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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
竜国編Ⅱ
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影―114 奥の手

 今から三~四年前。

 父さんとの修行が始まって最初に。


 僕は父さんから――一つの『力』を預かった。


 それは、力と呼ぶにはあまりにも弱々しい力。

 その名も――【刻印】

 体の一部に『印』を刻み付け、その場所に自らの魔力を貯めるという能力。

 貯める魔力は無制限という特異性はあるにせよ、溜め込まれた魔力を放てるのは一度だけ。

 その一回で使いきれなかった魔力は跡形もなく消失し、体に刻んだ刻印もまた、消失する。

 使いにくく、デメリットからすればメリットが小さすぎる……言うなれば、単体では足を引っ張りかねない、多分僕以外は誰も使っていないような力だ。


 ――だが、僕はこの力を使い続けた。


 三年から四年にかけて、戦いのない時は必ず刻印に魔力を注ぎ続け、その総魔力は、今や僕の魔力の数千……いや、数万倍、それ以上にまで膨れ上がっている。


 しかし、この扱い切れないほどに大きな魔力。普通ならば奥義だろうとなんだろうと、魔力過多で、発動しようと思えば暴発して始末だろうが。

 それでも、世界に一つだけ。


 それだけの魔力を有していなければ使いこなせない。最強の魔法があることを、果たしてどれだけの人が知っているだろうか。


 少なくとも、混沌は多分、この力を知りはしない。




 ☆☆☆




 爆風が荒れ狂い、爆発が連鎖し続ける。

 その爆心地を見つめながら、地に膝をつき、肩で荒い息を吐き出す。


「ハァッ、ハァッ……、くっそ……、きっついな、これ」


 これでも魔力操作にかけては間違いなく最強だと思ってたんだがな。まさか現時点の僕でも一撃放つだけで限界とは……、これでも倒せかなったとしたらもう本当に嫌になる。


『おいおい、ありゃ死んだんじゃねぇのか?』


 近くへと寄ってきたクロエ。

 その背中にはアポロンやウルの姿もあり、最終決戦の最中なのに和やかな雰囲気を醸し出している彼女らに、少し苦笑を漏らしてしまう。


「元から殺す気でやってるわ。でなけりゃ勝てないし、もしもほんとに殺してたら、その時は死神ちゃんに頼み込んで生き返らせてもらえばいい。今度は力を失わせてな」


 僕だって、別に混沌をぶっ殺したくてこんなことしてる訳じゃないのだ。ただ、姉に友が傷つけられた。だから弟として――家族として、一発キツイの食らわせに来た。

 ――正確には向こうから連れてこられたのだが、そこら辺はまぁ、気にしたら負けというものだろう。


「お前らももう帰れ、流石に今のは『無事』じゃ済んでないだろうけど、それでもこっから先は――」

「分かってますよ。私たちではあまりにも力不足、というのでしょう?」


 ウルの言葉を証明しているのが、他でもない疲れたような表情を浮かべている彼女自身。魔物の頂点にして輪廻転生を司る円環龍ウロボロス。彼女でさえ混沌とほんの一瞬相対していただけでこの疲れようだ。


 ――壁を越えた者には、壁を超えたものしか相対する権利はない。


 つまりは、そういう事だ。

 手を翳すと、三人の身体が光となって僕の体の中へと戻ってゆく。

 そして――直後、体中へと怖気が走り抜けた。



「――ッッ!?」



 それは紛れもない――死の恐怖。

 得体の知れない威圧感による、本能が感じ取った死の危険性。それを僕は直感的に――恐れた。


「ば――」


 ――馬鹿な。

 有り得るはずがない。

 そう続けようとしたけれど、視線の先――砂煙が不自然に消え失せていくのが見え、咄嗟に言葉を飲み込む。


 何が……起きている?


 頬に冷や汗が伝うのを感じる。

 さっきの一撃は、間違いなく直撃した。

 威力としては、不老不死の吸血鬼でさえ、一瞬で跡形もなく消失してしまうほど。その上『開闢』の力を帯びている。

 混沌を殺すには――十分すぎるはず。


 なのに――何故。

 何故、そこにお前が立っている。


「混沌……!」

「あぁ、呼んだか弟よ」


 その顔には、微笑みが浮かんでいた。

 まるで今まで体中を縛り付けていた鎖から開放されたかのように、清々しい笑顔を浮かべていた。


「まさか、お前がこれほどまでの技を持っていたとはな。正直驚いたし、私自身、今のは死んだかと思った」


 ――だが。

 一転、獰猛な笑みを顔に貼り付けた彼女は。



「悪いな。今の力――喰らわせてもらった」



 ドンッ!!

