影―073 神天のゼロ
今回はゼロ視点です。
他にマックス視点、(アイギスもやるかも)、オリビア視点、アルファ視点となり、最後にギン視点に戻ります。
今回は戦闘シーン、頑張ってます。
私は、その後ろ姿をしばしの間見つめていた。
――ギン=クラッシュベル。
私が知る最も強い存在であり、未だに背中にも手が届かない高みにいる、私の目標でもある。
(少し、話とかしたかったんだけどな……)
これでも三年ぶりの再会である。
もっと……こう、綺麗になったね、とか。大人っぽくなったね、とか。そういうことを期待した私は馬鹿なのだろうか?
いや、きっと馬鹿なのだろう。あのお兄さんにそんなことを期待した私が馬鹿でした。
と、そう考えていると、私たちの前方十数メートルの所に立っていた彼女が「クハハッ!」と笑みを浮かべた。
「久しいな少女達よ、まさか『敵』として相見えることになるとは思いもしていなかったが、これもまた運命の導きというもの。生憎と今は『手加減』が出来ぬのでな、逃げるのならば今の内だぞ?」
そう言って彼女は「クハハハッ、どうせ我が自由になったとて主殿には勝てぬさ!」と笑った。
執行機関所属――輝夜さん。
確か、リーダーがお兄さん、副リーダーが恭香さん。その下に幹部として白夜さん、輝夜さん、レオンさんが付いており、それぞれに応じた権力が分け与えられている――と、雑誌には書いてあった。ちなみにその雑誌はいつの間にか大陸中から忽然と姿を消していたので、大方嘘ばかりだったのでファンクラブ教祖の全能神様に『消された』のだろうと思う。
と、そんなことを考えている暇はないかな。
私はその舐められきった発言に少しだけ唇を噛み締めると、それを見た両脇の二人が不安そうに声を上げた。
「お、お姉ちゃん……、どうする? あの人ものすごく強そうだよ……?」
「ゼロちゃん……、流石にあの人には勝てないんじゃ……」
アイクとユイちゃん、弱気である。
それもそうだろう。目の前に立っているのは執行機関最高幹部であり、実力的にはNO.3と言われている、あの輝夜さんである。
彼女とは三年前、王都にて会ったとき以来だが――今の彼女から発せられている威圧感は、三年前までの比ではなかった。
――格が違う。
間違いなく私たちが束になったところで勝てやしないだろうし、敗色が濃いのは誰が見ても明らかだろう。
だが――
「……他でもない、お兄さんに頼まれちゃったんだし、しょうがないよねっ!」
私はそう言って、笑った。
三年前、聖国との戦争の際、私はお兄さんの背中を追い続けていた。そして気がついたことがひとつ――彼は、いつも笑って戦っているのだ。
戦闘狂――確かにその気はあるのだろうが、それだけではない気がしてならない。
だからこそ私も真似をして、戦闘時――それも、飛びっきりにキツイ時には笑うようにした。
特に意味はないのかもしれないけれど――けど、不安がっている二人の前で笑ってあげること、それだけでも十分に効果はあるのではないかと思う。
私はスッとアイクへと手を差し出した。
「いくよ、二人とも。この人相手に『出し惜しみ』なんてしていられない」
普段ならば出し惜しんだところで向こうも同じように手を抜いてくれるのだろうが――残念ながら、今の彼女は私たちを殺そうとする、敵である。
私の言葉に覚悟をその瞳に宿してうなずく二人。
ユイちゃんはその背負っていたバックの中から近接戦闘用の篭手を取り出し、そして、アイクは――
「『武具化』っ!」
瞬間、彼の体が輝きだし、その光と化したアイクが私の体を包み込む。
彼の能力は――武具化。
自らの体を武具に変え、対象に装備させるというもの。
最初……、お兄さんに助けてもらった時は、剣になるのが精一杯だったアイクだけれど。
「『神天モード』」
私はそう呟いて、その剣を振って見せた。
私の体には白銀色の鎧が纏われており。それは青色のオーラのようなものを放っていた。
頭には翼をモチーフにしたようなヘルムに、片手には、青色の装飾が施された聖剣が。
――神天モード。
私が『神天』と呼ばれる所以でもあり、私たち姉弟の力を合わせた、正真正銘の本気の姿。
……まぁ、その他にも私には『あの力』があるが、あれは使えば体にも負担がかかる。
「ユイちゃん、準備はいいっ?」
「うんっ!」
チラリと見れば、そこには無骨な篭手を装着したユイちゃんが拳を構えており、それを見た私は輝夜さんへとその視線を向けた。
だが――
