表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
番外編 声と扉
341/671

番外08 ヴァンパイア

 氷魔の王。

 かつてグレイスはそう呼ばれ、伝説にまでなった。

 と言ってもそれは今でも同じことであり、伝説をよく知る者たちは、グレイスが学園長を休業したと聞いて件の伝説について思い返していた。


 曰く、拳を振れば山が凍りつき、魔法を放てば海が凍る。


 けれども彼女に許された魔法はたったの二つ(・・)のみ。言うなれば最強の単体攻撃と、最強の範囲攻撃。その二つだけだ。

 だがしかし、それらはあまりにも強すぎた。

 error級でさえ一撃で沈み、Deus級でさえその魔法の発動は全力で阻止しにかかる。

 間違いなく星の寿命を削りにかかっているそれらの魔法を、彼女は『超殲滅魔法』と名付け、学園長に就任すると同時にそれらの魔法を封印することに決めた。

 けれど、もしも将来、それらを使わねばならない時が来るかもしれない。だからこそ彼女はそれらの封印を解除するための条件を設けた。


 そのルールは単純にして明快。



「ワシに、守るべき存在ができた時」



 グレイスはそうつぶやくと同時に思い出す。

 一ヶ月と少し前、学園へと再び訪れたあの男のことを。


『少し強すぎる能力が幾つか増えちゃってな。今日は僕が使ってた霊具レベルリセッターを買いに来た』


 彼はそう、グレイスへと告げた。

 その時の彼を表すならば、一言──強くなっていた。それ以外は思い至らない。

 それもあの時スクリーンで見た時よりも遥かに。それこそグレイスが危ういと感じてしまうほどには。

 それほどまでに彼は強くなっており、スクリーンで見た時の彼を目標にしている久瀬たちを見たときは、それはそれは『可哀想に』と思ってしまった。

 だからこそ思う。自分が守らなくても、この大悪魔が今の彼に遭遇すれば『根源化』とやらを使う暇もなく死に絶えるであろう。


 ──けれども師匠は時に、弟子へとその背中を誇りたいものだ。


「どうせ、どこかで見ているのであろう!」


 その言葉には答えはなかった。

 けれども彼女の脳裏には、気配を隠してこちらを眺めてている彼の姿が浮かんでおり、その顔には見覚えのある笑みが浮かんでいた。

 それはグレイスの想像でしかない。

 けれども彼女は、どこかで見ているに違いない彼へと向けて──その言葉を送る。



「とくと刮目しろ! これがワシのッ! 全身全霊だ!」



 こうして彼女は、自らに強いていたその封印を──解除した。




 ☆☆☆




 瞬間、彼女を中心として魔力の奔流が吹き荒れ、それを見たドナルドは考えるよりも先に行動し始めた。


「『錬金術・強化水晶』ッ」


 瞬間、久瀬たちの前方に水晶の壁が大地から突き上がり、それと同時に吹き付けてきた、その冷気を纏う魔力。

 ──間一髪。

 見れば今完成したばかりの強化水晶の表面には氷が張り始めており、次第に向こう側が見えなくなってゆく。

 あまりにも多くの情報量。久瀬はそれらの現状に目を回しながらもドナルドへと視線を向ける。


「ど、ドナルドさん……こ、これって」

「まぁ安心してみてろよ。グレイスが封印を解除する程に本気になったんだ。今するべきは、グレイスが魔力をすべて使用しても尚倒しきれなかった時の心配と、そしてあそこまでグレイスを怒らせたその坊主への賞賛くらいなもんだ」


 そしてドナルドは内心思う。


(やっと……、やっとグレイスに春が来たか……)と。


 そして同時に思い……かけて止めた。もう一人の晩年独身女には春は来ているのだろうか、と。アレに関しては考えるまでもなく答えは出るだろう。否だ。

 だがしかし、彼の脳裏にはそんな考えとともに一抹の嫌な予感が燻っていた。


(グレイスが封印を解除するのは……なん年ぶりだっけか。全盛期でさえ一度放っただけで倒れそうになってたんだ……。今のババアじゃ間違いなく一度で意識が途絶える)


 それほどまでにそれらは強烈で、何よりも凶悪で、全世界でも有数の『一撃必殺』という名が似合う魔法ではあるが、それでも、それらの魔法の魔力使用量はグレイスの限界に限りなく近い。

 だからこそ、考えるのだ。


(もしも……、もしもグレイスが倒しきれなかった時は……)


 Deus級でさえ倒せない相手を、error級の自分が倒さなければならなくなるのだ。

 それはなるべく避けたいし、もしもそうなったとしても、その時は弱体化していることを望むばかりである。


「まぁ……」


 そう言ってドナルドは視線を前へと向ける。

 そこには今なお戦闘中の副リーダー様の姿があり、



「あの人が負ける相手なんざ、ワシらが勝てるわけないんだがな」



 ドダダダダダダダダダッ!

 あまりの連打に空気が音を立ててはじけ、風圧がまるで衝撃波のようになってバアルを襲う。

 それらを何とか間一髪で躱しているバアルは内心で冷や汗をかいており、その姿は未だ人間のままではあるが、能力値的には原型をとどめて置ける直前まで『根源化』を発動させていた。


(クソッ! ここまで厄介だと知っていれば混沌にでも力を借りたものを……ッ! あの混沌(アマ)もこういう時に限って使えない……)


 既に彼の内心からは厚化粧は剥がれ始めていた。

しかも、それは今現在進行形でメフィスト経由で混沌へと伝わっており、それを知った混沌がとんでもなく激怒しているのだが──まぁ、それはまた別の話。

 バアルは思いっきり後ろに飛んで翼をはためかせると、残る片手を前に、その魔法を発動させる。



「『火竜皇の息吹』ッ!」



 炎魔法Lv.5、火竜皇の息吹。

 大悪魔が使うには名前負けしているようにも思えるが、その威力は絶大、間違いなくDeus級にも通用する威力を誇っている。

 けれども、


「邪魔ぞよ」


 パキィィィィィンッ!

