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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
森国編Ⅱ
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焔―012 余興

 鎖から解放された男の体は大きく吹き飛ばされ、勢いよく瓦礫と化した城壁へと突っ込んでゆく。


「ふぅ……、今のは気持ちよく入ったが……」

「……逆に、今ので倒せないようであれば勝ち目はないでしょう。奥の手として『黙示録』を使おうにも、禁呪二連続の後にアレを使うとなると三十分は必要になるしね」


 頬を伝う汗を拭いながらも魔王が肯定する。

 禁呪というのは、魔力消費が多いという理由だけから指定されているわけでは無い。

 禁呪を使えば、それ相応の副作用が襲ってくる。

 ギンのように幾度もの『致死』の痛みに慣れているわけでもなく、回復能力が備わっているわけでもない魔王にとって、禁呪など一つ発動するだけでもかなりの痛みを伴うのだ。

 それを二連続……さらに最後の手段たる『黙示録』まで使うとなると、少なくとも数年間は寝たきりの生活を余儀なくされる。


「全く……、魔力が多いというのも困りものね」

「がはは、贅沢な悩みだな!」


 言いながらも、獣王はズカズカと男の方へと歩いてゆく。

 続いて獣王の肩から降りていたギルバート、魔王も続いてゆき、遠巻きに見ていた兵士達もまた、緊張に顔を強ばらせながらも続いてゆく。


「さて、アレだけのことをほざいた男だ。今ので死ぬなど有り得ない……大方気絶といった――」


 ――程度だろう。

 そう続けようとした獣王は、その瓦礫の中に横たわっている男を見て――目を見開いた。


「……獣王? どうしたの?」


 不審に思った魔王がその背中に声をかける。

 しかし彼は言葉を返すことなく、横顔を見れば彼は唖然としたままその男を見下ろしている。


「一体、なにが……」


 言いながらも、魔王もまた男の前まで歩いてゆき。

 そしてその男を見下ろして――目を見開いた。

 あれほどまでの大口を叩き。

 あれほどまでの危険性を感じさせたその男。

 二人の先で、その男は――



「……死んでる?」



 ――死んでいたから。


 気絶という訳では無い。

 純粋に、先程まで感じられていた『生気』が感じられず、どころか魔力も気配も何も感じられない。

 まさかまた隠蔽かとも疑ったが……、隠蔽のプロフェッショナルを知っている二人はすぐに気がついていた。

 これは隠蔽などではなく――純粋な『死』であると。


「し、死んでる!? ほ、本当なんですか……?」


 その呟きを聞き取ったギルバートも『信じられない』とばかりに声を上げる。

 獣王の予期した通りその男が後衛だったとしても、あれだけの口を叩きながらも一撃で死ぬなど思えない。

 それに何より――


「お、お二人も感じたでしょう、その男の『危険性』を……。間違っても、こんなにも簡単に死ぬ男ではない……!」

「それは……そうなのだけれど」


 たしかに感じていた――その危険性を。

 ここで殺さねば不味いことになる。

 この男を放置してしまえば――間違いなく、世界が滅ぶ。

 この世界だけではない。

 あらゆる世界線、並行世界、異世界。

 あらゆるものが――破壊されてしまう。

 そんな直感にも似た感覚を、その場にいた全員が感じていた。

 だからこそ信じられないのだ。

 こんなにもあっさりと、その男が死んでしまうなどと。


