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影―040 責任

これで今回の章の本編は終了です。

影編も残すところあと三章となりました。

 その話を聞いて、僕は思わず嘆息した。

 僕の抱いた感想は、『結局エルフ共が悪いだけじゃないか』といったところだが。


「エルザ、その国王って……」

「……ええ、長老とあのエルフリーダーという男の手によって、既に暗殺されていました。姫様には『難病の療養中で会うことが出来ない』と知らせていたと、先ほどの長老が吐いてくれましたよ」


 なるほど。

 どうりでここまで騒いで国王の一人や二人、それどころか大臣や宰相なんかも出てこないと思ったよ。

 全員が裏で暗殺されていた、そう考えると全て辻褄が合う。

 もちろん、ネイルがいじめられていた理由にも。


「私が契約を結んだのはあの王様とだけです。あの人のことですから、絶対に私のことは裏切らないと、そう思っていたのですが……こんな抜け道もあったのですね」

「まさか王様が殺害されるとは思わないわな」


 しかも、その死が隠蔽されるなど思ってもいなかっただろう。

 隠蔽に長けた彼女が、最も隠蔽というものに踊らされた形になる今回の件。

 僕は彼女へとなんと声をかけようか迷いながらも視線をそちらへと向け――その儚げで、悲しげな笑顔を見て目を細めた。


「おいエルザ……、お前、まさかとは思うけど、こんな自分に今更娘に会う権利なんてない、だなんて思ってないだろうな?」

「――ッッ!?」


 僕の言葉に目を見えて身を固くするエルザ。

 彼女は困ったように、それでいて泣きそうな顔で視線をこちらへと向ける。


「まぁ、今回の件で最も悪いのはエルフ共だ。それは誰がなんと言おうと変わらない――けど。だからといってネイルを置き去りにしたお前の罪が消えるわけじゃない。こうなることを想像出来なかった、だなんてただの言い訳だし、それで罪が軽くなるわけでもない」

「……そう、ですね」


 僕の言葉に、エルザはそう呟き顔を伏せた。

 よく考えたらキスした相手の母親に向かって説教している形になるが……、まぁ、最低限言うことだけは言わせてもらおう。


「だけどさ」


 そう言って僕は彼女の肩をガシッと掴んだ。


「親がどんなに罪を背負ってて、子供にどんな酷いことをしたのかなんて、子供からしたら関係ないんだよ。子供(ネイル)にとって母親(アンタ)は唯一で、何よりも大切なんだ……。大好きなんだ。だから、会う資格がないだなんて言うなよ。親が子に会う資格なんて要るもんか」


 その言葉にエルザはガバッと顔を上げる。

 その目尻には涙が浮かんでおり、少しエルザルートに入ってしまいそうな気がした僕は、頬を緩めながら隣へと体ごと移動した。

 それに困惑したようなエルザだったが、直後。僕の背後に生えていたその木の幹から顔を出していた彼女の姿を見て、思いきり目を見開いた。


「ね、ネイル……?」


 その言葉に、僕らの会話を覗き見していたネイルはビクッと震えて木の後ろ側へと隠れてしまった。

 けれどもすぐにちょいっと顔を出すと、その赤く染まった頬をかきながら、ポツリとその名を呼んだ。


「お、お母さん、だよね?」

「ネイル……」


 気がつけばエルザはフラフラとネイルの方へと向かって行っており、僕は彼女とすれ違った際、原始魔法を使って彼女へとへばりついた血液を取り除く。

 親子の再会に、そんなものは不要だろうから。


「お、お母さん……!」

「ネイルっ!」


 その、二人の感極まったような声を聞いた僕は、邪魔しないようにと位置変換で宿のそばまで戻ってきた。

 空を見上げれば満天の星空にぽっかりと大きな満月が浮かんでおり、先程まで響いていた絶叫はもう聞こえない。

 普段とはちょっと違う、それでいてある親子にとっては確実に違う夜。

 僕は「ほぅ」と少し息を吐くと。


「家族……か」


 僕は自分の両親を思い出して苦笑すると、泊まっている宿の方へと歩き出した。




 ☆☆☆




 その翌日。

 僕は朝早くから、現時点における最高権力者――つまりは姫たるリーアの所へと訪れていた。

 ちなみにだが、彼女には再教育は施していない。

 それは便利な種族になるためには、ある程度常識の持った上層部が必要だと知っているから。

 でなければ――


「おやおや、これはギン様、朝早くからご苦労様です。昨夜はいい感じに新たな選択肢(ルート)を開拓し――」

「次に覗き見したら教団を解散しろ。これ命令な」

「――ッッ!? わ、分かりました……」


 そう、こんな奴になってしまいかねない。

 生憎と『解散』という言葉に弱い彼らなので安心だが、エルフにはこいつらよりも扱いやすい存在へとなってもらいたい。極論を言うと正直自我とか要らないからさ。

 と、そんなことを話していると、彼女――リーアは苦笑いを浮かべながらこちらへと話しかけてきた。


「して、一体何の用ですかギン様。もしや私たちにこれ以上何かを捨てろと申すのですか?」

「いや、もう流石に捨てるものないでしょ」


 そう答えて思い出すのは外での風景。

 涙と鼻水を垂らしながら這う這うの体で逃げ出すエルフたちと、それを生暖かい瞳で見守り、いい感じに脱走できたと見るや回収しに行く教徒たち。あの一連の繰り返しにはもはやイケメンにすら同情するわ。我ながら恐ろしい連中を呼んでしまったものだ。

