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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
箸休め編 ~無神世界~
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幕間 勇者コメディの大冒険 ⑥

コメディを書いているとシリアスを書きたくなってくる不思議。

 ――麦。

 隠語とかそういうのじゃなく。

 普通に麦。

 あの植物の麦である。


「……今まで、折れた剣、骸骨様の杖ときて、今度も危ういのくるんだろうなぁとは思ってたけど」


 思ってたんだけど――ここで来るか麦。

 ヒント少なすぎて……というか、もうどういう関係性があるのかわからなすぎて全然予想がつかないんだけど。


「って言うか輝夜、本当に最初から持ってたものってコレなのか? 他にはなんか……」

「ん? このローブを除けば他にはないぞ? この小屋とて村人に魔法を神の奇跡だと嘘ついて騙し取――借り受けたものだし」

「おい今なんつった」


 輝夜の頬をギチギチと引っ張りながらも、一人腕を組んで唸っているサタンへと視線を向ける。


「なぁサタン。麦のアニメって何か分かるか? お前らそれでも全世界飛び回ってるんだから日本のアニメくらい知ってるだろ?」

「あにめ……? そういうのはアスタロトの専門だったはずだが」


 あぁ、あのペンギンか。

 あのペンギンなり、あとはオタクの久瀬なりいれば結構簡単にわかったりするのかもしれないが……残念ながら僕はただの読書家である。確かにラノベは見るが、漫画、アニメといったものについては専門外。憤怒の罪(ドラ○ン・シン)並みに有名な作品ならばまだしも、だ。

 あぁ、恭香がここに居たら楽勝なのになぁと、改めて相棒の心強さを実感しながらも頭を悩ませたいると。


「つまりは、だ。当初貴様の持っていた剣が俺を呼び寄せ、剣と交換した俺の持っていた杖がそこのアンデッドを呼び寄せたとなるわけか?」

「あぁ……。つまりは次は、杖と交換したこの麦が誰かを呼び寄せるってことなんだが――」


 言って、僕とサタンは同時にため息を吐く。


「そう簡単に見つかるとは思っていなかったが、次もまた混沌様では無さそうだな」


 まぁ、その通りだろう。

 アイツなら、『混沌』って名前か、或いは『レズ』っていう内面として引っかかっていることだろう。予想するとしたら僕は『バスケットボール』じゃないかと思ってる。某大先生の小説に出てくる彼女だ。

 しかしまぁ、そんな予想はついたとしても、今は考えるだけ無駄というもの。今考えるべきは――


「麦に関する奴なんて、あの中にいたっけか……?」


 ――ってことである。

 麦。麦? 麦だ。

 どう考えても、どっからどう見ても麦である。

 手に握った麦の穂をあらゆる角度で見てみたが、やっぱり魔力は感じられないし、色違いや、病気があるっていう線もない。

 なんの捻りもないただの麦だ。


「麦……かぁ」


 麦から名前を考えた暁穂だろうか。

 そう、真っ先に考えついたのが彼女だが、今までの感じから言って髪の色だけでキーアイテムが決められるわけがない。だからこの考えは多分間違ってる。

 となると……誰だ?

 恭香は本って時点で被りようがないし、白夜もドーナツじゃない時点で多分違う。レオンもまた共通点ないし、オリビアは姫と麦は関係ないし、アイギス、マックスは……どうだろうか。なさそうな気もする。

 ネイルはいじめられ体質、悲惨な過去? ハーフエルフ、メガネっ子……あまり関係なさそうな気もする。伽月、藍月も……バハムートにペガサスだろう? ペガサスは元々海皇神ポセイドンの配達係だったと聞くから麦でも運んでたのかとも思うが……アニメとかそういう共通点ではない。

 浦町……マッドサイエンティスト? ならバナナだろう。ゲル状になったバナナだ。或いは電子レンジ。

 エロースは……アニメなんか出てたっけ? 多分出てない気がする。

 ソフィアは論外。

 ミリーは聖女としていろんな作品と関わってそうだが……麦と聖女、なにか関係あっただろうか?


「どうしよう、誰も当てはまらない……」


 思わず頭を抱えてしゃがみこむ。

 まさか、まさかである。

 折れた剣、骸骨様の杖と来て、内心では『もう楽勝じゃん、余裕で次誰来るか分かっちゃうじゃん』的なことを考えていたが、まさかここでアニメ限定アイテムではなくありふれた麦を持ってこられるとは……。


「あークソッ、タダでさえ早く帰りたいのに……」

「……あっ、帰りたいで思い出したが主殿よ! だ、大丈夫なのか!? 今までスルーしたっきり忘れていたのだが!」

「……?」


 輝夜の言葉に思わず首を傾げる。

 大丈夫? 一体何がだろうか?

