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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
正義の在処
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焔―048 人類の足掻き

「煌めけッ!『エクスカリバー』――ッ!」


 切っ先から光が溢れ、目先の悪魔達を飲み込んでいく。

 最高位の聖剣たる『エクスカリバー』の所有者、エルメス王国、国王直属護衛軍長のアルフレッドは荒い息を吐き出すと、その背後から無数の魔法が放たれる。

 場所は、神魔大戦の火蓋が切って落とされた戦場のど真ん中。バルべリス、アザゼル、ラーヴァナとは距離が相当に開いており、その中心で大勢の人類が恐怖を押し殺しながら、必死に足掻き続けていた。


「救護班救護班ッ! 怪我人多数!」

「くっ……! 回復魔法使い数人を寄越す! マジックポーションは三本まで! 現状それ以上は与えられん!」


 エルメス王国三番隊隊長、迷いの森の警備を任されているブルーノ隊長はそう声を張り上げる。

 エルグリッドをして『判断能力は随一』と称したその頭脳は現状を読み取ることに必死になっており、彼の脳内を無数の嫌な未来が過ぎっていく。


(く……、あまりにも戦力差がありすぎる……! 既に本部へ担ぎ込まれて行った者は百人超、転がっている死体を含めればそれ以上……。対し、相手は未だ――)

「ブルーノ殿!」


 ブルーノの耳に凛とした声が響き、とっさに彼はそちらを振り向く。見れば紺色のポニーテールを風に揺らした女性がこちらへと駆け寄ってきており、その姿に彼は目を見開いた。