 一瞬にしてその炎は青白く凍りつき、直後に彼女の拳によって粉々に砕け散る。


「なっ、なんだとっ!?」


 最大威力を誇るその魔法。

 Deus級でさえ傷を負うその一撃をあろう事か一瞬で氷漬けにし、その上で拳で砕くなど──それは間違っても格下や互角の相手の出来ることではない。


「まぁ、なかなかいいウォーミングアップにはなったぞよ」


 気がつけばその声がすぐ近くから聞こえてきて、彼は思わず視線を下げる。

 そこには、超高密度の魔力を手に纏う彼女の姿があり、原初の悪魔バアルは今になってその事実に気がついた。

今の今まで──手を抜かれていたという事実に。


 ──超殲滅魔法。


「ま、まっ……」


 グレイスの呟きと、バアルの必死な命乞い。

 その直後に放たれるは、当たれば必死、ならずとも瀕死の一撃必殺技。



「『氷魔絶拳(グレイシスブロー)』ォッッ!」



 その拳は確実にバアルを捉え、それと同時に光が弾けた。




 ☆☆☆




「はぁっ、はぁっ……」


 荒い息が彼女の口から吐き出される。

 グレイスは、殲滅魔法を使っても尚、その意識を留めていた。

 それには魔法の余波が止み、その場へと訪れたドナルドも思わず「ヒュゥ」と口笛を鳴らす。

 ──否、そこではないか。


「おうおう、これまた派手にやったなぁ。この活火山もあまりの寒さに停止したんじゃねぇか」

「に、にははっ、なれば良し。……活火山が停止するなぞ、安全で良いではないか」

「俺達の溶岩熱の鍛治が出来なくなんだよ、ちったァ考えて行動しろクソババア」


 そう言ってドナルドが視線を向ける先には、懐かしく感じられるほどの破壊の跡に、身体の五分の四近くが吹き飛ばされ、凍り付けにされた『原初の悪魔』バアルの死体が。


「す、スッゲェ……」


 ドナルドのあとをついてきた久瀬は、そのあまりの光景を前に、気がついた時にはそう呟いていた。

 もはやここまで見せられれば彼女がギンの師匠であることは明らかであり、つい先日まで弟子だと思い込んでいた自分が少し恥ずかしくなった。


「そ、その……、勘違いしてて悪かったな、グレイス………さん付けはした方がいいよな?」

「にははっ、急に何ぞよ、気色悪い。別に、呼び捨てで構わんぞ」


 グレイスはその場に大の字で横たわると、そう疲れきったように口にした。

 その言葉からは『どうでもいい』という感情が心底伝わってきて、久瀬はなんだか無性に『さん』付けするという行為が馬鹿馬鹿しくなってきた。

 だからこそ久瀬は呆れたようにため息を吐き──



『今すぐ逃げろ、久瀬竜馬』



 頭の中に響いたその声に、彼は考えるよりも先に従っていた。

 たまたま近くにいたパーティメンバーの手を握って身体を伏せさせる。それはあまりにも強引で、いきなりの久瀬の行動に彼らは皆眉を潜めた。

 けれども──


『油断大敵ですよ⋯⋯、お二人さん』

「ぐふっ⋯⋯」


 視線をあげる。

 その先には腹部から手の生えたドナルドのと、それを目を見開いて見つめているグレイスの姿があった。

 二人の顔にはそれぞれ『有り得ない』という感情が浮かんでおり、その男はドナルドの背中からその手を抜き去ると、彼の身体を捨てるように蹴りつけた。


「ぐはぁっ!?」

「ど、ドナルドッ!?」


 ドナルドの苦痛にまみれた声が漏れ、グレイスの悲鳴が響き渡る。

 視線の先にはコウモリの翼を生やした男の姿があり、先程までほとんど原型をとどめていなかったその身体は、今度は別の意味で原型を留めていなかった。


「大悪魔、バアルなのか⋯⋯?」


 気がつけば久瀬は立ち上がっており、呆然としたようにその男へと問う。正確には男かどうかすらもわからないが。

 盛り上がった黒い筋肉に、悪魔のようなその長い指、そして鋭い爪。

 その両の瞳があった場所にはただ赤い光が灯っているばかりであり、その顔は人間のソレとはかけ離れていた。

 言うなればそう──怪物の顔。


『殺したと思いましたか? 残念でした、私は再生能力がこの上なく高い個体でありましてね』


 そう言った彼は、その正体を自ら明かした。


『私のモチーフは、万物変身の能力と高い再生能力、そして高度な肉体を誇る──言わば吸血鬼の上位個体』



 ──根源化・ヴァンパイア。



 彼はそう告げて、悪魔のように微笑んだ。

ヴァンパイア(魔物)

身体能力、回復力、魔力も吸血鬼族よりも優れる魔物の一種。

吸血鬼族の回復力(不死力)が血液によるものに対し、ヴァンパイアの不死力はHPのようなものであり、強い攻撃や度重なるダメージで削り取れる。


グレイスとドナルドがやられた!

どうする久瀬竜馬!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