 そう考えて――ふと、思い出した。

 ――あっ、そういえば僕、輝夜たちに酷いこと言って引きこもってたんだった。

 一瞬にして顔を青く染め上げた僕は、思いっきり頭を下げた。


「わ、悪い輝夜! あの時ひどいこと言っちゃって!」

「あっ、いや別にいいのだぞ! 我らが主殿に負担をかけすぎた結果起きたことだ……、謝るのはこっちの方――」

「いやいやいや、アレは僕が悪いって」

「いやいやいやいや、アレは我が――」

「いやいやいや……」

「いやいやいや……」

「いやいやいやいやうるさいぞ貴様ら……」


 お互いがお互い頭を下げ合っていると、横合いからサタンがため息混じりに言葉の槍を差し込んでくる。


「貴様らの言っていることは良く分からぬが、今優先すべきは混沌様、そして貴様らの仲間を見つけることであろうが。いずれにせよ貴様らの仲間が持っているハズの混沌様のアイテムを手に入れねばあの方とは会えぬのだ。それに――」

「……僕の仲間の方はある程度大丈夫だとは思うが、混沌の方はちょっと早くしないとマズイ、ってか?」


 被せるように言うと、深く頷いて見せたサタン。

 盗み聞きしていたらしいサタンも、僕の『強い能力を持ったものほど弱体化する』という考えに納得していたのだろう。無表情ながらその瞳には焦燥が滲み始めていた。


「それじゃあそろそろ本格的に探索するか。輝夜っていうサタンクラスの戦力も加わったことだしな」

「我的にはもう少し現状を教えて欲しいのだが……」


 言いながらも、右手に握った金色の杖の石突を軽く地面に叩きつける輝夜。

 僕が勇者だとすると、サタンはきっと拳闘士だ。

 そして輝夜は、多分魔法使い。

 なんて言うんだろうな、役職だけ見ればものっすごくファンタジー感満載なのだが、現実を見れば勇者たる僕が一番の雑魚。……考えると少し泣きそうになる。


「……とりあえず、村から出るか。助けてもらって話も聞かずに逃げ出すような人達……、サタンの顔が怖いって言っても失礼にもほどがあるしな」

「おい貴様。今少し本音漏らさなかったか?」

「へ? 気のせいだろ?」


 間違っても顔が怖いなんて言っちゃいないって。

 言いながらもドアノブへと手をかけて――


『ウオオオオオオオオオンッッ!!』


 遠吠えが耳朶を打つと共に、咄嗟に真横へと緊急回避を行った。

 直後、破壊音とともに扉を突き破ってきた狼が僕らの前に姿を現した。


「チッ……、気配察知も落ちぶれたものだな――ッ!」


 言いながらも背中の剣を抜き放つ。

 ゴブリンソードが鈍色の光を放ち、それを見た狼は目に見えて警戒し出す。

 しかしまぁ、それは大きな間違いなわけで。


「サタン!」

「分かっている!」


 直後、狼が僕へと意識を向けた一瞬の隙をついてサタンが肉薄し、その頭部を押さえつける。

 奇襲に対して、咄嗟に生け捕りに出来る程の圧倒的な戦闘センス、味方としてこれ程頼もしい前衛はなかなかいないだろう。

 そして――


「……ふむ。魔力の流れから察するに小屋の外にあと三匹、と言ったところか。主殿よ、うち二匹を倒し、一匹を泳がせる方向で良いか?」

「あぁ、このタイミングでの襲撃……、もしかしたらなにか次の仲間に繋がってるかもしれないしな」


 こちらの後衛も頼もし過ぎる。

 かつてたった一人で大陸を滅ぼしたその戦闘センスに、メインウェポンの鎌こそないが、彼女の魔法のセンスは魔力と威力だけの僕よりもはるかに上だ。

 正しく、最強の前衛と最強の後衛。

 そしてゴブリンと同格の勇者――僕。

 何たるパワーレベリング感。少し罪悪感が湧いてくる。


「ふむ、終わったぞ主殿」


 少しだけ肩を落としていると、外からキャインと悲鳴が二つ聞こえてきて、輝夜がそう声を上げた。どうやら魔法で倒したらしい。


「にしても狼……か。村人が是非とも神の力で村に被害を出す狼の群れを討伐してほしいと言っていたが、村に人がいないのを見て襲いかかってきたか」

「アンデッドよ、貴様はその願いを蔑ろにしてなぜこんな所にいるのだ……」

「だって面倒じゃないか、サタンよ」


 狼の上に座って拘束しているサタンと、つまらなそうに金色の杖を弄ってる――あ、壊した。ワタワタと焦り始めた輝夜。

 なんでこの二人普通に話せてるんだろうか。あと輝夜、お前なんてことやらかしてんだ。

 とりあえず骸骨様の杖ぶっ壊した件についてと、あと村人からの願いガン無視してた件について。輝夜の頬を再度ギチギチと引っ張りながらも狼へと視線を向ける。

 その狼は今になってサタンとの力量差に気が付いたのだろう。身体を震わせながらも、その瞳には諦めという単語を浮かべてはいなかった。

 ……なんだろうこの流れ。どこかで見た気がする。

 そう思った、次の瞬間だった。


 バンッ!


 電気が落ちたかのように世界が暗闇に包まれた。

 気がつけばサタン諸共狼にスポットライトが当たっており、サタンと輝夜の驚いたような声が響く。


「な、なんだこれは――!?」

「主殿! 大丈夫なのかこれは!」


 そんな悲鳴をBGMに。

 どこからか、ナレーションが聞こえてきた。



小説って奥が深いですね。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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