「な――!? スメラギ・オウカ殿!? な、何故ここに――」

「はっはっはー! 何故も何も言ってられだろうよブルーノ三番隊長!」


 その背後からは短く借り揃えた青髪の男――エルグリッドも姿を現し、元国王に和の国の姫と、本来ならばここにいてはいけない顔ぶれに思わず顔を歪める。

 何故二人がここにいるのかは分かっている。

 その理由は単純明快――見聞など考えていられる暇など、とうの昔に無くなったから。


「王族だろうがなんだろうが、もうここまで来りゃあ下がってなんていられねぇだろうがよ。ここでやらなきゃ全員死ぬ。それが全てで、そして、それが現状だ」


 エルグリッドの言葉にブルーノら小さく呻く。

 頭では分かっている。けれども元国王に頼らざるを得ない現状に、どうしても悔しさが止まらないのだ。


「……申し訳、ありません」

「気にすんなって。お前は現状における『最高』を取り続けた。そんでもこんな現状だってのは、単に戦力差が大きかったってこと」


 ――だが。

 そう笑ったエルグリッドは、ガツンと両腕のガントレットを突きつける。

 オウカ腰に差した剣を抜き放ち、その背後から数人の姿が現れる。

 順に、『忍者』こと倉持愛華。

『破壊王』こと小島拓哉。

 そして、『魔王少女』こと桃野和彦。

 三人の顔には小さな疲労が見えていたが、それでも闘争心は微塵も揺るがず、ただ視線の先の敵をじっと見つめている。


「とりあえず、現状揃った戦力はこの五人」


 そう笑ったエルグリッドの拳から魔力が溢れる。

 かつて、『魔拳』として大陸に名を馳せたSSSランク冒険者。

 その彼が国王の座を降り、修行を重ね、そして軍神テュールと鳳凰院の支援を受けた。

 それは他の者にも言えることであり――



「行くぞ悪魔共、今の俺らは、結構強ぇぞ?」



 五人が駆け出すと共に、数多くの戒神衆か飛び出した。




 ☆☆☆




「『夢国の従者(ドリムバレット)』っ!」


 桃野が叫び、周囲にぼふんといくつもの煙が生み出されていく。

 そして煙の中から無数のぬいぐるみが召喚され、各々が二メートル近いそれらのぬいぐるみは一斉に悪魔達へと向かっていく。

 ――夢国の従者。

 様々な能力を持つぬいぐるみを召喚し、使役するという能力であり、今回彼が付与した能力は――


「みんな! ぬいぐるみたちを限界まで『打たれ強く』しておいたよ!」


 ガシッ、とそれらのぬいぐるみ達が戒神衆の進行を止め、それを見たオウカが楽しそうに頬を吊り上げた。


「流石は桃野殿! 学園にいた頃よりも数段強くなっているようですな!」


 言いながらも、オウカはぬいぐるみに一瞬気を取られた悪魔を一刀の元に切り伏せており、同時に彼女の隣で走っていたエルグリッドの拳が戒神衆の顔面を捉える。

 ガフッ、と鼻から鮮血の舞ったその戒神衆は大きく状態を逸らしたが、けれどもすぐにカッと目を見開くと、手にしていた黒い剣をエルグリッドへと振りかざす。だが。


「ぬんッ!」


 轟ッ、と空気を切り裂くようにして大剣が振り落とされ、戒神衆の体をいとも簡単に叩き潰す。

 それにはエルグリッドもヒュゥ、と口笛を鳴らしたが、大剣を手に持つ当人は不満げな表情を浮かべている。


「エルグリッドさん、もう少し、緊張感持ってくれませんか。戒神衆は俺と桃野に任せてください」

「ハッハッハ、残念だったな小島、格上に挑みたくなるのは武人の性、というものだ!」


 その言葉に小さくため息を吐いた角刈りの大男――小島拓哉は、小さく「分かりますが」と呟き、視線を周囲へと巡らせる。

 周囲には二人を囲むようにして迫り来る戒神衆たちの姿があり、それらを前に小島は重心を下げ、肩に大剣を担ぎあげる。


「エルグリッドさん、三秒です」

「あいよ!」


 小島がそう告げると同時に、エルグリッドがあいや分かった、と笑って見せた。


 ――三。


 戒神衆が迫り来る。


 ――二。


 小島が大剣の柄を握りしめ、カッと目を見開いた。

 途端に戒神衆たちの動きが急激に遅くなり、それを見たエルグリッドは相も変わらず凶悪な力だ、と乾いた笑みを漏らす。

 小島拓哉の二つのユニークスキル。

 それは『無限体力』と、『重力操作』だ。

 どれだけ激しく動こうと息ひとつ切れない、つまりはどれだけ動こうと常に絶好調の行動を取れるという無限の体力に加え、指定範囲の重量を操作する重力操作の二つのスキル。


 ――一。


 エルグリッドが大きく上空へと飛び上がる。

 途端に小島の握る腕の筋肉が膨張したように大きさを増し、直後、彼の咆哮が轟いた。


「ウオラァアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 ――一閃。

 ぐるっと一回転するように大剣を薙ぎ払い、超重力状態でその場に縛られていた戒神衆たちが一瞬で命を散らしていく。

 その光景を上空で見下ろしていたエルグリッドはトンっと地面へと着地すると、バシッと彼の背中を叩いて笑った。


「ナイッス! さぁさぁ次行こうぜ!」

「……はぁ、疲れる」


 体力的にではなく、エルグリッドに付き合わされる精神的な疲れにそう小島はため息を漏らし、ズンズンと進んでいくエルグリッドのあとを追ったのだった。




 ☆☆☆




 黒装束に身を包んだ少女が一瞬にして悪魔の喉笛をかき切り、一瞬遅れて大量の鮮血が周囲へとまき散らされる。


「あーもうっ! 私ってば斥候なのに、何でこう戦闘のど真ん中に送り込まれるかな……ッ!」


 言いながらも彼女――倉持愛華の投げつけた短刀がオウカへと迫っていた戒神衆の頭蓋に突き刺さり、その悲鳴に驚いたオウカは目の前の悪魔を倒して振り返る。


「ぬぉっ!? わ、私からすれば、倉持殿の戦闘能力は目を見張るものがあるのですが……」

「そりゃあ異世界人が現地人に負けてちゃ世話ないよ!」


 そう言いながらも懐へと手を突っ込んだ彼女は、スッとそれらを周囲へと撒き散らす。


「忍法ッ!『撒菱(まきびし)』!」


 彼女の振りまいた撒菱はオウカと彼女を守るように展開され、咄嗟に踏み止まることの出来なかった悪魔達が次々に悲鳴をあげていく。

 そして次の瞬間には何かに蝕まれるように首を抑え、口から白い泡を吹いていき、それを見たオウカの頬が見るからに強ばった。


「こ、これは……」

「ふふん! 私特製、トリカブトとヒュドラとヤマタノオロチ、加えてディザスタースライムに、極めつけはヤマガミアラシの抽出毒を混ぜた劇毒さ!」


 とんでもない名前のオンパレードに思わずなんとも言えない表情を浮かべてしまったオウカではあったが、すぐに悲鳴が聞こえてきて目を見開く。


「い、今のは――!?」


 振り返れば、視線の先には見るからに格が違うと分かる――恐らくは『名持ち』であろう戒神衆を前に悲鳴を上げる和の国の少女が座り込んでおり、その少女の前には血に濡れた少年が倒れ込んでいた。


「ま、まずいッ!」


 その姿を見た途端、オウカの体は動いていた。

 現状、危険なことには変わりない。今行う行動は傍から見れば馬鹿馬鹿しい行動に見えるだろう。

 けれども迷いはない。

 ここで動かなかったら後悔する。

 あの人に、もう顔向け出来なくなってしまう。


「はあああああッ!」


 オウカは手にした刀を逆手に握りしめると。

 ――勢いよく、その悪魔目掛けて投擲した。

 それにはその戒神衆も目を見開き、咄嗟に身を躱したものの肩口に思い切り刀が突き刺さる。


「ぐ……!」


 戒神衆がその場から飛び退り、すぐさま愛華とオウカは駆け出した。


「お、オウカさん!? ぶ、武器投げちゃってよかったの!?」

「仕方ありません! それより今は――」


 そう叫んで彼女は倒れ伏す少年と泣き崩れる少女の元へと駆けつけ――直後、怖気が背中に走り抜けた。

 見れば先程まで泣き崩れていた少女の頬には刃のような冷笑が張り付いており、背後から愛華の悲鳴が響く。


「きゃぁっ!?」


 大きく背後へと視線を向ければ、そこには先ほどの戒神衆に殴り飛ばされる愛華の姿があり――ドンッと、腹へと衝撃が突き抜けた。


「が、あ……?」


 視線を落とす。

 見れば腹には一振りの剣が突き刺さっており、ゴフッと腹から鮮血が溢れる。


「いやぁねぇ? まーさか着物を着ただけでこんなに簡単に騙せるなんてぇ。ねぇ?」

「くふふ……、僕はトマトジュース頭からぶっかけただけなんだけどー」


 見れば先程まで倒れていた少年はなんでもないと言ったふうに立ち上がっており、今頃になって気がついた激痛にオウカの膝が崩れ落ちる。


「ま、まさか貴様ら……」

「そう、フツーに変装した悪魔でしたァー」


 見上げれば、ニタリと笑みを浮かべたその女悪魔が、オウカの腹から抜き出した剣を振りかざす。

 その剣には真っ赤な鮮血がへばりついており――



「それじゃぁ名も知らぬ偽善者さん。さようなら」



 刀身が彼女の頭蓋へと振り落とされ、鈍い音が響き渡った。


次回、アスタVSサタン

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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