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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
救いの熾火
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焔―031『0.4%』

す、すいません。

39.0度出て、なんだか視界が朦朧としてきたのでめちゃんこ短いです。

 全能神ゼウスは、決して『善』の神ではない。

 神々の頂点でありながら天界における職務を放棄し、人類を見守ることなど無意味であると断じ、自らの世界へと引き篭もった力だけの神様。

 他の神々に力を貸す事などありはせず、何も良いことをしない代わりに何も悪いこともしない。

 言うなれば、いても居なくても変わらない。

 空気みたいな存在であった。


『……はぁ』


 かつての彼女は溜息を漏らした。

 敬愛していた祖父が自らが親の手によって陥れられ、それを知った彼女が摘発、最終的に自らの親をその手で打倒してから、もうどれだけが経っただろうか。


『……クロノス』


 ふと、自らの父親の名を呟いた。

 父と名乗っていたあの女性は、一体何を思い、何のためにウラノスを陥れたのか。


『分からない……、分からないよ』


 その理由が『私怨』だと分かっている。

 分かっているからこそ、分からない。

 私怨という感情が、分からない。

 彼女は廊下に座り込み、外を眺める。

 彼女がクロノスを打倒したのは、純粋にその必要性があったからだ。断じて私怨に駆られて行ったことではない。


『神様だって、こんなにも愚かしい』


 なら、こんな世界に、全ての世界に生きる全ての生物は。

 神に創られし神より劣った全ての生物は、この愚かしい神々よりも更に愚昧だと言うことになる。

 何度考えたところでその結論に達することを知った彼女は、大きく息を吐いて顔を伏せた。


『こんな、世界なんて』


 ――存続する価値、あるんだろうか。


 彼女がそう言おうとした、その時だった。



「で、なんで泣いてるの?」



 その声が、耳に届いた。

 自分しかいないはずのこの世界に響いたその声に、彼女は愕然と目を見開いて周囲を見渡す。


『ぁっ、だ、誰っ! ど、どこにっ、いるの……!?』


 空恐ろしさに駆られてそう叫ぶと、どこからか声が聞こえてくる。舌っ足らずの、少年の声だ。


「いいかい……そうかんたんに泣くんじゃない」


 ゼウスは駆け出した。

 その声の在処を探すために駆け出した。

 裸足で庭を駆け、周囲へと視線を巡らせて――ふと、池の方に時空の歪みがあるのを発見する。


『あ、あれは……!』


 ――時空の歪み。

 創造神エウラスが全世界を創造した際に不手際があったのか、数億年、数千億年に一度の確率で起こる時空と時空を繋ぐ巨大な闇。


「お父さんがいってたんだ。なみだっていうのは見せちゃいけない。どんなに苦しくても、辛くても、どんなに未来が見えなくても、ひとまえでないちゃいけないんだって」


 その闇の中から、その声は聞こえていた。

 すぐさまその近くへと駆け寄ると、ゼウスは不安そうに、それでいて確かな興味を持ってその言葉に耳を傾ける。


「だからね。僕はがんばってみようとおもうんだ。たぶん、このさき辛いことばっかりだけど、せいかくなんて変えられないけど。それでもひっしにがんばってみようとおもう」


 必死に頑張ってみる。

 それはゼウスの諦めたことだった。

 祖父を失い、父を打倒し、すべてに絶望した彼女が諦めたこと。


「で、でもそれじゃ……いつか辛くなっちゃうよ!」


 もう一人の少年の声が響く。

 たしかにその通りだ。

 だからこそゼウスも小さく頷いてその先を待つ。

 辛くなるのなんて目に見えている。

 頑張ったところで努力が報われるとは限らない。

 ならば、努力なんて価値がないんだ。

 そう断じる彼女に対してその声は、ふっと笑って。


「つらいとおもうよ。でも、じぶんにうそついてちゃ面白くないでしょ? だから僕はがんばるんだ。がんばって、自分にしかできないことをする」


 その言葉に、彼女は目を見開いた。

 分からない、分からない、分からない。

 そう言って前を向けるその気持ちがわからない。

 分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない。

 脳内がすべてその言葉によって埋め尽くされ、ゼウスは混乱の坩堝へと陥った。

 けれど、その直後に聞こえたその言葉に。



「そっちの方が、カッコイイんだってさ」



 ゼウスは少しだけ――興味を持った。




 ☆☆☆




 今になって思い出すその過去に、彼女はフッと吹き出した。


「き、貴様……! 壁を壊す、と言ったのか!? 貴様にはその才能が欠けている! そんな状況で無理矢理に壁を壊そうとすれば……」

「私が死ぬ確率――99.6%」


 壁を超えるというのは、言わば選ばれたものにのみ許された一種の境地だ。

 その才能は生まれながらにして決まっており、それを無視して選ばれぬものが壁を破壊しようと思えば、それに耐えきれず、身体が先に自滅する。

 肉が潰れ、裂け、骨が砕け、精神がズタズタに切り裂かれる。

 最後に残るのは見る影もなくなった肉の残骸と、蘇生すら不可能な粉々になった魂の破片だけ。


 言うなれば――禁呪すら超える禁則事項、立入禁止の絶対区域。


 それを彼女は、やろうと言ったのだ。

 ギルは初めて焦ったように声を漏らし、ゼウスへと手を伸ばす。


「や、やめろ! お前には無理だ!」

「無理じゃない、やってやれないことは無い」


 彼女の体からバチバチと雷が放たれ、周囲の地面を抉ってゆく。その姿に、その言葉に、覚悟の据わったその瞳に、ギルは大きく歯を食いしばった。


「何故だ! 何故逃げない! 俺は貴様を逃がすといった、にも関わらず何故逃げない! 何故そこまでして、あの男に尽くそうとする!」


 ギルの叫び声が響く。

 けれどもゼウスは止まる気配がなく、彼女は淡々とその詠唱を読み上げる。


「『我、立ちはだかりし壁の前へと至りし者。我、その資格を持たぬ者。我、その先へと至らんとする者。尽く限界を排し、全てを得んとする者なり』」


 瞬間、彼女の体を激痛が走り抜ける。

 常人であれば一瞬で死に至りかねないその痛みを前に。

 ゼウスはふっと笑って。



「この『0.4%』に、私の全てを賭ける」


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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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