幕間 勇者コメディの大冒険 ④
第二次スランプ期突入しました。
書け無さすぎて死にそうです……。
「だ、大丈夫ですって。この人は顔と見た目と性格と、あと立場が怖いだけで他は怖くないですから」
「ほ、ほほほ、ほぼ怖いじゃないですか……」
言って僕の背後へと隠れる少女。
彼女の視線の先には血塗られた両拳から鮮血を滴らせているサタンが佇んでおり、なんだか彼の佇まいは、少しだけ、泣きそうになっているようにも見えた。
「そ、それにしてもナイスだったぞ、サタン! お前がいなかったら多分この子も僕もやられてただろうしな!」
「……」
無言で返してくるサタン。
たしかに助けておいてめっちゃ怖がられたら結構傷つくんじゃないかとは思うが……。どうしよう、この悪魔、思った以上にガラスのハートの持ち主なのかもしれない。
思いながらもサタンから視線を外すと、背中の彼女へと。
「あ、あの。とりあえず住んでいるところまで送りますよ。さっきみたいにゴブリンが出てきても困るでしょうし……」
「は、はいっ! ありがとうございます!」
とりあえず、これで街なり村なり、人の多く住んでいる場所へ行けるだろう。
人の集まっているところに行けば情報が集まるだろうし、もしかしたら僕りの探している奴らがその場所で見つかる可能性だってある。
「それじゃ、案内だけお願いできますか? 僕達、最近ここに来たばかりでどこに何があるかもわからなくって……」
「あっはい! わかりました!」
言って少女はサタンにビクビクとしながらも歩き出し、それに続いてサタンもまた歩き出す。
その背中は妙に煤けていたが……まぁ、気のせいだったということにしようか。
☆☆☆
途中にあった小川でサタンには返り血を流してもらい、その川から数分もしないうちに、森の中にひっそりと佇む村が見えてきた。
「あっ、ここが私たちの暮らしてる村です! 勇者さまっ!」
なぜ勇者様などと呼ばれているかって?
いや、別に名乗った訳じゃあないんだが、いきなり『私を救うために颯爽と現れてくださったその姿! 正しく魔王シリアスを倒す勇者さまです!』などと言い始めたのだこの子。
――いやね、助けたのサタンなんだよ?
そう言ってやりたかったが、サタンがズーンと顔を伏せて居たので触れるのはやめておいた。
「あーっ! お姉ちゃん帰ってきたー!」
村の方から声が上がった。
見れば村中の人が集まっているんじゃなかろうか、村を囲むように作られた壁の入口には多くの人が集まっており、その中から一人の少年がこちらへと駆け出してくる。
しかし、その刹那。
視界の隅っこ。村人達の中にチラリと、僕から逃げるように駆け出していく金髪が目に入ったが、そこら辺は後々調べるとしよう。なーに、何考えてるかは知らないが逃がしやしないさ。
駆け出しそうになっている少女の背中を押してやると、彼女は嬉しそうにその男の子へと駆け寄ってゆき、お互いに抱きしめあった。
そしてその後から僕らもついて行ったわけだが――
「あ、悪魔だ!」
「ぎゃー! 悪魔よー!!」
「こ、殺されるうううッッ!」
「逃げろー! みんな逃げろー!!」
サタンの姿を見た途端、全ての人たちが逃げ出した。
「あっ、ちょ――」
助けた少女がなにか言おうとしたが、すぐに大人の男性に担がれて運ばれてゆく。
もう最初っからこういう練習してたんじゃないかってくらいの速度で避難は進んでゆき、僕らが硬直している間に、気がつけば村からは人っ子一人いなくなっていた。
「お、おおぅ……」
どうしよう、横見るのが怖い。
とりあえず情報集められなくなったとか、誤解されたまま逃げられてちょっと変な感じするとか。
そういうのよりも、なんだかこっち来てから酷い目にしかあっていないサタンが、ここに来てとんでもない仕打ちにあっていることの方がよっぽど怖い。
――というか、単に可哀想。
「俺は……そこまで怖いだろうか?」
めっちゃ怖いです。
そう、本音を告げることが出来なかった。
「そ、そんなことないぞ! さっきのゴブリンとの戦いの前に言ってたセリフとかめっちゃカッコよかったし! もうさすがサタン、頼りになるーって感じだった!」
ふと、考えた。
なぜ自分は、ここまでして本来ならば敵対しているはずの、準ラスボス級の大悪魔に気を使っているのだろうかと。
そんな準ラスボス級は深くため息をついて天を仰ぐと。
「……もう、人間など助けない」
そう、深く心に誓っていた。
☆☆☆
人っ子一人いなくなった村を散策していると、村の中心部に、つい最近になって急遽作られたような看板が立った、小さな木造の小屋があることに気がついた。
小屋の前に立てられた看板に書かれていたのは。
「『呪いの水晶部屋』……?」
どうしよう、ものすごく入りたくない。
しかし、あと街中で探していないところはここだけ。あの金髪が逃げ込んだとすれば……多分ここだ。
ふと、足音が聞こえて視線を動かすと、僕の目の前の小屋へと訝しげな視線を向けながらこちらへと歩いてくるサタンがいた。
「なんだこの小屋は……。呪いの水晶部屋?」