 そんなことを思いながらも、僕は――


「今日は、もう一つの秘宝を使いに来た」

「んなっ!?」


 僕の言葉に、リーアは思った以上に驚きを見せた。

 それもそのはず。


「何を仰るのですか!? あの秘宝はかつて『神王ウラノス』とやらが作り上げた至高にして最悪の魔導具! 流石の貴方とはいえアレを使って無事でいられるはずがありません!」

「まぁ……、だろうな」


 そう呟いて思い出すは、かつて父さんに言われたその言葉。


『一ついいことを教えてしんぜよう! 実はあの大陸の森国って所に僕が作った最高傑作の魔導具が存在していてね。今は裏の秘宝ってことで隠されてるみたいだけど――それはそれだけあの魔導具を恐れてる、って言うことでもあるんだ』


 そう言って彼女が告げたその言葉は、かつて父さんが言った言葉とほとんどが合致していた。


「あの魔導具の名は『守護霊の宝玉』。使用した本人を守護霊としてその場に定着させるという、封印以外の目的ではあまり使い道がなく、それでいてかなり悪質なその能力! 流石のギン様でも扱いきれませんよ!」


 そりゃそうだ。

 何せ全盛期――つまりは今の混沌と同格か、あるいはそれ以上だった頃の父さんの、それまた最高傑作とやらだ。

 今の僕が逆らえるほど、その魔導具の力は弱くない。

 けれども――


「だからって言って何の責任も取らないわけにはいかないだろう。お前らが全部悪いのは誰が見ても明らかだが、そいつらを洗脳して、一時的にでも使い物にならなくしてるのは他ならぬこの僕だ。その責任から逃れるわけにはいかないさ」


 そう、極論をいえば全部コイツらが悪いのだ。

 けれども、それとこれとは話が別。一番の被害を被ったネイルが『さぁ!全員を洗脳して私の配下とするのですッ!』と言ったわけでもあるまいし、ましてや僕を投獄しただけでここまでさせるわけにも行かない。

 故に、あの多数決もこの再教育も僕の私情によって行われたことであり、だからこそ責任は僕に重くのしかかる。


「で、ですが……」


 未だ納得していなさそうなリーア。

 僕はその様子を見て頬を緩めると。


「それと姫様、最初はあんな酷いこと言って悪かったな。アンタ、話してみると結構優しい人だった」

「なっ!?い、いきなり何を言うのですか!?」


 瞬間、頬を赤らめて照れ始める姫様。やばい、ちょっと可愛い。

 僕はコホンコホンと数度わざとらしい咳をすると、パチンと指を鳴らした。

 直後、僕の座っていた席の隣に魔法陣が展開され、見覚えのあるピンク色の髪野郎――影機王が召喚される。

 そして、他でも無いコイツに抱えられて避難させられた姫様は、思いっきり頬を引き攣らせた。


「僕の代わりにコイツを――」

「嫌です。責任はご自分でお取りになってはいかがですか」


 即答だった。

 それにはお隣の影機王もガクリと肩を落とし、『俺っち、頑張ってお姫様守ったんだけどなぁ……』というふうに落ち込みはじめた。

 そして、その背中をさすりながらも姫様へとジト目を送る僕。


「なーかした、なーかしたー。姫様が僕の眷属を泣かしたぞー。なんてこったい。流石はパッと見ドSのエルフ様だー」

「う、ぐぐっ……」


 僕の言葉に歯を食いしばる姫様。

 けれどもまぁ、僕としても冗談がすぎたかもしれないな。

 僕はその背中から手を退けると再び席へと腰を下ろした。


「今回影機王を守護霊にようと思ったのは幾つか理由があるが、その最たる理由が、この影機王は僕に追随する知性を持っているから、というものだ」


 その言葉に、伊達に僕とデュ○ルした訳ではない姫様は目を見開いた。

 僕が影機王を創るに当たって最も最初に考えたことは、もしもの時に僕の代わりとして役目を果たせるような、そんな僕にも匹敵する知能を授けようと。そういう事だった。

 故に他の三体と比べても体格もステータスも劣っているわけだが、けれどもその知性は驚嘆に値する程である。


「本当は影分身で代用してやりたいんだが、多分その場合は僕の一部と見なされて僕ごと封印されるからな。僕と同等の知性を持ち、僕との意思疎通がいつでも可能なコイツ――つまりは影機王をお前らの護衛につかせたいと思う」


 全く自分で責任を取ると言っておいて恥ずかしい限りだが、僕がこの場所にいたら、きっと港国のクソ共がいつまで経ってもここを去ろうとしないだろう。

 逆に影機王だけならば、きっと新たな勧誘の方が重要だと、この神父ならそう考えるに違いない。

 そう考えながらもチラリと視線をそちらへと向けると、目に見えて残念そうな顔の神父が座っていた。やっぱりな。

 対して、僕のその言葉に「はぁ」と小さく息をついた姫様――いや、リーアは頬を緩めて僕へと手を差し出してきた。

 のだが――



「ありがとうございます、ギン様。その眷属の方には、避難の際にドサクサに紛れて身体をまさぐられた過去がありますが、それらは全て水に流して協力していきたいと思います」



 僕は、逃げようとしている影機王へと拳骨をぶちかました。



次回からは閑話と、記録、そして――

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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