「……仮面、外してみるか?」


 ふと、獣王が呟く。

 ――仮面。

 その男が今もなおつけ続けている、顔全体を覆い尽くすような大きな仮面だ。


「……そうね。でも一応注意しましょう。死んだ……はずだけれど、まだ奥の手があるかもしれないのだし」

「……分かっておるさ。何か異変があればすぐ逃げる」


 言いながらも獣王は手でギルバートや魔王たちを下がらせながらも、いつでも逃げられるように注意しつつ、その仮面へと手を伸ばす。

 ――あと少し、あともう数センチ。

 もしかして本当は生きているんじゃないか。

 直前になって動き出すのではないか。

 そう思って魔法の準備をしていた魔王だったが――その準備は、全て無駄に終わった。


「……」


 獣王の手は何事もなくその仮面へと届き、彼はいとも簡単にその仮面を外して見せた。


「取れ、たのかしら?」

「そ、そうみたいですね……」


 数秒待っても何も起きないことを確認した二人は、獣王の元へと駆けてゆく。

 ――何も起きない。

 その事実に首を傾げたくなる気持ちを抑えながらも、二人は獣王の側まで駆け寄って――


「……こ、こやつは――」


 獣王が、目を見開いていることに気がついた。

 その視線の先には、仮面を外した男の死体が転がっており、その死体へと視線を下ろしたギルバートは。



「……これ、誰ですか?」



 そこに転がっていた死体は、見たこともない男のものだった。




 ☆☆☆




 その頃。

 ソファーに横になっていたメフィストは、目の前の椅子に座っていた彼が動いたのを見て笑みを浮かべた。


「おや、お帰りですか、ギル」

「お帰りというか、ずっとここにいたのだがな」


 あぁ、そう言えばそうでした。

 言いながらもメフィストは、目の前のテーブルの上に置かれた煎餅へと手を伸ばす。


「で、どうでした? 牢獄の中から見繕ってきた大罪人の悪魔を【影武者】として使った気分は」

「……いや、まさか影武者にあれだけの勢力が集ってくるとは思わなかった、というのが本音だが」


 疲れたように肩を回すギルに、メフィストはきょとんとした様子で目を丸くする。


「え、誰が来たんですか? どうせ面白くないだろうなー、と思って見てなかったのですが」


 言いながらも煎餅を齧るメフィストに。


「魔王と獣王」

「ぶふぅ!?」


 淡々と告げられたその名にメフィストも思わず吹き出した。


「な、なんで言ってくれないんですか! 言ってくれれば裏から観戦し、影武者ごときに必死になってる王様方を鼻で笑えたのに!」

「だから言わなかったんだ。貴様はとっとと仕事しろ」


 言いながらもギルは立ち上がる。

 彼が右手に魔力を通すと、すぐさまその影武者の使用していた鎖鎌が召喚される。


「この武器も一応預けておいたが……、影武者のステータスでは使いこなせなかったか。能力すらまともに発動できんようでは、やはりせいぜいが斥候止まりの性能か」

「私としては、他人を操ってあれだけの力が出せれば見事だと思うのですがねぇ……」


 メフィストの言うことも最もである。

 ギルはあの男――名も知らない獄中悪魔を単純に遠隔操作しただけに過ぎない。

 それこそが彼らの抱いていた【違和感】であり、感じた危険性と『男』の強さが合致しない違和感に繋がっていた。


「少なくとも、貴方が戻ってくるまでの時間を鑑みるに、ベルゼブブの蝿の軍勢に紛れ込ませた影武者を遠隔操作し始めてから、ある程度はあの方々と戦えていたのでしょう? 以前よりもさらに強くなった歯車、しかも二人同時に戦えるなど……見事と言わずなんと言いますか」


