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影―064 獄都

「ギーンせーんぱぁーいっ!」

「あ、どうもお久しぶりです」


 僕は「軽っ! 先輩軽っ!」と言ってくる彼女、リリーを見ながらため息を吐くと、頭にそれぞれたんこぶを作った三人へと視線を向けた。

 リリーともお久しぶりだが、僕にはそれよりもやるべきことがある。

 僕は視線を前へと戻す。

 するとそこには赤髪のメイド、馬鹿力暗殺者、そしてクソイケメン――もとい、アイギス、オリビア、そしてマックスが正座をしていた。


「で? 約束の時間を過ぎてから早数ヶ月。未だに再会のの言葉ひとつ無いどころか、再会早々襲いかかってくるとかどういう了見だ? あァ?」

「そ、その……」

「あーあ、マックスはどうでもいいけどオリビアとアイギスは真面目な、いい子だと思ってたのになー。もう言っとくけどアレだからね? あの場所にふざけてこなかったのお前らだけだからね? レオンとか伽月とかももう皆集まってるからね」

「えっ、他の人た――」

「へぇー、僕のこと疑うんだぁ……。約束破ってこんな破廉恥な国で破廉恥な事してた奴がそんなこと言うんだー」

「は、破廉恥なことなんて――」

「あーあ。僕らお前らを除いた皆で『さぁ、世界に僕達の存在、刻み込もうぜ!』って拳を合わせたのに、その時お前らいなかったんだよなぁ。どーしたもんかなー?」

「そ、それは……、その、もう一」

「もう一度やれ! ……だなんて、流石に言わないよなぁ。自分勝手なことしておいてさぁ? ねぇ?」


 僕の本気の口撃に徐々にぷるぷると震え出す三人。

 見れば三人とも涙目になっており、それを見た恭香が本の状態から人化して姿を現した。


「もう、そこら辺で止めときなよ……」


 どうやら僕を止めようと出てきたらしい。

 それには三人とも、まるで女神を見たような、そんな希望に溢れたキラッキラした視線を送ったが――けれども。


「この三人が空気も読めないバカだって、ギンだって分かってたでしょ?」


 その悪魔のような笑みを見て、三人は瞳から光を失わせた。

 そう、初めからここにこの三人の味方など一人たりとも連れてきてはいないのだ。

 白夜やエロースから、最初の約束の場所に居たため連れてきてもよかったのだが、二人だと途中で『も、もういいんじゃない(かの)?』と言い出しかねない。

 ――ので、僕と恭香がここに来たのだ。

 僕らは『ククッ』と笑い合うと。


「「さぁ、説教タ〜イムっ」」


 それこそ悪魔よりも悪魔のような顔で、そう言った。




 ☆☆☆




 数分後。

 そこには真っ白に燃え尽きた死体が三つ、転がっていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

「ごめんなさい……、ごめんなさい……」

「すいませんでしたもうしません、すいませ――」


 それらの光景に僕は満足すると、改めてリリーのいる方向へと視線を向けた。

 ちなみに場所は謁見の間である。今のおそらく人類史上最もキツかったであろう説教野次馬として集まっている貴族達にはもちろん、今頬をひきつらせている大臣、果てはリリーや国王にまで見られていたということになる。

 けれど、僕のクランの痴態など今までに数しれないほどに公になっている。今更なにか新しい噂を広めたところで僕らの評判が変わるわけでもなし。

 その上――


「ちなみに、僕ってあのイエスギン教の総司令官みたいな立場でして。裏でこそっと伝えたらあの狂人たちのことです。僕の命令を無視してどんなことをやらかすか――」

「わ、わかった! 今の光景を今すぐに忘れると神に誓おう! な、お前らもな! ほら頷いとけ!」


 さすがは頭のいい国王様だ。

 僕が言外になんと言おうとしているのかをすぐに察したのだろう。彼は咄嗟にそんなことを宣言し、周囲の貴族達もその危険性を察したのか首が取れるんじゃないかという速度で首肯してくれている。かつてのエルメスのクソ貴族達と比べると何たる神対応だ。


「神対応っていうか、その、彼らの存在が切り札すぎるだけなんじゃ……」


 まぁそういう考え方もあるわな。

 僕自身、あいつらの名前だしたらだいたいどんな交渉も上手くいくのではないかと思ってる。

 と、そんなことを考えていると、落ち着いた様子の国王様が改めて僕へと口を開いた。


「数々の無礼、お許し頂きたい、執行者殿。お主が我が可愛い可愛い娘を誑かした報いだと思って、お互い水に流しましょうぞ」

「……は? どこのエセビッチを誑かしたって? 全く記憶にないんですけど」

「……チッ、このエロガキが……」


 今ちょっと聞こえちゃいけない心の声が聞こえてきたような気もしたが、顔を真っ赤にしたリリーに頭ぶたれてるからよしとしよう。ざまぁみろ名も知らぬ国王。

 すると今度は国王に変わり、リリーが声を上げ始めた。


「えっと、先輩にちょっかいを出させてもらった理由は、単純にその実力の程を私たちがあまり知らなかった、という理由からです。たまたまうちの国に滞在してくれてたそこの三人の先輩方は、そりゃ一人で国軍を倒しちゃうくらいには強かったんですが……」