「『地獄神化』」
瞬間、彼女の体から膨大な威圧感が溢れる。
「白夜の奴は油断しているようだったが、残念ながら我は油断などせぬぞ? 小童共」
彼女はそう言って口の端を吊り上げると――
「操られているとはいえ、我は執行機関が最高幹部。……そう簡単に、勝てるなどとは思うなよ?」
☆☆☆
彼女は最初に――門を、召喚した。
「『奈落の門』」
その、黒色の金属でできた巨大な門。
それは正しく『奈落』の門のようで、私の頬を冷や汗が伝った。
それを知ってか知らずか、輝夜さんはニヤリと笑うと。
「いでよ、我が同胞たちよ」
ギイイイ――……。
その声に応じてその扉が開く。
そして、その中から現れたのは――
「ご、ゴットオブ・ナイトメア!?」
鑑定持ちのユイちゃんが、その光景を見てそう叫んだ。
――ゴットオブ・ナイトメア。
たしか、輝夜さんの三年前の種族だったかと思う。今の種族がどんなものかは分からないけれど、この光景を見ればそれよりも上の――きっと、不死王とか、そこら辺に落ち着いていることだろう。
なにせ――
「これは……、相手、間違っちゃったかも」
未だあちこちで激戦の音が響き渡っている中。
私は心の中で、確信していた。
――この中で、この人が一番厄介なのだろう、と。
目の前に広がるは――骸骨の群れ。
それら一体一体が奈落の門より無限に這い出るerror級の怪物であり、それらは、今視界に映っているだけでも――かるく、数百体。
さらにその奥からは巨大な足音が聞こえ始めており、目を凝らせば、その門の奥――暗闇の中に、無数の気配が感じられた。
――地獄神。
私は剣を構えると、その厄介さをこう言い表した。
「絶えることのない――不死の軍団」
三年前の輝夜さんでさえ、冥府の門というスキルから魔力をほぼ無限大に回収できていたという。ならばこの奈落の門――間違いなく。それと同様かそれ以上の能力を持っているだろうことが考えられる。
故に、どれだけ魔物を呼び出しても、どれだけ魔法を発動しようとも――彼女に、終わりは訪れない。
永遠に続く攻撃の嵐。
それこそが彼女の強みであり、地獄神たらしめる能力なのだろう。
その様――正しく怪物。
最高幹部でさえこのクラスの怪物なのだ。ならばお兄さんや恭香さんはどれだけ強いのか……、そう考えると……少しだけ寒気する。
けれど、私たちに戦う以外の選択肢がないことくらい、簡単にわかってしまう。
「……行くよ、二人共」
私はそう言って「フゥ」と息を吐くと、その剣の柄を両手で握りしめ、刀身を地面と平行にして頭の横に構えた。
そして――
「フッ――」
隣にいたユイちゃんの姿が――掻き消えた。
正確にはとてつもない速度で駆け出した、というのが正しいのだが、彼女の敏捷値は――多分、全開時のお兄さんのソレにすら匹敵する。
異世界人風に言えば『極振り』というものが当てはまる彼女は、魔族のくせに魔法が使えず、かと言って力がとてつもなく強いというわけでもない。
けれども豪速から放たれるその拳は――そんなデメリットを簡単に上塗りする。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
無数に重なって響くその破壊音。
見れば今の一瞬で十数体のゴットオブ・ナイトメアがその首を跳ねられ、光となって門の向こう側へと戻ってゆく。
流石はカ――じゃなかった、アルファの妹のユイちゃんだ。才能があるとはとてもじゃないが言えないが、その他全ての才能のなさ故に吐出したその才能を、完全に生かしきっている。
ちなみに、アルファのことを昔の名前で呼んでしまうと『その名前カッコ悪いしダサいから呼ぶな!』とか、そう言って拗ねてしまうのだ。こちらからしたらアルファ、とかいう名前の方がダサいと思うのだけれど。
そう思いながらも、私は聖剣の柄を握りしめると――
「一閃――ッ!」
シュンッ!
横薙ぎに一閃したその剣が、一度に数体の骸骨を屠った。
私の剣術は――無限剣術と、そう呼ばれるものらしい。
二年前、未開地の山奥に住んでいる、とあるお爺さんとお婆さんに習った剣術であり、お爺さんの剣の腕前は『斬りたいものだけを斬ることが出来る』との事だった。よく分からないけれど、『鬼』がどうのこうの言っていたが、それについてはあまり覚えていない。
私はそう考えながらも息を吐くと――
「本気で行きます! 覚悟してください!」
私の言葉に、輝夜さんはククッと肩を震わせていた。




