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影―017 新たな力

蠍、竜、人形、鬼、そして骸骨。さて、この組み合わせってなーんだ?

 僕はスッと地面へと降り立つと、背中の翼を元に戻した。

 場所は壊れた防壁側に位置する街を出てすぐの草原。

 視線の先にはシュゥゥゥと身体から蒸気をあげて地に伏しているルシファーがおり、先ほどのアレがかなり効いたのか、その身体中は傍から見てもボロボロだ。


「グッ……ぐぁっ……、こ、このッ、蚊虫めが――」


 彼はそう言ってボロボロの腕を使ってなんとか立ち上がると、僕の方をキッと睨み据えてきた。

 その瞳は憎悪に燃えており、それは並の人間ならそれだけで射殺せるだろうと思えるほどには鋭く――僕からすれば、負け犬の悪足掻きのようにしか見えなかった。


「いやぁ、下手に力をつけたら傲慢になって困るね」


 僕もお前も。

 僕は内心でそう呟くと、アダマスの大鎌をルシファーへとスっと向けた。


「だから、そろそろ終わらせようか」


 ――傲慢になれば失敗する。

 そんなことは何度も何度もこの身で味わってきた。

 だからこそ、傲慢になりそうな時ほど冷静に、常に相手へと細心の注意を払いながら挑発し続け、その上で確実に――敵を討ち滅ぼす必要がある。

 特に、この男の場合は。


「逃げられるとは思うなよルシファー。こちとらまだ力をセーブしてるんだ。お前が逃げ出そうと、ステータスを上げようと、お前に勝ち目は一片たりともありはしない」


 僕は淡々とそう告げる。

 対してルシファーはギリッと歯を食いしばるが、すぐにニヤリと顔に嘲笑を浮かべた。

 そして――


「グッ、クハハハハッ……、ハッ! 貴様は勘違いしておるな? なにも今日この場に来たのは俺だけではない――ッ!」


 瞬間、ルシファーの背後に巨大な魔法陣が生み出され、それと同時に膨大な魔力が溢れ出す。

 ――もしやまた混沌を呼ぶ気か!?

 その大きさから思わずそう身構えた僕ではあったが、けれどもその光がやんだ先にいたのは――


「こ、これは……ッ」


 視界一面に広がる魔物の群れ。

 それら全てが『SSS』ランク以上の怪物で、中にはerror級の怪物の姿まで見て取れる。

 その上――


「主人様よ! 今先程察知したが海の方からとんでもない数の魔物達が押し寄せておる! 少し手を貸し……ては、くれなさそうだな……」


 僕の傍に駆け寄って来たのはソフィア。

 彼女は確か海が珍しいということで港から海を眺めに行ったはずだが――まさかそれが幸いするとは。人生わからないもんだな。


「ソフィア、その魔物達の群れは……」

「申し訳ないが、余一人ではちとキツイな。何せ相手は海の中じゃ。余はどれだけ強かろうがあくまでも森の神であり、どちらかと言うとサポート系じゃ。あれほどの数、海の中で倒しきるなど……」


 うぐ……、確かにそう言われればそうだな。

 結界といい森の創造といい、かなり印象的だったからそう捉えていた面もあったが、彼女はあくまでも戦闘の補助をするためのサポーターであり、攻撃系の能力はほとんどと言っていいほど持ち合わせていない。