 まるで大気が鳴ったような、腹の底に響くような衝撃が周囲へと走り抜ける。

 それは、混沌の力が上昇した際に伴う――威圧感。

 ……そう、威圧感でしかないのだ。

 威圧感でしかないのに――僕の頬には、大粒の冷や汗が流れていた。


「私の能力は単純明快――喰らうこと。強欲に、本能の赴くままに全てを喰らい尽くす。喰らい尽くし、分解し、全てをエネルギーとして自らのステータスへと還元する。それはつまり――」

「ま、まさか――!」


 嫌な予感が脳裏を過ぎる。

 しかし、こういう時に限ってその予感は外れない。

 外れた、試しがない。



「そうだ。あの威力、あの魔力の分だけ――私は強くなったということだよ」



 ――背後から(・・・・)、声が耳元で囁かれた。


「――ッ!?」

「遅い」


 咄嗟に身を捻り、左拳を握りしめ、裏拳を放つ。

 しかし彼女は平然と裏拳を受け止めてしまい――



「――【左】も、奪わせてもらう」



 ――瞬間、左腕が消失した。

 切断でも、転移でもなんでもなく。


 ――終焉(ジ・オーラス)によって、喰い尽くされた。



「ぐっ、があアアああああああああッッ!!」



 あまりの激痛に思わず絶叫が漏れる。


『クソッ……! おい、私たちは大丈夫だ! 食われちゃいねぇ! ……だ、だが――』


 分かってる、言われなくても分かってるよ。

 歯を食いしばり、両腕を失った僕は混沌を見上げる。

 そこにはただ、無表情を顔に張り付けて僕を見下ろす混沌が佇んでおり――



「貴様のステータス、貰い受けた」



 ――彼女からは、今の僕の数倍にも及ぶ力が感じられた。




 ☆☆☆




 ――急転直下。

 これほどまでにこの名前が似合う状況というのも珍しい。というか見たとこもなければ実感したこともない。

 そしてこの言葉も良く似合う。


 ――絶体絶命、と。


「クソ……」


 どうする。どこに勝ち目が残ってる?

 もう一度……はダメか。先程よりもさらに強くなっている彼女を相手に通じるはずがない。

 つまりは、先ほどの『万喰の陽影(サンズ・ダークネス)』よりもさらに強力な攻撃をぶち込む。

 それ以外に――勝ち目は残されていない。

 だが、果たして今の僕にそれが出来るか?


 ――否、違うか。


「出来るかじゃなく、やらなきゃいけない」


 命を張って僕をここまで連れてきてくれた、皆のために。


「アポロン!」

『分かってるわよ!』


 瞬間、失われた左腕の断面からオレンジ色の炎が迸る。

 その炎は混沌を覆い尽くし、その一瞬で彼女の前から離脱。十数メートル離れ、残った肘から上の左腕へと力を込める。


「フンッ!」


 形を作るのは、右腕で慣れている。

 だから、左腕には――炎の義手を。

 すぐに思い描いたとおりの『天焔』の腕が出来上がり、チリチリとオレンジ色の炎を揺らし出す。


『大丈夫かギン! テメェ前回はバランス崩して――』

「大丈夫、バランス感覚だってあの時よりもずっと成長してる。もうこの感覚にも慣れた」


 だが、ステータスの減少だけは、やっぱり慣れない。

 影の右腕を握りしめ、開く。

 やっぱり、かなりステータスは下がっている気がする。今の状態でも以前よりは遥かに強いだろうが……それでも、混沌と戦うには少し頼りない。

 視線の先には、視界を奪うつもりで放った炎すら吸収し始めた混沌が一歩、また一歩とこちらへと歩き始めている。

 手はある。

 確かに手はあるのだ。


 ――だが、この空間は……。


『おい! シャキッとしやがれ!』

「――ッ」


 クロエの声に、思考の渦には沈みかけていた意識が現実へと引き戻される。

 周りが見えなくなっていたのは、ほんの一瞬のことだったのだろう。混沌は未だ遠くでこちらへと歩を進めている。

 しかし、今の一瞬は、このレベルの戦闘においては本来あってはならない不覚。

 混沌にとって――殺せていただけの隙だった。


 思わず歯を食いしばる。

 ソレを、知った上で見逃した混沌に。

 そして――ここに来てそんなヘマをした、自分に対して。


 大きく息を吐き出す。

 もう、迷いなんてしない。

 ここで出し惜しんでも、負けるだけだから。


 だからもう――



「禁呪――奥の手を使う」




次回『黙示録』

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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