「ふざけた名前だよな……」
内心でため息を吐きながら、コンコンとドアをノックする。
すると中から。
『迷える子羊よ、我が館へようこそ。用事があるのならばお一人で入りなさ――』
「あ、別に用事とかないんですけど」
と、そんな声が聞こえてきたので咄嗟にそう返す。
ちなみに相手が男か女かはわからない。扉の向こうには変声機のようなものでもあるのだろうか、妙に高い声をしていた。
するとしばらくの沈黙の後、扉一枚挟んだ向こうからわざとらしい咳払いが聞こえてくる。
『ゲホッゴホッ、ンンッ……、用事がなかったとしてもこの中でもしかしたら見つかるやもしれない。よければ寄っていかれてはどうかな?』
との事だったので。
「おいサタン、お呼びだぞ」
「む、俺か」
とりあえずサタンにそんなことを言ってみる。
すると小屋の中からドンガラガッシャンと焦ったような物音が聞こえだし。
『ちょまっ! ちょっと待て! そっちのでかくて強そうな方じゃなくてそっちの黒髪の方だ! 何故そこまでして入りたがろうとしない! 素直に入ればいいだろう!』
「えー、だって面倒くさそうだし……」
というか、中に誰がいるか概ね検討がついているからこそ面倒くさいというのが大きい。
大きなため息一つ、覚悟を決めてそのドアノブへと手をかけた。
『おお! やっと入る気になったかある……じゃなかった、青年よ!』
「今なんか言おうとしてなかった?」
『し、してない!』
焦ったような否定の言葉を受け流しながら、チラリとサタンへと視線を向ける。
「とりあえず近くで待っててくれないか? なんか入らないと先に進まないみたいだし……」
「……ふむ、了承した。それでは俺は人間どもでも捕まえて説教してくるとしよう」
「今近くにいてって言ったの聞いてなかった?」
話も聞かずに遠ざかっていくサタンの背中を見てため息を吐くと、扉を開いて小屋の中へと足を踏み入れた。
☆☆☆
そこは、真っ暗な一室。
光が入らないように黒色のカーテンによって四方の壁は覆われており、背後のドアが誰もいないはずなのにギイぃと独りでにしまってゆくのを感じた。
「ようこそいらっしゃった、お客人よ」
凛とした女性の声が耳朶を打つ。
ボウッと周囲に灯りがつく。
見れば、長方形型の小屋、その四隅にロウソクが立っており、これまた誰もいないのに炎がついていた。
「……魔法?」
ふと、その概念が頭を過ぎる。
ロキはこの世界では力を失うと手紙に書いていたが、サタンは僕ほど弱体化していなかった。これはサタンが単に強いだけなのか、あるいは僕が特殊なのか、どちらかは分からないが……それでも、コイツは魔法を使えている。それだけは確かなことだった。
「さて、そちらの席にお座り願えますかな?」
その声に視線を向ける。そこには黒いローブを羽織り、フードを目深にかぶった一人の人物が椅子に座っていた。
聞き覚えのある透き通るような声。彼女は目の前の机に向かい合うようにして設置された椅子を手袋越しに指さした。
「……はぁ」
言われた通り椅子に腰を下ろす。
チラリとその女性から視線を下ろすと、目の前の机には巨大な水晶が存在しており、暗い空間をぼんやりと青白く照らしていた。
その様子は、まるで――
「お化け屋敷、ですかな。残念ながら、ここは名こそ素晴らしいが、突き詰めればただの占い所兼、相談所だ」
心を読んだような声に思わず顔を上げて――息を飲んだ。
フードに隠れた彼女の顔。
一瞬だけ覗けたそこに存在していたのは――眼窩に青い炎が灯った、骸骨のソレだったから。
「……はぁ」
ため息をひとつ漏らす。
顔を伏せると、小さく彼女へと切り出した。
「一つ言っとくぞ。そろそろその下手な芝居やめろ」
目に見えて体を震わせる骸骨。
まぁ、たしかに『そんな状態にもなれるんだー』と多少ビックリはした。だが、僕らを出迎える際にチラッとだけでも姿を見せてしまったのが運の尽きだ。
「……な、な、何のことか、さっぱり――」
「いいのか? さっさとしないとお前の秘密バラすからな」
ギクリと、彼女は肩を震わせた。
――彼女の秘密。
かつて王国で、僕は白夜やオリビア、浦町の秘密を大暴露した。しかしあんな秘密など所詮は氷山の一角。
「例えば、毎晩毎晩、僕の部屋から消えてゆく下着の件だが、その大半は白夜だけれど、うち幾つかはエロースとうちのアンデッドが持ち帰ってるとか」
「ッッ!?」
突如として挙動不審になり始める骸骨。
ちなみに下着の件だが、盗みが始まってすぐに表立って置いておくのは『新品』の使ってない奴だけにした。そのため二人がこっそりと持ち帰ってたのは普通に買っただけのそこら辺のパンツな訳だ。
しかしまぁ、鬼才白夜にはそんな姑息な技は通じず、僕と裏でパンツ隠しバトルが毎晩のように行われていたのは僕と恭香、白夜の三人しか知らない。
少し前のめりになって机に両手をつく。
緊張に思わず体を硬直させる骸骨の耳元まで顔を寄せると。
「――――――――してるの、バラしていい?」
直後、村中に轟くような絶叫が響き渡った。




