに面倒くさそうな雰囲気だったため、白夜のことを無視して父さんに話しかける。


「こんなところでどうしたのさ。行方知らずで知られる神王ともいう者が」

「はっはっはー、相変わらず棘まみれだねー。君を前にするとあのギルが可愛く見えてくるよ」


 飄々とそういってのけた彼は、けれどもすぐに真剣な雰囲気を醸し出すと、淡々とその事実を口にする。


「銀。一応注意をしておくよ。今の君には『開闢』スキルは備わっていない」


 その言葉に、少しだけ眉が動いた。

 ――開闢。

 終焉耐性、魔力共有、生への渇望、生命の燈。

 それら四つから成る、久瀬の【天下無双】の次くらいに強いスキル。

 まあ、あいつのアレは正直使いこなせる気がしないから『欲しい』とは思わないけれど、今回問題とすべきは僕の『開闢』の方だ。


 開闢のスキルは、生命の燈を使用すれば消滅する。

 生命の燈は『術者を命を燃やして力を生成するシステムへと変化させる』という、一度使えばその時点で死が確定する最悪のスキルなわけだが、そのスキルが発動し、命を燃やしきった時点で、開闢のスキルは跡形もなく消失する。

 まあ、体の中に未だその力が残っていたのか、ギルが『絶望の燈』なるイレギュラーを持っていたわけだが、それについても今は余談。


「つまるところ、君は以前のように、生命の燈や生への渇望を使っての身体強化が一切できない状態にある。まあ、なぜか終焉に対する耐性だけは残ったみたいだけどね」

「まあ……うん、知ってる」


 そう答える僕の視線は、スッと白夜の方へと向いていた。


「……なあ白夜」

「嫌じゃ」


 即答だった。

 まだ何も聞いてないんだけど……一応もう一回聞いてみようか。


「……開闢使うの、許してくれない?」

「絶ッッ対嫌なのじゃ!」


 白夜の声が響いた。

 ()()()()()()()()()、とその大声に咄嗟に彼女の口を押さえて大声を控えさせたが、彼女の瞳はじっと僕のことを睨み据えている。


「妾は最初っから嫌じゃといっておったのじゃ! にもかかわらず勝手に使って勝手に死んで……もうあんなのは嫌なのじゃ! そんなスキルがなかったら、きっとギン様じゃって諦めて逃げおおせてたはずなのじゃ!」

「まあ……そうかもしれないけど」


 彼女の言葉が正論過ぎて言葉に詰まる。

 最初から『開闢』スキルがなかったら。

 そうしたらあの状況で、アポロンを助けた後に『逃げる』という結論に達していたはずなのだ。

 ……まあ、生への渇望使ってなかったらそもそもアポロンには勝てなかっただろうが、それを持ち出せば白夜がさらに怒るのが目に見えているので黙っておく。


「とにかく嫌なのじゃ! 誰もギン様が死んでまで世界を守りたいだなんて思ってないのじゃ! そんなんなら皆連れて逃げた方がましな――」

「――白夜」


 ふと、彼女の言葉に被せて名を呼んだ。

 見れば『言い過ぎ』だと気がついたのか、彼女はぐっと押し黙っており、その姿を見て、僕は彼女の頭に手を置いた。


「逃げろ、っていうのは分かるけど。誰も世界を守りたいだなんて思ってない、ってのは言い過ぎだぞ。ギルに向かってった全員を怒らせる気か?」

「じゃ、じゃって……」


 今もなお食い下がろうとしない白夜に苦笑すると、彼女の前にしゃがみこむ。


「――僕は、負けないよ」


 その言葉に、彼女は目を見開いた。

 それは以前、僕が死ぬ前に何度か言った台詞だったはずだ。

 それは彼女も覚えていたんだろう、だからこそ歯を食いしばり――けれども、何も言い返すことはしなかった。

 勝つか負けるか、正直分からない。

 見た感じ僕と混沌の実力は完全なる五分と五分。

 だけど、それでも。



「最初っから、負けに行こうなんて気持ちは微塵もない」



 もしかして嘘になるかもしれない。

 けれども僕が今、本心からそう言ってることには変わりない。

 だからこそ白夜は悔しそうに目尻に涙を貯め、僕の胸に顔を押し付けた。


「今度は……妾もついていくのじゃ」

「別にいいけど、って許可したいのは山々だけど」


 そう笑って彼女の体を抱き抱えると、月光眼を発動して目の前の扉を開け放つ。

 その先の光景を一言で表すとすれば――死屍累々、って感じか。

 輝夜。

 レオン。

 オリビア。

 マックス。

 アイギス。

 ネイル。

 暁穂。

 伽月。

 藍月。

 浦町。

 エロース。

 ソフィア。

 ミリアンヌ。

 まあ、なんというのか。

 一言で表すと――全員がぶっ倒れていた。


「ああ、銀を復活させるときに皆限界まで魔力も生命力も削ってたからね……。見た感じまだ復活するのは難しそう……かな?」


 父さんの声を聞きながら、一番手前にあった空いている布団へと白夜の姿を横たえる。


「ギルの前まで出張っていたみたいだけど、お前だって体調最悪なんだろ? まだ壁越えてるからなんとか歩けてるだけで……」

「そ、そんなこと――」

「はいはい、顔見れば一発だっての」


 そこにはいつもの元気いっぱいな彼女の姿は無く、青白い顔をした、どこか元気のない彼女がいるばかり。

 僕の服を掴んで放そうとしない白夜の手を握りしめると、安心させるように微笑んだ。


「いっぱい寝て、いっぱい食って、早く治せ。変態が一人残らず寝込んでるのは有る意味嬉しい限りだが、少し静かすぎて落ち着かない」

「も、もうすこしまともな言葉はないのかのう……」


 そう言いながらも僕の服から手を離していく彼女。

 そんな彼女の髪を手で退けると、ふっと、小さく額にキスを落とした。

 まあ、少々強引な気もしないでもないが、これで黙るなら重畳だ。

 耳まで真っ赤になった白夜を見てニタリと笑うと。



「それじゃあ、行ってきます」




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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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