 たしかにそんな彼女に、よりにもよって海を任せるわけには行かない。

 まぁ、それに関しては暁穂も同じこと。狼の姿になれば水中戦など毛皮が水を吸って出来やしないだろう。

 ならば残るは三人だが――


「あぁ、あの三人か……。なら大丈夫っぽいな」


 思い出すは、黒髪幼女と白髪幼女。そしてあの物理的にフワフワとしているポンコツ女神。

 僕は安堵の息をつくと、ソフィアへと向かって口を開く。


「ソフィアは暁穂と協力して街の住民の避難……は要らないと思うから、みんなをなるべく落ち着かせてくれ。軽く木々を増やしてアロマセラピー……とか出来るか?」

「ぬ? 街中に多少木々を増やしてマイナスイオンとやらを出すことを可能だが……あまりやり過ぎるとネイルに怒られるのだ」

「あー、ならあれだ。ネイルとミリーも連れて三人で行動してくれればいい。護衛も兼ねてさ」

「ほう! それは名案だ! 了解したぞ主人様!」


 そう言ってソフィアは踵を返して走り出す。

 ――その前に僕の方を振り返ると、心配そうに口を開いた。


「というか、こちらの方がやばそうだが――余も手伝」

「ソフィア」


 その言葉に被せるように僕は彼女の名前を呼ぶと、頬を緩めて彼女へと視線を向ける。

 彼女は目を見開いて僕を見つめる。


「別に独りで戦いたいとか、ルシファーに恨みがあるとか、傲慢になってるとか。別にそういうのじゃなくてさ」


 僕はそう言って視線を前へと向ける。

 そこにはニタニタと傲慢な笑みを浮かべているルシファーと、その背後に広がる魔物の軍勢。

 僕は空を見上げる。

 太陽はもう既に地平線の彼方へと沈んでおり、それを見た僕はポツリとこう呟いた。


「夜……だな」


 ――夜。

 そう、夜だ。

 まぁ、僕もこの状況下、これが昼間に来ていたら少しは焦ったかもしれない。

 けれどもこれもメフィストの策略か、ルシファーが姿を現したのはかなり日の沈んだ夕暮れ時。さすれば戦っているうちに夜になるのは自明の理だろう。


「実はさ。僕いま『影魔法』のスキル無いんだよね」


 僕はそう呟いた。

 影魔法――僕の、執行者の代名詞。

 それが使えないという言葉にソフィアは目を見開いたが――次の瞬間、僕の身体中から溢れ出したのその魔力に、目を見開いた。



「『絶影魔法(・・・・)』」



 瞬間、僕の周囲を影が包み込み、それが次第に広がってゆく。

 その影は僕とその魔物達の軍勢の間全てを埋め尽くし、次の瞬間、その影が一瞬にして霧散する。


「「――ッッ!?」」


 その光景に目を見開くソフィアとルシファー。

 そこに居たのは――草原を埋め尽くす鬼の軍勢。

 それら全てが僕へと跪いており、僕は久しぶりに使ったその能力の名前を思い出す。


「『百魔夜業』――百鬼夜行と同じように夜しか使えないっていう欠点はあるけど、その強さは一線を画す。その鬼一体一体が文字通りの『一騎当千』」


 僕はそう言ってククッと嗤うと、


「だから言ったろう。お前に勝ち目なんてハナからないんだよ」


 そう、ルシファーへと『現実』というものを教えてやった。




 ☆☆☆




 十数分後。

 ルシファーは額から吹き出してくる玉のような汗を裾で拭った。

 一目でわかった――あの鬼の群れの脅威を。

 間違いなくその一体一体がEXランクの怪物であり、それを証明するのがこの現状であろう。

 ルシファーは周囲を見渡す。

 そこには靄となって消え去ってゆく息絶えた鬼の死体と、それに比べて少しだけ数の少ないこちらの魔物達の死体。

 それは単に途中からルシファーが加わったからという理由からだが、もしそうしていなければ……。

 そう考えると背筋が寒くなる。


「あー……、負けちゃったか」


 彼はそう呟いていたガクッと肩を落とした。

 先ほどの鬼の群れ。それをひと手間で作り出せるその男を、彼は心のどこかで恐怖した。

 けれども彼の『傲慢』はそれを許しはしない


(な、何を馬鹿なッ! 相手はかつて俺を恐怖に塗れた瞳で見上げていたタダの蚊虫! そんな雑魚に何を弱気になっている!)


 彼は半ば強引にそう思い込む。

 思い出すは、かつて単なる気まぐれから襲った闘技場。

 その場所にいたその他大勢のうちの一人。それがあの男――ギン=クラッシュベルという存在であり、間違っても苦戦していいような相手ではないのだ。


「そうだ! 俺は貴様よりも格上だ! ならば何を恐れる必要がある? 貴様は鬼をすべて召喚し尽くしたようだが未だにこちらには数多くの魔物達が残っている! この場は俺の圧倒的有利!」


 瞬間、彼の身体を纏う魔力が膨れ上がり、それを実感したルシファーはニヤリと笑みを浮かべた。


「そうだ、俺は傲慢の罪、大悪魔序列五位のルシファー! 傲慢でなければ俺ではない! 否! 俺こそが傲慢そのもの! なればこそ、このスキルがある以上俺に敗北はない!」


 スキル――傲慢の罪。

 それは傲慢であればあるほどに能力が上がる。しかもその使用者は傲慢そのものだ。ならば何を恐れる必要がある?