 正確にはギルバートも含めて三人。

 ただの遠隔操作、操っただけ。

 にも関わらずあの二人を相手に戦えた彼の【本当の力】にメフィストは苦笑してしまう。

 対してギルはなんの感想も抱いていないのか。


「当然のことだろう。俺は紛うことなき【最強】だ。俺自ら出向けば、あの連中など数秒あれば皆殺しに出来る。禁呪なども食らったところで生存できる自信があるしな」


 それに。

 そう続けたギルは、メフィストを振り返り。


「あの連中には言ったはずだ」



 ――これはあくまで、余興だとな。



 去っていくギルの背中を見送りながら。


「……これ、向こう側に勝ち目ってあるんでしょうかね」


 メフィストはそんなことを呟いた。




 ☆☆☆




 城壁が崩れる音が響き渡り、思わず背後を振り返る。


「ちょ……! グレイス! 王城の方も何だかとんでもない事になってるんだけど!」

「気にせんでいい! 今のはこっちの攻撃っぽいからの!」


 物凄くイライラしているグレイスの声が響く。

 こっちの攻撃……か。なんだか物凄い魔力が感じられるんだけれど……まぁ、彼女がそういうなら今は気にしないでおこう。

 それに何より――気にしてる余裕無さそうだし。


『PIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 咆哮が轟き、上空から緑色の唾液が降り注ぐ。

 そしてそれに悲鳴を上げるパーティメンバー。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!! き、気持ち悪いいい!!」

「た、助けて久瀬っち! 私もう無理にぁぁぁぁぁぁ!!」


 抱き合って必死に助けを乞うてくる愛紗と妙。


「う、うぷっ……、きもちわるい……」

「き、京子さん!? 大丈夫っすか!?」

「だ、大丈夫に見える……?」

「見えないっすね!」


 なんだかコントみたいな事をやってる花田と京子。

 これでもう三人が脱落。

 そして重い鎧を着た防御専門の花田も必然的に脱落ということになる。アイツはあくまでも『地上最強』のタンクであり、上空の敵にまで対応できる訳では無いのだ。

 となると――


「残ったのは俺ら四人か……」


 視線を巡らせる。

 我らが副リーダー、御厨友樹。

 脳筋バカ、小鳥遊優香。

 あと凛ちゃん。

 そして俺。

 結果的に内半数が脱落したことになる。

 加えて――


「あー、クソッ! 何でこう、ワシと大悪魔って相性悪いんぞよ! 何でみんなみんな超殲滅魔法を打っても平然としてるぞよ!」


 バアル戦の二の舞となり、かなーりイライラしてるグレイス。

 結果として今戦えそうなメンバーはこの五人。

 対して相手は――


『ピギャァァァァ!! うふふふふっ! さぁ、早くかかってきなさぁい♡ それとも何か? あなた達みぃんな【受け】の方が好みかしらぁん?』


 ――あの変態糞虫である。

 なんなのあいつ……、オカマで変態でさらに腐った蝿って……どれだけキャラ盛ったらあんなことになるんだろうか。

 ……にしても。


「どうやって倒したらいいものか……」


 先程から上空を飛び回っている大悪魔ベルゼブブを見上げていると、思わず眉根にシワが寄ってしまう。

 あれだけ上空を飛び回っていられるとまともに攻撃することもできやしない。

 その上攻撃が当たったとしても、向こうはこの氷柱を足場にいくらでも休憩できるのだ……。もう本当にどうしろと。


「せめてあの羽だけでも奪えれば……」

「……羽、のぅ?」


 俺の言葉にグレイスが反応する。

 見れば彼女は顎に手を当てて唸っており。


「たしかに現状でいえばそれが最も良い方法ぞよ。切り落とす……のは得策ではないのぅ。あ奴はギンの肉を食っておる、多少なりとも回復能力も持っておるだろうし……」


 ――あれっ、今不穏な言葉が聞こえたんだが。

 恐る恐る凛ちゃんの方へと視線を向けると。


「誰が、兄さんを傷つけたって?」


 顔に影を落とした凛ちゃんがそこには立っていた。

 思わず冷や汗が頬を伝い、グレイスも今になって失言に気がついたのか、「まずった!」と口を押さえているが……もう遅そうだなー、これ。

 視線の先では、いつにも増して静かな凛ちゃんが、スウっと上空のベルゼブブへと視線を向けていた。

 そして一言――



「ぶっ潰す」



 どうやら。

 ベルゼブブさんは、一番怒らせちゃいけない子の怒りを、買ってしまった様である。

次回『下らない感情論』

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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