 あの先輩なら……弱いかもな。

 なーんて、思っちゃったんだろうかこのエセビッチは。

 そんなエセビッチことリリーは『ふむ』と満足げに頷くと、自信満々にこう言ってのけた。


「ですがッ、さすがは私の未来のお婿さんです! 私が期待してた数百倍くらい強かったです! とりあえず何起こってるのかわからない間に終わってた感じですねー」

「おい、お前ディーン君の尻追っかけてなかったか?」

「あー、あの人ですか……。あの人は……その、なんだか知らない間に婚約してたんで、諦めました」


 おい、なんだよそれ。

 好きな男の子が知らない間に幼なじみとくっついてたから、その関係を壊したくないのもあって諦めたけれど、けれども本音を言えば全然諦めきれてない――みたいな女の子の顔やめろよ。こっちが悲しくなってくるだろうが。

 なんだかそういって寂寥感を抱いていると、コホンコホンとわざとらしく咳をした国王が再び話し始めた。


「という訳だ、この期に及んで我が娘を誑かそうとしているエロガキよ。お主に我らから一つ、依頼をしたい」

「おい、いつまで経っても子離れできてないクソジジイ、いい加減僕がそいつのこと好きみたいな勘違いやめてくれない? そろそろ吐きそうなんだけど」

「はっ、吐きそう!? それは酷くないですか!?」


 確かに今の『吐きそう』は盛らせてもらったが、正直あのストーカーならばまだしも、リリーとくっつくなんて考えたこともない話であった。……いや、よく考えたらあのストーカーも無いな。あの別れ際がフラグっぽかった気もするけど……うん、絶対ない。

 と、そう考えていると――


「なんだとこのクソガキが! 我の可愛い可愛いリリーちゃんに魅力がないとでも言うのか! そこはすいませんでした出過ぎた真似をして、また思わず惚れちゃうかもしれないですけど許してください、だろうが!」

「めんどくせぇ! アンタ今まで会ってきた国王の中で一番めんどくせぇ!」


 正確には『娘を取られかけてる(と誤解している)父親』というのが面倒くさい。和の国の国王然り、この国の国王然り。

 ……よく考えたら、恭香たちって母親はいるけれど父親っていないんだもんな……。


(私は違うけど、保護者っていう意味合いならギンがそれに当たるのかもしれないね)


 いやお前も同じもんだろ。

 そう考えながらもげしげし蹴りつけてくる恭香から逃げていると、今度こそ真面目な雰囲気になるのだろうか、彼女らの近くに立っていた大臣らしいおじさんがわざとらしい咳をした。


「そろそろ宜しいですかな、現状、子離れできないクソや……失礼、国王様に付き合っているお時間はありませんので」

「あれっ、今お前クソ野郎って言おうとしなかった? 国王に向かってクソ野郎って言おうとしなかった?」


 国王がそんなことを言ってきてはいたが、いい加減疲れた僕らは完全に無視を決め込むと、その様子を見た大臣は少しだけ安堵し、けれどもその裏に隠せぬ疲労と焦燥を浮かべながら。


「執行者殿、我らに協力していだきたく願います……」


 そこまでガチで言われると、なかなか首を横に振れない僕であった。




 ☆☆☆




 ――僕への依頼。

 その内容を端的に言うなれば――潜入捜査だった。

 どこに潜入するのか、と聞かれればこの王都について話をせねばならなくなる。

 この王都には表――つまりはこうして他の国と比べても何ら大差のない綺麗な面と、そして到底表には出せない裏の面があるのだという話である。

 そして、僕に潜入して内情を探って欲しいというのがその『裏』の面。

 その裏面――通称『獄都』。

 そこは大陸中の『無法』という『無法』を寄せ集めたような街であり、それについてはこの大陸に存在する権力者ならば誰もが知っている程に有名なものらしいのだが、そのあまりにも膨れ上がりすぎた『無法』の前に、誰もが見て見ぬふりをし続けてきたのだとか。

 そうして見て見ぬふりをし続けてきて、こうした問題が起こってしまった。


 薬物名――グロルハート。


 その薬物が『表』で取引されているのならば確実に『使い』の目につき、その情報は国王の元まで流れてくるらしい。そう言っても過言ではないほどにこの国の情報網は凄まじいとのことだった。

 けれども未だに情報の一つも手に入っていないとなると、その取引場所も決まってくるというもので……。


「ここが、獄都、かぁ……」


 僕はそう言って、その街を見渡した。

 街――そう呼ぶにはあまりにも薄暗い雰囲気を発しており、それでいてピンク色の光が目にチカチカと突き刺さってくる。

 空へと視線を向ければ、そこに広がっているのは青空ではなく岩の天井。

 僕はパチンと指を鳴らすと、一瞬にして姿が紺髪黒目の地味な青年へと変身し、服も一般的なものへと変わっていった。

 そんな中、僕は改めてその街を見渡して、こう言った。



「農国ガーネット、その地下空間に存在する巨大国家――獄都。世界中の『闇』がのさばる無法空間。……これまた、創作のしがいのある空間だこと」



 いつか言った気もするが、改めて言うとしよう。


 ――今回の件は、かなり面倒なことになりそうである。

スケールが大きくなってきました。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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