 ――否、そんなものは存在しない。

 ルシファーはそう断言すると、ニヒィとその口の端を引き上げた。


「さあ蚊虫よ! 今までの愚行を謝るならば今だぞ! 無礼を働き申し訳ありませんでした、私は生きていることが罪です、と! そう土下座するならば今だ! 地べたに這いづくばり、俺という圧倒的な強者の前にひれ伏すがいいわ!」


 それを聞いたギンは思わず顔を伏せる。

 それを見たルシファーはいい気になると、さらに傲慢を積み重ねてゆく。


「フハハハハッ! どうやら貴様も俺との実力差に気がついたようだな! 圧倒的な溝を前に愕然としているようだ、嗚呼、あれほどまでに調子に乗っていた姿はどこへと消えた!? 愚かしすぎて失笑しか浮かばんぞ蚊虫めが!」


 そう、彼は爆笑した。

 正確には爆笑ならぬ『爆嗤』なのだが。

 その言葉に更に彼のステータスは強化され、そして――



「くっ、くくっ、ぷすっ……あ、いや悪い。ちょっと嗤うの我慢しようと思ってたんだけど……ぐっ、そこに追い討ちでとんでもないことぶっ込んできたから……ちょ、腹痛い、マジで何言ってんのお前……」



 彼は、それ以上に爆笑していた。

 その姿にルシファーは愕然としたが、次の瞬間、彼の口から発せられた言葉に目を見開くこととなる。


「うーん、じゃあもっと力上げても大丈夫、ってことだよな?」

「…………は?」


 意味が、理解出来なかった。

 脳がその言葉に追いつけない――否、追いつくことを拒否している。これ以上、自分に悪夢を見せないでくれ、と。

 けれども本能だけは誤魔化すことが出来なかったのだろう。ルシファーはまさかと言ったふうに口を開く。


「ま、まさか貴様……、あれは従魔ではなく召喚獣の類だったとでも言うのか!? しかもアレで力を抑えていただと!?」

「……何言ってるのかは分からないけど、まぁ、本気で魔力込めればerror級一歩手前ぐらいまでは行けるんじゃないのかな。やったことないしやるつもりもないけど」


 ――だるいし。


 彼はいけしゃあしゃあとそう言ってのけた。

 やるつもりが無い? だるい?

 その言葉に思わずルシファーは目を見開いて固まってしまったが、直後、先ほどのソレよりも遥かに莫大な魔力が吹き荒れた。


「今ので随分と疲労したようだが……次のコレには耐えられるかな?」


 瞬間、先ほどと同じ影が草原を覆い尽くし、それと同時に先程と同規模の数多くの気配――そして、四つの巨大な気配が現れた。


「ここで一つなぞなぞです。蠍、竜、人形、鬼、そして骸骨。さて、この組み合わせってなーんだ?」


 その影の中から彼がテクテクと歩いて進み出てくる。

 けれどもルシファーの視線は彼へは向いておらず、その真っ暗な影の中。その中に蠢く四つの影を、目を限界まで見開いて見つめていた。

 それを見た彼はニヤリと笑を浮かべると――



「正解は、僕が戦ってきた中で一番強かった――最初の五体だ」



 瞬間、影が晴れる。

 その光景を見たルシファーは愕然とした。

 先程よりも数を増やした『鬼』。

 黒い影を纏った巨大な『蠍』。

 赤い瞳を爛々と輝かせる影を纏った『竜』。

 影を纏った黒い鎧に身を包んだ長髪の『人形』。

 そして――カタカタと嗤う、巨大な黒い『骸骨』。

 それは、彼の記憶に残っている最初の強敵たち。


 まず、蠍と戦った。

 次に、黒竜と戦った。

 次に、髪の長い人形と戦った。

 次に、赤い鬼と相対した。

 そして、それらを操る、骸骨と戦った。


 彼らはどれもが自分よりも遥かに格上だった。

 あれほどまでに強く、何よりも印象に残った『敵』は無く、新たな『影の眷属』を作り出す際、彼は迷うことなくその四体を作り上げた。


「影蠍王、影竜王、影機王――そして、影骨王」


 彼はそれぞれの名前を呼ぶ。

 まるでそれらに呼応するかのように彼らは咆哮を上げ、その最前線に立つ彼は――



「これが僕の新しい力――『影の軍勢(オンブラズ・アルマ)』だ」



 そう言って、ニヤリと笑って見せた。

チート! チートやチーターや!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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